【世界の山さんぽ】 初めてのロングトレイルが終わって感じたことは
南米パタゴニア、パイネ国立公園一周トレッキング。8日間の旅が終わった時、私は130km歩いた達成感を感じなかった。
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山を歩いていると、1日で様々な物語がある。景色はもちろんだけど、自分のコンディション、目まぐるしく変わる天気、出会った植物や花、言葉を交わした人。例え同じ山に登ったとしても全く違う。
日帰り登山でも長期縦走でも、自分の山の物語ということには変わりない。単純に日数が増えれば、2日の山旅だと物語×2、3日だと×3になるだけだ。
自分の1日の物語で登場する、出会った他のハイカー。ロングトレイルになると、毎日登場する人、たまに出てくる人、1日だけの人、様々なのが面白い。はじめは挨拶だけだったのが、言葉を交わすようになって。仲良くなってくると、それぞれの国のことを話ししたり、他のオススメのトレッキングのことを話したり。かといって一緒に歩きましょうにはならない。(なる時もある。)この、つかれ離れずの程よい距離感が私は好きだった。
なんだろう?仲間ではないんだけど、同じ船に乗っているクルーのような、運命共同体のような、そんな感覚だ。年齢も性別も国もバラバラだけど、皆自然を愛し歩くことを楽しんでいた。
↑国立公園の案内所には多くのハイカーが
8日間パイネ国立公園を歩いて、印象的だったひとが何人かいた。
初日から3日目まで同じキャンプ場だった、イギリスからきた50代くらいのご夫婦。旦那さんがオシャレな丸メガネをかけていて、まるで瀧蓮太郎のようだったので、勝手に瀧さんと呼んでいた。彼らは持っているものがレトロで渋い。昔ながらのものを選び、ずっと大切に使っているようだった。無理しない日程で、早めにキャンプ場に着いてテントをたてる。テントの外でちょっと良い椅子に座って本を読む。隣をみると奥様が幸せそうに寄り添っている。2人はパタゴニアの広大な自然の中に溶け込んでいた。
チリのカップルとは波長が合って沢山話をした。「トレッキングは普段あまりしないけど、一度はパイネ国立公園に来たかったんだ」と言う。日本でいうと富士山のような存在なんだな。「毎年日程が合わなくて、やっと来れたよ」と嬉しそうに話してくれた。
途中のキャンプ場で出会ったアメリカの青年は、職業がレンジャーだった。レンジャーは国立公園のトレイルの整備や調査をする仕事。北米ではレンジャーの知名度が高く、子供達の憧れの職業のひとつとなっている。チェックポイントで彼の職業をみて、思わず話しかけた。「今回はプライベートで来ているよ」と言っていたが、自分の仕事を恥ずかしながらも話してくれた。街歩きも出来るオシャレなネルシャツとキャプ帽で歩いていた。
他にも朝一番に出るハンガリーの2人、直前で予約が取れたルーマニアのラッキーボーイ、誰とでもすぐ友達になれるアメリカ人女性、挙げたらキリがない。
歩くのは1人での行為だ。おしゃべりしながら友人と歩く時もあるが、この旅は歩く時は1人で、とことん自分と向き合った。自分の力で一歩一歩、前へ進む。
だから、出会うハイカーと気軽に話をするのが楽しかった。自分と向き合ったからこそ、人との繋がりを求めたのかもしれない。
パイネ国立公園一周トレッキングの後半は、見所が満載のWルートと合流する。グレイ氷河、フランセス谷、そしてハイライトはトレース・デル・パイネである。
後半は食料が減ってきたのもあり、荷物の重さは気にならなくなった。不安もなくなり、ただ目の前の歩くことに集中する。
最終日はナイトハイクからスタートし、トレース・デル・パイネの展望台で朝日を待つ。残念ながら黄金に輝く山々を見ることはできなかったけど、それでも綺麗だった。この場にいることができて良かった。あとは帰るだけだ。
キャンプ場に戻り、他のハイカーと歩き終えたことを喜び合う。お昼を食べてテントを撤収し、バスを待つ。
8日間の旅が終わる。
バスを待っている間に、チリ人のカップルと再会した。お互いにやったねと喜んで、その後こう言った。「これから現実だね」
…そっか。山から街に、帰るのか…。
彼らが行った後、私は泣いた。自分でもどうしてこんなに涙が出てくるのか分からない。
達成感?違う。寂しさからくる涙だった。
山を離れることへの寂しさ。そして出会ったハイカーへの寂しさ。今まで同じ旅をしていた彼らが、これからはそれぞれ新たな世界に行ってしまう寂しさだった。自分の1日の物語にこれからは出てこないのだ。
彼らとは特に連絡先など交換していない。次どこかで会えるのか、もう会えないだろう。
瀧さんはネパールのアンナプルナサーキットも歩いていた。きっとまた世界のどこかでトレッキングを奥様と楽しむのかな。
チリ人の2人はこれをきっかけにトレッキングが好きになってくれたら嬉しいな。
レンジャーの彼は、アメリカのどこかの国立公園で仕事をするんだろうな。
ふと後ろを振り返ってみた。その光景が焼き付いて離れない。この感情と一緒に、山の景色・空気・温度・音、すべてが私の中に刻まれて、色褪せない。いつまでもこの大自然は見守ってくれる気がした。
山を見ながら、この先もう会うことがない人達に思いを馳せる。いつも彼らと交わした最後の言葉「See you on the trail.」が消えなかった。
しばらくは便利な街社会に安心感を覚えつつも、違和感がありました。wifiを繋げたくなかったり、モノで溢れてていいの?と思ったり。こんなに余韻に浸るとは思いませんでした。
チリ パイネ国立公園 2
チリ パイネ国立公園 1
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