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ドラマ『消えた初恋』は優しさで溢れている

想像してみてください。もしも親しい友人から、「実はいま好きな相手は自分と同性のひとなんだ」と告白されたら、どういう返事をするかを。

さて、ドラマ「消えた初恋」も佳境に入り、とうとう主人公の二人は「お付き合い」のフェーズに踏み込みました。終わってほしくないと願うのですが、現実は残り2話という。

消えた初恋が少女漫画である安心感

このドラマが発表された当初、私は原作を知らなかったため、先入観から「ジャニーズが二人で恋愛ドラマって随分色モノが来たなぁ」と思いました。これは懺悔です。始まってみたらこの作品はとても丁寧かつコミカルに高校生の関係性を描写していて、同性の恋愛ものという色眼鏡で見ることがあまりにも勿体ないようなすばらしいドラマでした。

そもそもこの原作は今も別冊マーガレットというがちがちの少女漫画誌で連載され、少女漫画として書店に並んでいるわけです。BLマンガというのはゾーニングされていてそれこそが区別という名の差別を心理的に作っていないだろうかとしばしば思うわけですが、この作品が少女漫画である安心感はこの上ないわけです。ジャンル分けするなら、乙女がきゅんとする作品という看板だけでいい。

とはいえ原作からすればエピソードは端折られているのでしょうが、ドラマだけ見ていて急いでいる感は全くありませんでした。短いドラマながらも丁寧に心情を追っているなと感じられ初回から好感がもてました。

井田くんのまっすぐさに、どうしてかドキドキし始めてしまう青木くんの揺れる心に視聴者はじわじわと共感し、

優しくて友人想いの青木くんに惹かれていく井田くんの心にも寄り添えるように視点が展開していくのです。

多くの方が心のなかで呟いたことでしょう。「こんなにかっこよかったら同性でも好きになっちゃうの、分かるよ」。

そこで、冒頭の質問をもう一度。私達は友人から、同性を好きなんだと打ち明けられたとしたら、いったいどんな返事をするでしょうか。

個人的な話をします。不要な方はどうぞ飛ばして読んでください。

私は…実は友人に、青木くんのように打ち明けた経験があります。学生時代、いわゆる恋バナで盛り上がっていたとき、つい、、、軽く言ってしまったんですよね。その日のことを10年経っても私は忘れられません。特別に仲良しのはずの友人たちが、しんと静まり返って言葉を探していた表情を。

どんなに親しい友人でも、きちんと「実は大切な話があって」と前置かなければ、優しい言葉を用意できないことを私は痛感し、反省しました。

私は好きになったら性別は関係ないという恋愛志向「パン・セクシャル」を自認しています。私にとっては好きになった人がたまたま女性だっただけで、同性愛者になったという感覚はまったくなかった。好きになった理由も「いつも声をかけてくれて優しい」とか「楽器を弾く姿がかっこいい」とかいたってフツーでシンプル。もし青木くんの恋愛志向に言葉を当てはめるならパンセクなのかな? でもそんな結論じみた用語で表すのは野暮だなと思うくらい、消え恋は自然で優しくて尊いのですが。

ともかくそんな経験もあったから、私は青木くんの恋心が橋下さんに知られてしまったとき、橋下さんが言った一言がとても嬉しかった。

人を好きになるのに、ヤバいなんてこと無いよ!

ドラマ消えた初恋 3話

私が橋下さんの立場だったとして、咄嗟にこんなにも優しい言葉が、出るだろうか?

自分に置き換えてみて、その優しさにまた感激しながら、反省もしました。

現実でも岡野先生に憤れるか?

8話は、そんな激ヤバ良い奴しかいない消え恋ワールドに初めてやってきた偏った視線の持ち主、岡野先生の登場回でした。青木くんに向かって戸惑いながら「そうだって知らなかったから」と言った岡野先生を、私は責めることができません。私だって誰かの志向を、知らぬ間に嫌厭してしまっているかもしれないから。消え恋の中の岡野先生は嫌なヤツだけど、現実世界ではまだまだよくいる存在だったりもする。

私達は自分の経験したことから想像力を養っていきます。だから経験したことの延長線上にしか共感の気持ちは持てないというのが私の持論です。限られた人生経験の中で、自分に理解できない志向は山ほどある、と自覚すべきだと思う。

だからこそ、理解できない!と思った瞬間にどんな態度を取るかってひととしてとても大切なことだと思います。醤油ラーメンも塩ラーメンも味噌ラーメンも、人には人の好み。井田くんのように、橋下さんのように「そうなんだね」と言えることがなにより優しさなんじゃないかと思うのです。

この岡野先生のエピソードに対して、Snow Manがライブで話をしていたという断片的なレポを読みました。誰かの記憶、誰かの個人的な切り取り方で書かれた文章であることを留意しなければなりませんが、どうやらメンバー何人かで放送を見た際岡野先生に対して「どうして分かんないんだよ!」と言いながら見ていたというような話でした。

私はこのエピソードに胸を締め付けられました。

ドラマ消えた初恋を見て岡野先生にもやもやした人たちには、フィクションの世界でだけじゃなくて、いつか目の前の誰かが偏見に晒されていたとき気がつける人であってほしい。現実でもその憤りを持てる人であってほしいと思いました。

視聴者が岡野先生の偏った視線に憤れるのは、青木くんが井田くんをどうして好きになったか、どんなに考えてそれを伝えたか知っているからのはず。青木くんの気持ちも、井田くんの気持ちもその過程を追体験しているからこそ、「どうして分かってくれないの?」と怒ることができる。

現実世界では、誰かが誰かを好きになった理由なんてほとんど知ることができません。よっぽど親しくて根掘り葉掘り聞いたならともかく、突然知らされるのは「事実」だけだったりする。だからやっぱり、いきなり共感や理解に辿り着くのは難しいんだと思います。

LGBTQは事実であり結果だけど、そこには一人一人それぞれの過程が必ずあるんだと、知って想像してみてもらえたら、嬉しいなぁと思います。

優しさの土台にあるもの

ドラマ消えた初恋には、「LGBTQ監修」として柳沢正和さんのお名前がクレジットされています。

柳沢さんは、同じオシドラサタデー枠の一つ前の作品、ハイスクール・ヒーローズにも関わっていらっしゃいました。

消えた初恋、は原作ももちろんセリフ一つ一つが優しい作品なのですが、ドラマになっても優しい言葉が失われずにいるのはこうしたスタッフさんの手腕によるものなのかなと思い、勝手に感謝しています。

ハイヒロは見ていなかったのですが、こうした多様性を当たり前のようにジャニーズのアイドルが演じる世界になっていけばきっとこうした優しさを持てる人が世界に増えていくのではないかと希望を感じてしまいます。

主題歌の話

こんなことを言ったら「当たり前じゃん」と言われそうだけど、このドラマのふたつの主題歌はどちらも恋する心の機微を描いた曲でありながら、その相手が「女性」であるような表現は一切ないのです。

Snow Manの「Secret Touch」
なにわ男子の「初心LOVE」

なにわちゃんはデビュー曲でこういうフラットな視点の恋愛曲が歌えるの素敵だなと思うし、Snow Manはセカンドシングル「KISSIN' MY LIPS」でも、英語詞の中に性を特定することばがないことが話題になりました。(※12/8修正 ひとしきり話題になったのは2番公開前で、2番で思い切りkiss me girlって言ってましたね笑 それに対して歌詞の”主人公”はもはやDiorのリップなのでは?とする考察とかも出てきて興味深かったことを追記しておきます)

前回はDiorのCMを背負い、今回は多様性を描いたドラマを背負い、Snow Manが性にとらわれないアイドルになっていってくれたら私にとってこんなに嬉しいことはないです。(個人的には阿部さんの衣装に毎回レディースが入っていることもそうした多様性の意味でとても嬉しく思っています)

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今回のブログは以前から書きたいと考えていた内容を、下記のブログ様の投稿を読んだことをきっかけにまとめたものになります。私は少しだけ違う視点からになりましたが、こちらもとても素敵な記事ですのでぜひ。

最後に、もしこのブログを読んでくださった方の中に自分の性自認や恋愛志向にぼんやり納得していない方がいたらこの診断をやってみてください。ちょっとはっとするかもしれません。

いまやアイドルのファンも老若男女を問わない時代。歌詞にしろ雑誌のインタビューにしろ、ファンを女の子と限定しない言葉が普通になる世界が来たらいいな。と思っています。

それではまた、いつか。

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