"中の人"の苦悩

 僕はアイドルオタクだった。
 地下活動アイドルのライブに行っては、自慢の『オタ芸』とともに、アイドル(と言うか、まだまだこれからアイドルになっていく女の子たち)を応援する日々。
 充実した毎日だった。
 それを壊したのは、マネージャー。
 ある日、いつものように地下活動アイドルのライブでいい汗をかいた僕のもとにやって来て、こんなことを言ったのだ。
「きみのそのキレのいい『オタ芸』で、中の人をやってみないか」
 と。
 そして僕は今、世間で大人気のアイドル、大須アスカの"中の人"として、アイドル活動をしている。三代目の僕の一番の売りはキレのいいダンスと、ファンが喜ぶあざとい受け答え、らしい。アイドルオタクな僕には、アイドルがどういう受け答えをすればファンが喜ぶのかなんて、手に取るように解る。簡単だ。
 ああ、だけど。
 目の前でアスカがガミガミ言ってるのが、もういい加減にウザい。アスカなんかいなくても、もう僕ひとりで『アスカ』は充分じゃないのかな? こいつ、主電源ってどこにあるんだ? どうしていつまでもこんなガラクタに、影のマネージャーとしての仕事をさせているんだろう。上の考えることは解らない。

 マネージャーが入れてくれた紅茶を啜って、自分で自分の頬を叩いた。アスカの叱責が飛ぶ。
「ほら、寝る暇なんかないわよ。次は新曲の振り付けの練習とアレンジよ」
 アスカはアンドロイドだから疲れないだろうけど。

 僕はもう、へとへとだ。
 やれやれ………………。

#短編小説

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