華麗なるDingDong伝説 第二話

※この記事は、2008年に旧ブログに掲載した記事の転載です(一部修正)

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前回は面白キャラの紹介に特化してしまったので、今回は趣向を変えて当時のゲーセン業界の内部事情なんかを中心に書いてみる。

さて、初回はDingDong仲宿店でのアルバイト初日の出来事について書いた。このDingDongというゲーセンは、高田馬場に本社がある(あった?) コインゲームという会社が持っていた店だったのだが、そこから独立した人物がD1企画(仮名) という会社を立ち上げ、店名はそのままに仲宿店と大山店の他に大森だ越谷だとあちこちに店を持っていた。
このD1企画は後に倒産して社長が夜逃げしてしまったのだが、DingDongという屋号のゲーセンは今でも残っている。(恐らく親会社的存在だったコインゲームが引き取ったんじゃなかろうか?)

またD1企画はゲーセン経営の他にゲーム筐体の製作も行っていて、メダルゲーム機の開発で一山当てたこともあったらしい(他にも地方のゲーセンに筐体を卸してたり、ゲーム基盤を流してあげたりと問屋機能も持っていた)。

言ってみればゲーセン業界の総合商社的な会社だったのである。

こうした実績から業界内ではそれなりに人脈があったらしく、新作ゲームのロケテ場所にも選ばれ、いち早く話題のタイトルがドカドカ入ってきたり、また他の店では扱ってない面白い景品が次々と入荷してくる不思議な店だった。

しかしその裏で伝説の違法改造基盤 "レインボースト2" を作って売り捌いたりしてたんだから実に腹黒い。腹黒いってかアレだ。典型的なゲーム業界によくいる山師とかゴロツキの類だ。

さて、オレがこの店で働いていたのは90年代の中頃だったんだが、その頃のゲーセン業界はかなり雲行きが怪しくなっており、惰性で発売され続ける格闘ゲームを、これまた惰性で遊び続けるマニアと、見た目が派手な大型筐体に飛び付いてすぐ飽きる一般人、そしてUFOキャッチャーなどの景品機に群がる女子供だけで食い繋いでるような有り様だった。

今にしてみれば、昔ながらのいかがわしいゲーセンから、明るく清潔なアミューズメント施設へ移行する、最後の転換期だったようにも思う。そんな中でD1企画のDingDongという店は、言うまでもないが "昭和のブラックなゲーセンの残党" というべき存在だった。

しかしいくら昔ながらのブラックゲーセンとはいえ、時代の流れに逆らっては食っていけない。かといって他と同じ品揃えでは淘汰されるのを待つばかりになってしまう。

従って社員もバイトもあれこれとアイデアを出し合って、他にはないサービスで稼ごうという話になったのだが、クセのあり過ぎるDingDongスタッフがまともなアイデアなど出すはずもなく。

<アイデア1> 景品機にバッタ屋から買って来たAVを突っ込む
<アイデア2> オタク人気の高いギャルゲーなんかの景品を独自ルートで買い漁ってきて景品機に突っ込む
<アイデア3> 流行しそうな物を他に先駆けて何でもかんでも集めてきて、自分達で工夫してとにかく景品機に突っ込めるようにする
<アイデア4> 流行りそうなプライズマシンが発表されたら独自のルートでとにかく速攻導入する
<アイデア5> プリクラっての流行ってんの?じゃあ自分達で機械作って売ろうぜ!
<アイデア6> TVゲーム?なにそれ?うまいの?

社員が揃いも揃ってヤクザ脳だったため、出てくるアイデアの殆どが "人気の出そうな商品を安い内に大量に仕入れて、とんでもない低確率でしか当たらない景品機に入れる" という、テキ屋そのものの手法ばかり。

しかしこれが実は大正解だった。

TVゲームは対戦格闘含めてどれもこれも旬が短すぎ、しかも基盤自体が高いためインカムでは回収不可能。だから言い訳程度に店の奥に並べておくだけにして、主な収入源は景品機だと割り切る。この発想は今ではゲーセン業界の常識となったが、その当時はTVゲームを切り捨てる英断を下せる経営者は少なかった。

しかし当時はキーホルダー状の景品をアームで取るコンビニキャッチャー (バンプレスト)や、スティックポスターブームを作った立役者のポスタードリーム(バンプレスト)、そして斜陽のゲーセンが生き残るチャンスを与えてくれた神ことプリント倶楽部(アトラス) といった魅力的なプライズマシンが続々と新登場した時期だったため、アイデア次第でTVゲームなどバカバカしくなるほどのインカムを稼げるビジネスチャンスでもあったのだ。

DingDongはテキ屋体質全開でこうしたプライズマシンにどこから仕入れてきたのかわからないような景品を入れまくり、TVゲームで抱えた負債をプライズマシンで取り返してみせたのだ。

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