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失敗から得た宝物

52年前の事・・昭和40年、私は呉服屋の従業員として働いていた。呉服店のすぐ斜向かいに、寝具部の小さな支店があり、そこの勤務の日のことだった。その日は店長が急用でお休みで私が1人の店番となった。そんな日に限って、日頃滅多に売れない高価の布団が売れたものだから私はちょっと焦った、客を待たせないように気を使いながら慣れない梱包をして見送った。そして、その後に気付いた!千円札を1万円と間違い、かなり多くのお釣りを渡してしまったのだ「しまった!」初めてのお客だからどこの誰かもわからない。後を追ったが見つからなかった。
確実にわかっているのは九千円余り多くのお釣りを渡してしまったということだ。「どうしよう💦」本店のご主人に知らせて謝りに行こうか・・
いや、9000円の利益を出すには先程の布団を何組売らなくてはならないだろうか当時の1万円の価値は一桁違いとまではいかなくても・・若い女性の初任給3万くらいだったろうか 
私にとっては大金である。自分で負担して穴を埋めておこう・・でも、手元にそんなお金はない。
そこで18娘の浅知恵、近くの公衆電話に走った。「お母さん?私、大変な事になった、千円札を1万円札と間違ってお釣りを渡してしまったと!わるいけど1万円ここまで持って来てくれん?💦給料日に返すから。」すると、母は急な電話に驚いたようだったが、「そいはダメさ、ご主人様にちゃんと話して謝んなさい」「えー?!でも、気の毒で言えん、お願い!持って来て😅🙏」「いいや、やっぱりちゃんと、謝んなさい」いつもは優しい母が、がんとして聞き入れなかった。私は渋々本店へ向かった・・ご主人の前で事のあらましを話し「本当に申し訳ありません!」
と頭を垂れながらしゃくり上げてしまった。黙って私の話を聞いていたご主人は「そうね、確かにそれだけ渡してしまえば、そのお客さんはもう、うちの店には来んやろ その1万円とそのお客さんも失ってしもうた事になる」としっかり私の目を見て言った。涙がポロポロ溢れた。人前で泣いた事などない自分がこんな場面で涙を流したことがくやしかった。なんて弱いんだろう。泣いて許して貰おうなんて思ってもいないのに。なんで涙が出るんだろう・・そんな私に向かってご主人は言葉を続けた。「しかし、吉田さん、私はね、そんな損失よりなによりも、こうして、正直にその事を話してくれたあんたの心が嬉しかですよ。誰でも、失敗はする。失敗はするけど、そのあとが大事、それから何を学ぶかという事です。転んだら立ち上がる、その時、何かを掴んで起きらんばですよ馬のクソでん 何でんよか、何かば、掴んで起きなさい、わかったね。
さぁもう 切り替えて、仕事について下さい」
ご主人のその言葉は心に染みた。私は正直なんかじゃなかった、自分の失敗を隠そうと母に電話をしたのだ。ご主人は私の失敗の損失をちゃんと示す事で戒め、認めさせ、立ち上がり方まで示してくれた。その言葉には厳しい中に愛情が込められていて、私は叱られているより、その暖かい言葉に幸せすら感じたのを73歳になった今でも、心に深く残っている。こうして、うっかりミスの多い私がどうにかこうにか世間を渡ってこられたのは、こうして導いてくれた人との出会いがあったからに他ならない。
伝えるべきことは伝え、教えるべきことは愛情こめて教える人そんな出会いがあったればこそ、今日の私がある。

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