「夜にしがみついて、朝で溶かして」ライナーノーツ

1 料理

昨日はモツ煮を作りました。モツ煮は旦那が大好きなので。でも、わたしは旦那があんまり好きじゃありません。二人の洗濯は間違ってたのか、そう思う事はしょっちゅう。でも旦那にとってわたしはただ駄々をこねるハンバーグなのかも。夫婦ってそんなもんかもしれないな。今日はお刺身買ってきます。お刺身も旦那が大好きなので。やっぱり横にはツマでしょう。

2 ポリコ

ポリコ?
誰?
「ポリコはいつもこすってる」
歌詞に引っ張られてか、ベースもギターもゴシゴシ擦ってる様に聞こえる。
間奏で貯めてた水がぐるぐる回って抜けてって「カコッ」って全部抜けて2番へ。
「ポリコは法定速度で」
運転がヘタなのかな?車こすっちゃう歌?
ダメだ、ポリコがわからない。
「優しくされたいだけなのに されない 消えない 溝にこびりついた汚れ」
アレ、ポリコ、わたしの気持ちわかるの?なんか泣きそうだよ。
「ぽり子は今日もこすってる」
ぽり子!
人だったの?
「でも足りない足りない足りないまだ」

あぁ、なんだ、ぽり子っていつも満足しないわたしか。
あーあ。なんかごめんね。

3 二人の間

音楽的な技術とか用語はよくわからないから感覚でしか言えないんだけど音に「間」があるように聞こえる。尾崎さんが誰かに楽曲提供した曲ってクリープハイプらしさみたいなのを意識しないせいなのか、優しいものが多い気がして、わたしはそれがすごく好きです。ダイアンさんのために作ったこの『二人の間』をクリープハイプが演ると「四人の間」にちゃんとなってる。わたしにとっては『さっきはごめんね、ありがとう』とか『バンド』みたいな位置付けの曲。あと、わたしは尾崎さんのちょっとかすれた歌声が好きなのだけど、この曲はこのアルバムの中でも特にソレが感じられて、2分45秒の「たとえようのない こんな気持ち」の「ない」の部分の
声は特に痺れます。

4 四季

年齢を重ねて、自分の中の大切なものの順番も変わってきたりして、ちょっとクリープハイプの曲との距離を感じていた時に配信されたこの曲。はじめて聴いたとき、いい歳したおっちゃんが桜を見上げて「年中無休で生きてるから疲れるけどしょうがねーな」って言ってるのが頭に浮かんで(なんなら新聞とワンカップ持ってる)こんなふうに年齢を重ねた歌歌えるバンド、カッコいい!好き!って思った。置いていかないでくれてありがとう。一緒に歳とってくれてありがとう。みたいなファン心理。保育園の時に「春のことです 思い出してごらん あんなことこんなことあったでしょう」って歌、歌ったなぁ。四季は大人になってからの「あんなことこんなこと」の歌。これからもクリープハイプとずっと一緒に居たいな。なんて。急にどうした、恥ずかしー!

5 愛す

逆にもうブスとしか言えないくらい愛しい
(うん、知ってる)
それも言えなかった
(えー!言って!言わなきゃわかんないよ)
急ぎなほら遅れるよ
(いや、そっちの優しさはいらないから!)
やがてドアが閉まるバス
(いいの?行っちゃうよ?!)
君がいいな そばがいいな やっぱりそばには君じゃなくちゃダメだな
(そうだよ)
違うよ黄身って誤魔化して 蕎麦の中の月見てる
(上手いこと言ってる場合か!)
ベイビーダーリン会いたい
(うん)
メイビーダーリン曖昧
(いやいや)
ベイビーダーリン会いたい
(ですよ)
ような気がしないでもない
(なんで曖昧!)
いつもほらブスとか言って素直になれなくてちゃんと言えなかった
(言えない気持ちはよくわかる)
ごめんね 好きだよ さよなら 時間通りに来るバス
(でもなんで好きなのにさよならなの…)
逆にもうブスとしか言えないほど愛しいそれも言えなかった
(まだ今なら間に合うよ!)
急ぎなほら遅れるよ 
(だからなんでそういう優しさは言えるのよ。違うでしょ…)
やがてドアが閉まるバス
(ねえ、いいの?いい訳ない!)
肩にかけたカバンのねじれた部分がもどかしい 何度言っても直らなかった癖だ
(眺めてる場合か!ねじれてるよ!って手を伸ばせー!)
もう元に戻してあげられなくなるんだな
(そうですよ)
自分でその手を離したくせに
(わかってるじゃん)
ベイビーダーリン会いたい
(素直!)
メイビーダーリン あ 今いい
(良くないでしょ)
ベイビーダーリン会いたい
(素直!)
って思ってるだけで
(思ってるだけかーい!)
いつもほらブスとか言って素直になれなくてちゃんと言えなかった
(なかなか言えないよね…)
好きだよ いまさら ごめんね 時間通りに出るバス
(言えたけど…行っちゃった…)
逆にもうブスとしか言えないほど愛しいそれも言えなかった
(言えなかったね)
ねじれてもう戻らない 見上げれば空には月
(そんな顔でこっち見られても。見守る事しかしてあげられなくてごめんね)

6 しょうもな

6曲目にきてクリープハイプといえばのバンドサウンドコーナーはじまりはじまりー。ゆきちかさんのギターソロのメロディとか、どうやったら思いつくのかな。クリープハイプの4人が鳴らす音がすごく好き。

7 一生に一度愛してるよ

尾崎さんの得意な皮肉満載の歌詞がポップな曲に載るとまたなんか皮肉。ファンて恋人ってないものねだりでスミマセン。でも本当の事を言えばファンはそこの角左、その後の角右、そのあとの角右、そのあとの角右、って一周して戻ってきたりします。(ファーストアルバムの曲の歌詞より)
ファンて恋人って勝手でスミマセン。

8 ニガツノナミダ

30秒全力でお仕事したあとの一瞬の空白から全力のギターソロで、さてここからです感。はぁ、カッコいい。
ちなみに当時、あんなかわいいコがチョコ渡そうとしてるのにスルーする男!とCMを見るたびにイラっとした思い出…

9 ナイトオンザプラネット

思い出って時が経つと、ホントにそうだったのか自分のフィクションなのかもわからなくなるけど、でもそんな事どうでもよくて、家族が出来たり守らなきゃいけない大切な存在が増えるほど、その苦くて甘い曖昧な思い出にしがみついてなんとか乗り越えるひとりぼっちの夜も増えて、朝がくるとホッとした。ずっと一緒にいたかったけど、今は隣にいないあの人。もう声も思い出せないけど、もらったカセットテープに入っていた歌の内容は覚えてる。別にもう何も思わないけど、大事にされた思い出。たまにちょっと思い出して、またすぐ忘れて、だんだん色褪せて、でもやっぱりたまに思い出すよ。こんなつまらない話、誰にもしたことないけど。ナイトオンザプラネットを聴いて、ちょっと思い出した。
最後のカオナシさんの鍵盤の1音、ブラウン管のテレビを消したみたい。映画を一本観た気分。あのころの部屋でふたり。そういえば全然趣味が合わなかったな。

10 しらす

カオナシさんの楽曲に拓さんのドラムって相性がいい。夏まつりの灯りの届かない薄暗い境内の裏を覗いちゃった気分。ちょっと不安。でもすごく惹かれる。覗いてみたい。
命を頂いて美味しく食べて、寝て。頂いた命にもわたしにも流れる天の川。食べたからにはまた生きてくんだよ。
いただきます。ごちそうさま。ありがとう。

11なんか出てきちゃってる

80年代90年代のトレンディドラマで流れてそうな前奏聴いたら、わたしの記憶のネジも緩んじゃって、その隙間から出てきちゃってるのは過剰な自意識で。気持ち悪い?そんなのわかってるけど。急に曲調が変わって急に何事もなかったかのように元に戻るところ、時間になると急に鳴いて飛び出してパタッて止まる鳩時計みたい。鳩時計の下にぶら下がってた飾りって松ぼっくりだって知ってた?
「せーの、」で同時に出して「タッチキュー!バリア!」でバリアしちゃうか。コレも小学校の時よく言わなかった?あとあと、ケーキとか食べる時に「どっちが早く食べられるか競争しよう」って誘って自分はゆっくり見せびらかして食べるの、やらなかった?いや、性格悪すぎだろ。自分にはこの気持ち悪い自意識が見えてないから生きていられるんだよね。そのネジ外しちゃわない方がいいと思うんだけどさ、時々やっぱ緩んで、鳩時計みたいに出ちゃうんだよねぇ、その気持ち悪いやつがさ。

12 キケンナアソビ

『SHE IS FINE』 のやることヤッたら家から出されて「ゴメン」て謝られて鍵閉められてたあのコ、相変わらず男運悪い日々を送ってるらしい。相変わらずやることヤッたら「この道をまっすぐ行けば帰れるから。じゃあ。気をつけて」って家から出されて鍵閉められてる。これはアソビ。馬鹿みたいってわかってるんだけどね、自分に残った相手の匂いが離してくれないんだよね。ひとりで歩いて帰ってく背中、切なくて見てられないです。

13 モノマネ

持ち物も考え方も「同じ」「似てる」それが良いと思ってたし、ずっとふたりは「同じ」で「似てる」って思って過ごしてきた2年8ヶ月。あなたも一緒に笑ってたから、笑ってるんだと思ってたわたし。ホントは泣いてたんだね。クリープハイプの『およそさん』て曲に“ただただ楽しいからって笑ってる訳じゃないし ただただ悲しいからって泣いてる訳じゃない”って歌詞があって、一緒に「良い歌詞だねーわかるー刺さる」とか言ってたのに、なんにもわかってなかったな。ふたりともすごい好きだったからアルバムに入るなら何曲めだと思う?とか話してたんだけど。今度のアルバムに入らなかったね。

14 幽霊失格


犬みたいなのに猫背で歩いてる男性が主人公のこの物語。世界中に数え切れないほどのラブソングはあれど、用の足し方のクセが直らないって言い回しで、相手の事が忘れられないよって表現する歌はこれだけじゃないかな。この男性は彼女が悲しかった事や苦しかった事を分かち合えなかった自分を後悔してるんだろうなぁ。客観的に見れば彼女はそんなふうには思ってないとおもうけど。だってひゅーどろどろどろって出てきたけど、側にいる間中、キラキラキラ、キラキラキラってどちらかと言うと幽霊より妖精みたいな音させて側にいるし。この男性は彼女の心配してるつもりでいるけど、本当は逆で彼女に心配されてる。それに気づいた時に彼女は消えちゃうのかもね。もうしばらく時間がかかりそうだけど。ちなみにこの曲、音がガサガサしている気がするのですが、幽霊の仕業かな?

15 こんなに悲しいのに腹が鳴る


頭の中で映画のエンドロールが流れ始める。
今年、わたしは仕事でゴタゴタし、物分りの良い人ぶってみたものの、わかりやすく目の下には真っ黒なクマができたし、毎日吐き気に襲われていた。絶対に口には出さなかったけど、こんなに苦しくて悲しくても壊れない自分になってしまったこれまでの人生を恨んだし、いつになったらどうやったらわたしはわたしを終われるんだろう、なんで終わらないんだろう。そんな事ばかり考えていた。それと同時に「終わりたい」を言えないかわりか、毎日毎日「アレが食べたい」「お腹が空いた」そんなツイートをし続けた。この曲を初めて聴いた時、あ、これは自分だと思った。わたしは死ぬほど生きたかったのか。そう思ったらどこまでも終わろうとしない自分の根性に涙がでて止まらなかった。
クリープハイプの歌は頑張れって背中を押してくれる歌では全然ない。でも、どの歌にもちゃんと冴えない主人公がいて、みんな地味な脇役みたいな人生を、たいしていい事なくても、むしろ、けっこうズタボロにヤられても、ちゃんと生きている。そんなみんなの生きてる姿を歌を通して見せてもらって、わたしも生きることを続けようと思う。夜にしがみついて朝で溶かして、わたしの物語も、彼らの物語も、まだ、つづく。

#ことばのおべんきょう
#クリープハイプ

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