華麗なるDingDong伝説 第一話

※この記事は、2008年に旧ブログに掲載した記事の転載です(一部修正)


これは1993年だか94年だか、オレが18~19歳くらいの時の話だ。

それまでアルバイトしていた板橋区のレンタルビデオ屋が経営不振でナニがアレな事になってしまい、事務所に赤い紙がペタペタと貼られまくるという事態になってしまった(いわゆる差し押さえ的な)。

こうなっては仕方なしと、オレはそこでのバイトを辞め、当面の生活費を稼ぐために新しいバイト先を探す事にしたのだが、中々 「コレだ!」 と思える巡り合わせがない。

求職雑誌を読んでみたり、知り合いのツテを辿って何か面白い仕事がないか探していたのだが、結果として半月くらいニートな日々を送る事になってしまった。

そんなある日、地元の板橋区仲宿の商店街をブラブラしていると、小学生の頃から通っていたゲームセンター『DingDong仲宿店』 の店先に、「バイト募集」 の張り紙を見つけた。

元々ゲーム&ウォッチだのLSIゲームだのカセットビジョンだのとゲームは大好きだったし、駄菓子屋ゲーセンでムキになって魔界村を1コインクリアした程のゲームっ子だったオレは、いっそ自分の好きなゲーセンでアルバイトしてみるのもいいかと思い、後の事をあまり深く考えずに履歴書を持って行った。

面接を担当してくれた店長(T村氏) はオレが子供の頃から見知った人であり、向こうも向こうで 「お前よくこの店来てたよな!」 と顔を覚えていてくれたようで、その場でさっさと採用が決定。翌日からすぐに働く事になった。

初出勤の日。早番だったオレは店長と一緒に店に入り、ゲーム筐体の掃除方法とか、灰皿交換とか、1時間に1度の両替機のチェックに景品の補充といった初歩的な仕事から教えられ、気付けばあっという間に夕方に。

初めての出勤日というのは緊張するもんだが、このゲーセンはなんせ小学生の頃から足げなく通っていたかって知ったる場所であり、「わーなんか楽しいなー」 というリラックスし切っていた。


T村氏「そういやお前さ、ガキの頃にレースゲームかなんかでよく寝てなかったか?」

オレ「あー、アウトランかなんかで寝てたらTさんに殴られた覚えがありますよ。」

T村氏「どーしょもねークソガキだよなー!」


そんな思い出話なども飛び出し、なんというかとんでもなく居心地がよかった。

遅番との交代前の最後の仕事として両替金や景品のチェックをしていると、交代のバイトと副店長がやって来て、勤務初日は何事もなく終わる……はずだった。


T村氏「あ、荒井よ、大山店わかるか?」

オレ「駅前のDingDongですか?」

T村氏「そうそう。自転車で運べるだけでいいからよ、適当にヌイグルミ持って行ってやって。」

オレ「わかりました。」


店長のT村氏に言われるがままに、70ℓのゴミ袋にあれこれとヌイグルミを詰め込み、オレは自転車を飛ばして大山駅前のDingDong大山店へ向かった。

大山店は東武東上線大山駅の南口改札の目の前という好立地だったものの、仲宿店と比べるとかなり狭く、無理やり詰め込まれた景品機やゲーム筐体からやたらと圧迫感を感じるカオスな店だった。

仲宿店と比べると随分印象が違うなと思いながら、オレはカウンターのドアを空け、中にいるであろう店番の人間を探した。

が、何故かカウンター内には誰もおらず、困ってウロウロしていると、新作の対戦格闘ゲームをやっていたバンドマン風の腰まであるロン毛の兄ちゃんが、こっちをチラチラと見て来た。

「さすが大山、客もタチが悪いぜ」 と思っていると、その兄ちゃんがゲームを仲間と交代してツカツカと歩み寄って来るではないか。いくら大山とはいえ、いきなり戦闘モードかよ!と思いきや……。


「なに?両替?」

―は?

「客?」

―いえ、バイトです

「あ?新しい人?」

―ええ、仲宿店の

「おお、あっそ」

―店番の人ですか?

「おお。」

―T氏に言われてヌイグルミ持って来たんですけど

「ああ。適当にカウンターの中にぶち込んどいて。」

―は、はあ…


これがおはら汁オフや板橋会オフに何度も参加してくれているT兄さんとの出会いである。ちなみに、この兄さんはゲーセンでバイトする前は某有名ビジュアル系バンドのローディをやって地獄を見て来た人物であり、そのバンドの北海道ツアーに駆り出されたはいいが、忘れられて置き去りにされたという逸話が残っている。
今でも「ダイナマイトトミー」と呪文を唱えると逃げ出す習性があるので、きっと大きなトラウマを抱えているに違いない。

そういう経歴の持ち主だから、そりゃバイトなのに仕事中に客相手に格ゲーでハメ倒してカモったりしても不思議じゃないよね。あのバンドのローディ出身だなんて、言ってみればベトナム帰還兵と同じくくりだからね。

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