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EVOJAPAN2024ヴァンパイアセイヴァー"モンタージュ" - gathering of the night warriors

自己紹介

ご無沙汰しております。モリガン使いのおおはししこと、 モーショングラファーの大橋史です。2022年に発売されたカプコンファイティングコレクションからヴァンパイアセイヴァーを遊ぶようになった方は初めましてかもしれません。わたしくは普段広告映像やMVを中心にしたモーショングラフィックス制作やアニメーション演出を活動領域として活動しており、日本企業のDeNA主催のテックカンファレンスの映像や、2023年に話題となった機動戦士ガンダム水星の魔女のエンディング映像を手掛けました。


セイヴァーは2017年の春頃から初めて、翌年妻が第一子を出産を機に幽霊部員のような感じになってしまったのをEVOJAPANというお祭りの存在やミカドの月例大会のおかげで、かなりマイペースですが自分なりにセイヴァーを続けているモチベーションをもらっています。

冒頭の自己紹介で既に言及しているのですが、普段は実写MVの撮影や編集などの実績はありません。自分で言うのもなんですがモーショングラフィックス制作にはそれなりの自信があり、メンタリティは(他人の筆を折らせるぞという意気込みという意味で)豪鬼に匹敵するのですが、実写映像になるとその意気込みは(お茶を濁しかねないという意味で)完全にサイキョー流のような落差があります。ですので、これから話す制作ドキュメントとしては高尚な制作論ではございませんが、来年再びセイヴァーの大会の映像を作ることになれば今回のテキストは糧になると思い記述しようと思った次第です。


なぜ大会の記録を作るのか?

EVOJAPANにおけるセイヴァーの大会はサイドトーナメントと呼ばれるコミュニティによる有志の大会です。つまり私が作った映像は当然CAPCOMやコミュニティから依頼として作っているわけでなく同人活動のような感覚で制作しています。ゲームの大会を過去に何度も参加して思うのは一戦も勝てる/勝てないの結果の違いは、その大会に参加できた楽しさや嬉しさが全く異なるでしょう。正直一勝も勝てないとかなりしんどい。とはいえ、わざわざ時間を作り、家族に相談したうえでゲームの大会に出場するなら「良い1日だった」と心の底から思えるように勝つこと以外の目的としてゲームの大会を記録し作品として残すようにしています。結果的に自分の機嫌取りといえる行動ではありますが、大会を主催するえごさんのモチベーションにつながったり、大会の参加者の方からビデオを観て喜んでもらえるのは素直に嬉しかったりします。

2023年の反省

そんなこんなで関東圏で行われたEVOJAPANのセイヴァー大会は毎回参加して、その度にカメラを回してたのだが、昨年のビックサイトのEVOJAPANでは、大会後に仕事で忙殺されたうえに、2020年の幕張大会のような撮れ高を期待しすぎて、撮影前から作品としてのプランが”出たとこ勝負”になってしまった。ドキュメント映像は撮ってみないと何が作れるのかわからない部分があるのは致し方ないとはいえ、世のドキュメンタリー映像の多くが「制作者の意図を素材を取捨選択し編集して伝播させる」ことを巧妙に行なっている。これまで観てきたドキュメンタリー映画で感動したことを、いざ自分がカメラを回して編集する立場になった途端に、表現したいテーマが見当たらず手が止まってしまった。自分のクリエイターとしての幼稚さにショックを受けました。その反省もあって、有明大会の前に多少なりとも準備や作品のプランを考えておくよう準備を進めることになったのです。

撮影前の準備

dji「osmo mobile 6」(ジンバル)の購入


最近のスマートフォンはスタビライザー(手ブレ補正)機能が搭載されていると聞きますが、私はiPhone SE2という型落ち機なので必須アイテムでした。購入後、近隣の大きめな公園で家族とテスト撮影してみると手ブレがないだけで、少しシネマティックな雰囲気になるのでカメラワークの効果に驚かされました。

実際にジンバルの購入を検討してから実際に手に入れるまでV-LOG制作系のyoutuberの動画で予習したりもした。(余談ですが、普段のアニメーションやモーショングラフィックスのコミュニティ外の映像業界のワークフローや機材の話はかなり新鮮で楽しかったです。)DJIのジンバルよりもinsta360という最新モデルもあり、データ上の性能面も最新機器の方が優れているとはいえ5時間ちかくカメラを回し続けるのであればグリップの持ちやすさやスマホの重心のかかり方など実際に手にとって検証したいと思い、ヨドバシカメラで実機を触って検証をした結果DJIの購入を決定。なによりデバイスとしてカッコ良かったので後悔はありません。

ジンバルを買って画質が上がるわけではないですが、「映像の美麗さが、映像の面白さの本質ではない」ということを白石晃士監督作品から学んだので、古いスマホだけど構成の分かりやすさとカッティングのアイデアでゴリ押しするぞ、という覚悟が決まりました。

EVOJAPANにおけるセイヴァー(の大会)の魅力を整理する

2020年のセイヴァー大会のような撮れ高を期待せず、EVOJAPANにおけるセイヴァーの大会の魅力をどう構成するかシュミレーションしようとした。とは言いつつも、実際に撮影してみないと何が撮れるがわからない部分もありつつも、これまで自分がセイヴァーの対戦会や大会で感じたことを羅列すると、

  • ゲームの圧倒的なスピード感

  • 美しいアート

  • 層の厚いコミュニティ

  • 四半世紀やり込んでるプレイヤーの凄み

  • トーナメントを勝ち残った決勝戦の緊迫感

  • アドヴァンシングガードの型がみんな違う(剣術の流派のよう)

  • 実況の聞きやすさやゲームの面白さを伝えている

  • ブラウン管の筐体の存在感

  • スタイリッシュな音楽

  • 会場の賑やかさ

  • 会場の外観

これらの要素を映像のトーンをコミュニティ主催イベントとして重要な「楽しい大会」から対戦ゲームをやりこんできたプレイヤーをリスペクトする意味でも「真剣勝負のカッコよさ」が伝わるように徐々にフッテージを編集する際の意味づけをシフトチェンジするように構成しようと事前に考えた。

大会のアーカイブを実況とゲーム音声を別チャンネルにするよう相談

主催のえごさん伝で配信担当のへっキーさんに相談。神対応でした。

撮影後に気づいたこと(反省点)

カメラワーク

歩きながらの撮影やジンバルを使ったパンニングなど会場の臨場感が伝わりやすいけど、映像としてのクオリティを上げるなら無理にカメラワークをつけずにフィクスっぽいフッテージも用意した方が音楽に合わせた編集が使いやすくなる。あとは大会冒頭のクラッカー投げも、引きかつ見下げる感じのアングルだと冷静に大会の雰囲気を伝える形になってしまうので、(さすがに2カメ必要とは思うが)できれば煽り&運営側の掛け声を撮り納めたい

カメラ露出

スマホのカメラ機能の問題でもあるでしょうがない部分だが、自然光が強い環境でないかぎりISO荒れしてしまうので、ISOは低めにとっておいてカラコレ(撮り溜めたフッテージの明度やカラーバランスを統一する工程)するようにしても良かったかも。

バッテリー

使い込んだスマホのバッテリーに気を取られてジンバルの充電ケーブルを忘れたので、次は気をつけたい。

編集工程

楽曲選定

格ゲーの大会映像は、ある程度作品の構成を想定しつつも楽曲ありきな部分もある。大学生時代に音楽家の講師の方が「映像作品のクオリティは音楽で決まってしまう」という言葉通り、音楽の持つ作品のトーンを支配する力を侮ってはならない。特に映像のカッティングも音楽の編成に依存する部分もある。セイヴァーのスピーディーな展開に似合う曲を検討すると、BPMは高めで緊張感のある曲が良い。編集する前にヴァンパイア関連でどんな音楽が良いか検討したが、ファイコレの書き下ろし曲で初代ヴァンパイアのデミトリステージのアレンジ曲を使用することにした。カプチューンアレンジによるエレクトリックジャズのようなスピーディーなインプロビゼーションはセイヴァーのゲームスピードにも似合いそう。

映像の構成

編集は一見撮り溜めたフッテージを「良い感じ」に切って繋げてるように見えるが、実際は編集さの作為にまみれた工程です。その作為とは意味づけで、セイヴァーの大会映像の場合は

  • どこで(有明GYM-EXで)

  • なにが(EVOJAPANが)

  • どれくらいの参加者が(かなり多い参加者が)

  • なんのゲームに(ヴァンパイアセイヴァーに)

  • 熱狂しているのか?

  • セイヴァーの魅力とは?(ゲーム画面を映してスピーディーな展開を見せる)

  • 具体的に年齢層は?(20代もいそう!)

  • ジェンダーに偏りはあるのか?(男女共に楽しんでる!)

  • セイヴァーの魅力は?(手元を映して操作方法の違いを見せる)

  • 参加者の気持ちは?(真剣!)

  • 大会の結末は?(bowオルバスとナカニシビシャモンの一騎打ち!)

といった感じで導入部は大会環境の説明と中盤はコミュニティの紹介、そして終盤は大会の結末を描いている。コンテこそ書いてないものの、映像の構成は意味づけを生む(モンタージュ効果)ので、意識的にフッテージの並べ方には気を使った。

グレーディング

実写の映像はアニメーションとは違ってカメラに入り込んでくる情報がメインのモチーフのプレイヤーよりも、その抜けにある鮮やかなメガホンや他のプレイヤーが来ている主張の強いTシャツなど、主役に意識を集中させるためにはカラーグレーディングという色味を調整し世界観を作るための工程が必要だった。

実写映像のグレーディング技術はほぼ皆無だったので、カラリストyoutuberの動画で予習しpremierで作業。本来ミラーレスカメラでRAWと呼ばれるコントラストの浅い映像として記録し、その映像素材を編集で色味を調整して世界観を作っていく。今回のケースでは、そもそも古いスマホのカメラで撮影しているのでISOも荒く、カラーバランスもめちゃくちゃでカラコレからのグレーディング作業はかなり大変でした。一旦RAWのように肌色にあたるイエロー〜オレンジ部分以外の彩度を落としてから画面全体シアンに寄せて、その後スキントーンの調整をしました。

ドキュメンタリー映像でシアンが強めの映像って、漠然とですが多いイメージを持っていましたけど肌色と補色対比がおきて人物に視線が集中しやしくなる、、、という学びを得ました。

カッティング

一番気合が入っているし、自分が格ゲーPV作るなら他の格ゲーPV業者が思いつかないアイデアをカッティングでブチ込みつもりでいた。各楽器の編成に合わせてプレイヤーの手元をカッティングしてピアノの演奏やギターのフリに合わせてAGやチェーンコンボをしているプレイヤーの挙動と音楽が同期して、不思議な共感覚性が生まれて楽しかったです。

タイトル

えごさんから「動画のタイトルどうする?」と言われてハッとした。他の案として『gathering of the night warriors』もあった(副題的にえごさんがyoutubeの説明欄に残してくれている)デミトリのテーマ曲の名前を引用したもの。結果的にわかりやすく『モンダージュ』になったけど、映像とタイトルの相互作用が生まれるようなタイトルにしても良かったかもしれない。

終わりに

序文でも書いたのですが、大会映像が公開されて1週間ほどですが大会参加者の方が自身をフレームインしているところを喜んでもらえて良かったですし、コスプレで参加した方からもクレジットにコスプレ枠を用意したら「宝物になりました」と感想を頂けて頑張った甲斐がありました。普段エンターテイメント系の仕事に携わることが多いですが、実際に作品を喜んでもらえる人から直接感想をもらうことは意外とないものです。既得様式を引用しがちなエンタメ仕事に対するモチベーションが下がりつつあったのですが、頑張っていこうとう気持ちが湧いてきました。本当にありがとうございます。

これで私のEVOJAPAN2024がようやく終わりました。昨年の反省を踏まえて今年は責務を果たせて安堵しております。来年、仮にまたセイヴァーの大会映像を作ることになった時に新しいアイデアが準備できてるようにしたいです。

そして、改めて大会を運営したえごさんをはじめとする運営チームの皆様、素敵な大会を開催していただきありがとうございました!


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