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誕生日の手紙

お母さん、

介護ベッドの上のお母さんと、

少しだけ見えない世界の話をしたね。

自分の中に特定の宗教をもたないお母さんは

死んだらどこへいくんだろうと、そんな趣旨の話だった気がする。

やっぱり特定の宗教を持たない私は、

自分がお腹に子どもたちを宿したときに、

このついこの間まで存在していなかった

命の魂はどこからくるのかがとても不思議で、

子育てを通して、自分なりの答えを出していたから、

それをお母さんに伝えたね。

魂は、
どこかわからないけど空の上の方から降りてきて、体に宿って、
死ぬときに身体から離れて、
元居た場所に還るんだと思う。

と。

元居た場所に、還るんだと。

それから、知り合いの霊能者の人に聞いた話で
「自分の人生を映像みたいに振り返ってみられる部屋に通されて、
この人生で学んだことを確認するらしい」
というのも紹介したね。

「そんな感じなら、安心ね」といったかどうかも思い出せないんだけど、
お母さんが少しほっとしたような雰囲気になったのに、
私も安心したよ。

その話の真偽は、実際私も死んでみないとわからないんだけど、
どうだったかな。

「自分で親を決めてうまれてくるっていう話もあるものね」
と、昨今の胎内記憶ブームをどこかで聞いていたのか、
お母さんは言ったね。

私は本当はそのとき、
私もお母さんを選んで生まれてきたと思うよって言いたかったんだけど、
そうしたらお母さんもおばあちゃんを自分で選んで生まれてきたんだよっていうのと同じことになっちゃうから、

呑み込んでしまったよ。

「ほら、でもそれは、そういうにはあまりもな痛ましい事件も沢山起こっているから、わからないよね。
でも、魂がどこかから来て、元居た場所に還るのは、本当だと思うよ。」

「そうね」と答えたね。

でもあの時、やっぱり私はお母さんを選んで生まれてきたって、言えばよかったなと、後悔してるよ。

子どもをお腹のなかで育てて、産み出して、片時も離れず育てた今だからわかる小さい自分の目線や感情や記憶がある。

きっと空から見ていて、
お母さんが綺麗で優しくてかわいくて、そしてちょっとさみしそうだったから、お母さんにしたの。
あの生まれた町の神社の、イチョウの木を目印に、雷と一緒に降りてきたの。

実際に親子になってみないとわからなかったことももちろんいっぱいあったけど、一生懸命やろうとしてくれていたし、
死ぬまで、私たちのお母さんでいてくれようとしてくれたね。

お母さんありがとう。

お母さんの身体はなくなってしまっても
ちゃんと「おめでとう」の声がきこえたよ。
生まれてから毎年ずっと言い続けてくれていたおかげだね。

元居た場所に、還れた?
会いたかった人に、会えた?

本当は私もお母さんに会いたいんだけど、
まだこの世界でやることがあるから、
あと20年はがんばる。

その時が来たら、迎えにきてね。






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