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"エロ界隈" でよく見かける「あまりに哀しい目くそ鼻くそ事案」の不思議


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見かける度に心が不穏になる光景……

優先順位的に今これを取り上げるのはどうかとも思うのだが、個人的にどうしてもスルー出来ない哀しい光景を目撃してしまったので、今回は批判ではなく「哀しいあるある」として書きたいと思う。

何日か前の記事でDBS制度について解説したが、それに通じる内容でもある。20年近く前にAV女優として活躍し、その後ライターや漫画家として活動している峰なゆかという人物がいる。

彼女のXでの発言がちょっとナニがアレな内容だったため、炎上してしまったのだ。現在は閲覧回数が約800万あり、それに対してイイネは1万件ほどしかないため、閲覧者の殆どが "批判" に偏っていると言っていいだろう。

そのポストがこちらなのだが、まあロジックとしてかなり隙が大きく、残念だが「燃えて当然だ」と言うよりない。

だが、こうした「自分の職業・経歴を棚に上げて他を下げる」ような主張は、セックスワーク業界(及び経験者)の間では "あるある" と言っていいよく見る光景なのだ。

まずは、峰氏のポストのどの部分が問題だったのかから解説を始めたい。


「1回目の犯罪を防げないから」……え?

最初に申し上げておくが、私は峰なゆかという人物に対して、AV出演強要騒動の際には「とても複雑な業界の現実を、最も分かりやすく世間に伝えられる人間のひとりだ」と感じていた。

伊藤和子や金尻某など、AVを絶対悪とし「AV女優は全て性搾取の被害者である」と決め付けてかかるような事はせず、自分が何を見て来たか、どんな人間がいたか、そしてそうした人達はどのような気持ちでいたのかを、マンガという手段で非常に丁寧に描いていたのだ。

私は男だし、AV監督という作り手側だったので、結論の部分で多少の相違はあったものの、彼女の主張は納得できるものが大半だったように記憶している。特に上の文春の連載で取り上げられた部分など、自分自身の視点(実体験)とメタ視点の使い分けが秀逸だったと評価したい。

だが、そんな彼女でも "2次元エロ" や "ロリコンテンツ" が相手となると、急に伊藤和子や金尻某らと同レベルの極論家になってしまう。

子供が性被害に遭う事を防ぎたいのは分かる。私も親であるし、男女関係なく、なんだったら自分の子供も他人の子供も関係なく、性犯罪から守りたいと心の底から思っている。

だが、だからといって「ロリ系コンテンツを閲覧しただけで、生涯子供と関わる職業に就けなくなると脅しかける」なんて発想にはならない。これはいくら何でも論理飛躍し過ぎている。

案の定、このポストに対して「子供に悪影響を及ぼすからAVに出ていたような女は人前で喋れないようにすべきだ」的な極論に極論をぶつけるような批判が相次いでしまった。

そう、エロコンテンツに対してこのような批判をするという事は、元AV女優である自分自身も「性犯罪の片棒を担いでいました」と言っているも同然になってしまうのだ。何故なら、何らかのコンテンツと犯罪との因果関係を認めてしまっているのだから。

峰氏はここで「コンテンツと犯罪との間の因果関係は立証されていない」と言うべきであったのに、逆に「エロコンテンツが犯罪を引き起こす」と(実質的に)言ってしまったのである。

「犯罪行為と量刑」「どの時点から権利を制限すべきか」「人権と人権のぶつかり合い」……こうした複雑なおもりをいくつも天秤に乗せてバランスを取って行くのが人間の知性だと思うのだが、峰氏ほどのひとであってもこの落とし穴にハマるのかと、非常に哀しい気持ちにさせられた。


弱い者達がさらに弱い者をたたく

峰氏の炎上ポストに対して最も寄せられたのが、この小見出しにある、ブルーハーツのトレイントレインの一節だ。

「弱い者達が夕暮れ、さらに弱い者をたたく」

世間の大多数の人々はまさにこの歌詞の通りの感情を抱くのだろうが、実はこの「自分より弱い者をたたく」言い換えると「自分より下を作る」というのは、セックスワーク業界ではよくある話である。

女性が就く "裸のお仕事" というと、ヌードモデル・ダンサー・ストリッパー・AV女優・風俗嬢など色々とあるが、そうした職業にある女性が、他の裸仕事を下に見ようとするのだ。

たとえば、ストリッパーが「私は裸を売り物にしているが、AV女優や風俗嬢と違って性行為そのものを売っている訳じゃない」と。AV女優が風俗嬢に対して「私はプロとして性行為を撮影させているだけであって、小銭のために不特定多数と寝る訳じゃない」と。

今回の峰氏の主張は、そこに "2次元エロ" が加わった形なのである。「私は成人女性としてエロをやっていたのだから、子供を性欲の対象とする2次元コンテンツ及びその消費者とは別である」と。

これは峰氏のようなAV女優・元AV女優に限らず風俗嬢等でも同様で、現実の女性の権利だとか、セックスワーカーの待遇改善といった話になると理論的・現実的な話が出来るのに、ロリコンやペドフィリア、もしくはそうした2次元コンテンツが相手になると急に狂っちゃうひとが過去にどれだけいた事か。

みんな下を作らないと自分が保てないギリギリの精神状態なんだよ。

これはエロ業界に身を置いた事のある人間じゃないと、皮膚感覚としては理解できないと思う。なので、峰氏を批判するより先に哀しさが立ってしまい、普段のように「これこれこう!」と強く切って捨てられない自分を理解してくれとも言わない。

ただただ「裸仕事の業界ではよくある話なんですよ」と言うだけである。


ほんのちょっとの我慢をして大同団結してみませんか?

いまやAVも2次元コンテンツも、あらゆるエロコンテンツが難癖つけられて槍玉に挙げられている。妙な法律を作られたり、販売場所を奪われたり、あの手この手で弾圧の対象になっていると考えていい。

ようは「世の多くの人々が苦しくて辛くて、自分より下を作ろうとしている」のではないだろうか。エロという括りがスケープゴートに使われているようなものだ。

そんな状況で、同じエロという枠の中で殴り合いをしている場合ではない。

エロという大きな枠を丸ごと下に見てくる "世間様" からしてみれば、自分とは少々ジャンルの違うエロをいくら足蹴にしたところで、自分のケガレが祓える訳ではない。自分だけがケガレから逃げられる訳ではない。

ひとまずそう諦めて「自分とはジャンルの違うエロを叩いて細分化させ、各個撃破される愚」だけは回避すべきではなかろうか。

いまAV新法の改正に向けて、改悪反対の声を挙げている方が大勢いるけれども、本来ならばあそこに他のエロジャンルからの援軍が多数集結してもおかしくはなかった。

ところが、悲しいかなそういうドラマチックな動きにはなっていない。

風俗業界からもストリップなどのショーの業界からも、そしてマンガやアニメといった2次元コンテンツの業界からも、"大きな塊" としての援軍はやって来ていない。

今回の峰氏のポストには、その理由の多くが詰まっているように思う。

いまのエロ業界に必要なのは、多少の差異には目をつぶり、同じエロとして3軒隣くらいまでの相手と血盟を結び合う事である。「それが出来なかったからいまがある」と悟るべきである。


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