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無能な人ほど自信過剰?ーー「ダニング=クルーガー効果」、嘘か本当か?

「ダニング=クルーガー効果」とは、自身の知識や能力が不足しているにも関わらず、自身の行動や状況を過大に評価してしまう心理現象を言います*1。

この現象は、アメリカの心理学者であるデイビッド・ダニング(David Dunning)氏とジャスティン・クルーガー(Justin Kruger)氏によって提唱されました*2。

しばしばネットでも取り上げられる効果ですが、ツッコミどころの多いものでもあります。中身を見てみましょう。




「ダニング=クルーガー効果の曲線」は原論文には存在しない!?


皆さんの中に「ダニング=クルーガー効果の曲線」を見たことのある方はいらっしゃるでしょうか?

「ダニング=クルーガー効果の曲線」とは、縦軸に「自信」、横軸に「知識・能力」を設定し、両者の関係性を示したグラフです。

転載元:https://biz.moneyforward.com/payroll/basic/63123/

このグラフはいかにも「ダニング=クルーガー効果」の研究成果だと思われていますが、驚くべきことに、原論文にはこのグラフは一切登場しません。

原論文で示されているのは、受験者のスキルテストと自己評価との結果をもとにしたグラフです。

原論文*1に掲載されているグラフの一部

これらを直接比較すると、それらが全く異なるものであることが明らかになるでしょう。

「ダニング=クルーガー効果の曲線」がどのようなデータをもとに描かれ、そしてどのようにして広まったのかは不明です。そのため、その内容の正確さは一旦置いておき、あくまでこの心理現象を視覚的に理解するためのツールとして受け取っておくのが良いでしょう。

ただし、「ダニング=クルーガー効果」そのものに問題があるとしたら、どうでしょうか?


「ダニング=クルーガー効果」自体も、実は怪しい!?


実のところ、そもそもこの「ダニング=クルーガー効果」自体にも問題があるとされます。どんな点で問題があるのでしょうか?

一つは、この効果を示した研究のアプローチが科学的根拠に乏しいという批判です。

例えば、本研究では、対象となる母集団が45名のコーネル大学の学生でした。この情報だけ見ても明らかですが、一般化するにはやや物足りなさを感じます。その人数規模はもちろんのこと、「コーネル大学の学生」という特定の集団を対象としていることは、その結果の一般性に疑問を投げかけます。特に、民族性の観点で言えば、東アジアの民族は自己の能力を過小評価する傾向があるという研究結果*3もあり、この効果が全ての人々に適用できるわけではない可能性があります。

また、ダニング=クルーガー効果は単に平均への回帰を反映しているに過ぎないという指摘も存在します*4。平均への回帰とは、「一度目に極端な結果が観測された場合、次回の観測ではその結果が平均値に近づく傾向がある」という統計学の考え方です。

この観点を踏まえると、ダニング=クルーガー効果の研究はこう解釈できます。すなわち、偶然にも低い成績を出した人々が、平均への回帰によって自己評価が実際の成績よりも平均値に近づき、結果として過大評価しているように見えてしまっているということです。もちろんこの解釈にも異論も存在しますが、異論が出るという状況を見ると、ダニング=クルーガー効果は現時点でもろ手を挙げて信頼に値する心理現象ではなく、さまざまな視点からの検討が必要だということです。

ここまで「ダニング=クルーガー効果」にまつわる批判や議論の一部を見てきました。この心理現象は、その研究方法やその結果に議論の余地があり、一般化するのは難しいと考えられます。従って、もしこの効果を根拠として持ち出したいときは、これらの内容を十分に踏まえながら使うことをお勧めします。

※ 2024年3月17日、ダニング=クルーガー効果の定義を"十文字学園女子大学"のWebページより引用修正


(参考情報)
*1 十文字学園女子大学「ダニング=クルーガー効果」https://www.jumonji-u.ac.jp/sscs/ikeda/cognitive_bias/cate_s/s_13.html(2024年3月10日アクセス)
*2 Dunning, D., & Kruger, J. (1999). Unskilled and unaware of it: How difficulties in recognizing one's own incompetence lead to inflated self-assessments. Journal of Personality and Social Psychology, 77(6), 1121–1134.
*3 齊藤, 勇, 山田, 竜平, 金, 成恩, 2016, 日本と韓国の青年の自己評価の比較研究 ―東アジアの自己評価傾向についての集団主義的価値観視点の実証的再検討―: 立正大学心理学研究所紀要 (14), 13-25, 2016-03-31
*4 『有名なダニング・クルーガー効果は「無能な人ほど自分を有能だと考える」という法則ではない』https://gigazine.net/news/20210419-dunning-kruger-effect/(2024年3月10日アクセス)

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