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【#あんクリ製作委員会】あんクリ小説版/いろり庵のあすかさん-12〈後編〉

私たちの初めてのおつかいは、近所の神社で開かれているとりいちで商売繁盛の熊手を買うというもの。

当時、私とハルくんは小学1年生。
そろそろ大人がいなくても買い物に行けるようにさせたいとおばあちゃんが計画したものだった。

「いいかい、あんたたち。出店に着いたら、2つくださいってお店の人に言うんだよ。
うちの分と、晴人たちの家フローリストたちばなの分で1つずつだ。
3人一緒ならできるね?」

私たちの目を交互にじっと見ながら言うおばあちゃんに、
「あすかがやれるんなら俺にもやれるし!」とハルくんが自信満々に答える。

「よーし、その意気だ。気をつけて行っておいで。はぐれないように、しっかり手を繋いで歩くんだよ」

余計な物は買うんじゃないよ、と付け加えたおばあちゃんの声を背に、私たちは3人で手を繋いで歩き出した。

・・・

「ねぇ〜、わたあめ食べたい〜」
「ダメだよ、ユウちゃん。
おばあちゃんが余計なものは買うなって言ってたでしょ?」

神社に着いて早々に、屋台の食べ物につられたユウちゃんがだだをこねる。

たこ焼きにベビーカステラ、チョコバナナ。
とってもおいしそうだし、本当は私だって食べたいけど、おばあちゃんの言うことは守らなきゃ。

「あ!『くまで熊手』ってあれじゃね!?」

キョロキョロと周りを見ながら歩いていたハルくんが指差す先を見ると、お店に飾ってあるものと同じものを売っている屋台がある。

「本当だ!あれを2つ買えばいいんだよね」

列に並んで順番を待つと、ほどなくして私たちの番になった。

「くまで2つください」

「はいよ、2つで3万円ね」

お財布から1万円札を3枚取り出してお店の人に渡すと、大きなくまでが2つ入った袋を手渡される。

「まだ小さいのにえらいねえ、気をつけて帰るんだよ」

ありがとうございます、とハルくんと2人で頭を下げると、私たちは屋台の前を離れた。

・・・

「ねぇ〜、おなかすいた、なんか食べたいよ〜」
「ダメだって言ってるだろ、悠人!ふじえさんに怒られちゃうよ」
「やだ〜!なんか買ってよ〜!」

ユウちゃんの目は涙でうるんできている。
大変、ユウちゃんが泣き出す前に帰らなきゃ。

「ほら、早く帰ろう、ユウちゃん」

少し強めに手を引いて、前へ進もうとしたその時。

「あ!りんごあめ!」

私とハルくんの手をパッと離すと、ユウちゃんは一目散に走って行ってしまった。

「おい!悠人!」
ユウちゃんを追って、ハルくんが慌てて走り出す。

「ハルくん、待って……!」

3人で手を繋いで歩きなさいって言われてたのに。
どうしよう、みんなバラバラになっちゃう……

・・・

「あすか!悠人いた?」
「いない……」
「こっちもいなかった。クソ、あいつどこまで行ったんだよ」

りんご飴の屋台に着いた時には2人ともおらず、歩き回っているうち、やっとハルくんと合流することができた。

「ユウちゃん、お腹すいたって言ってた。何か買ってあげればよかったのかな」
「俺らはふじえさんの言うこと聞いてただけだろ。なんにも悪くないよ」

このまま見つからなかったらどうしよう。
思わずうつむいたその時、

「…………いた」

突然ハルくんがぽつりと言った。

「え!どこ?」

「あれ」

ハルくんが指を差した先には、大きな木の下でしゃがみ込んで猫と遊んでいるユウちゃんがいた。

・・・

「あんたたち、遅かったじゃないか!何やってたんだい!」

行く時よりもしっかり手を繋いで帰ると、おばあちゃんとおじさんたち2人の両親が外で待っていた。

「だってさあ!
俺とあすかはくまでだけ買って帰ろうとしたのに、悠人がわがまま言うから!」

「だっておなかすいたんだもん〜〜〜」

ハルくんが怒ったように言うと、ユウちゃんが再び目をうるませる。

「で、でもね!くまではちゃんと2つ買ったよ!」

だからもう怒らないで。
そう願いながら私が言うと、大人たちはぽかんとした表情で顔を見合わせた。

「………っふ、」

おばさんが笑い出したのに釣られて、おじさんもおばあちゃんも肩を震わせて笑う。

……怒られると思ったのに、なんで笑ってるんだろ……?

「っふ、ふふふ、
そうね、お願いした物は買って来てくれたのよね」

「そうだな、皆えらかったな」

「でもねぇ、悠人、あんまりあすかや晴人を困らせるんじゃないよ」

お腹が空いたならたい焼きでも食べて帰りな、
そう言いながらお店のドアを開けるおばあちゃんは、どこか嬉しそうだった。

***

「あすかも兄貴も小学校に上がったばかりなのに、3歳の俺、すげぇ迷惑かけてやがる……」

額を押さえながら項垂うなだれるユウちゃんを見て、私は思わず笑ってしまう。

「まあでも、今となってはいい思い出だね」

……もしこの場にハルくんがいたら、どんな表情かおで話をしただろう。
ふと湧き上がった気持ちを抑えるように、私は机の下でぎゅっと手を握りしめた。


***

あすかさんたちの初めてのおつかい、いかがでしたか?

初めてのおつかいに2つで3万円もする熊手をチョイスするふじえさん、なかなか豪快ですよね💭(書いた人が言うことではないですが……笑)

最後までお読みいただき、ありがとうございました☺️


*「あんこちゃんとクリームくん」作品集


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