花束なんてガラじゃない(笑)
バレンタイン・デー、ねえ。
本命、義理、の他にも今は、友チョコなんてのもあるんだってね。
女子って大変だよな。
なになに?
チョコやらクッキーやら配る男も、居んの?
へぇ……そりゃまたなんつうか……。
バレンタイン。
一筋縄では、いかねぇのな。
* * *
女子が好きな男子にチョコあげて告白するのは日本だけで、どこだかの国では、男が好きな女子に花束をあげて告白するらしい。
つうか、花束?
簡単なような、難しいような。
花屋の前で思わず立ち止まって、これから盛りを迎えようとする花の群を見つめていた。小学生のとき、一回だけ母の日にカーネーションを買ったことがあったけど、値札がないからドキドキしたよな。そんなことを思い出していたら。
「こんなところでどしたの?」
不意に背中から話しかけられて、文字通り飛び上がった。なんだってこのタイミングで出てくる、お前は。
「あ。いや……花? 綺麗だ、なって」
しどろもどろなおれをばかにするのかと思ったら、意外や意外、くすっと小さく笑った。それがあまりに可愛くて、本当にもうおれはどうしたら。
「あー。ねー? 寒い時期のお花、いいよね」
喋りながら一歩踏み出したその隣に、何気なーくついて行く。小五の時に引っ越してきて以来の『ご近所さん』なエリカに、おれは一目惚れからの絶賛片想い中だ。辛うじて同じ高校に進学できたものの、理系で成績もトップを争うエリカと、文系で超低空飛行のおれとは、まさに天と地。
告白? ありえないでしょ。
「シンくん、今年も義理チョコいる?」
エリカがこんなことを聞くのも、おれが甘いものが苦手だからで。でも何故かエリカは、義理、に、力を入れておれにチョコをくれる。それってほんとは脈ありってことなんかなあ? よく解らん。
「んー…、別に。どっちでも」
「義理でも三個と四個じゃ大違いでしょ?」
ケラケラ笑いながら言われて、返す言葉もないんだけど。あれ、そう言えば。エリカってこんなに小っさかったっけ?
「シンくん、背ぇ伸びたねぇ。来年、受験だしねえ」
どっかのほほんと、エリカが言った。同じことを考えてたことが嬉しかったり、した。
「バレンタインって、意外と大変、なのな」
エリカはちょっと、困ったように首を傾げた。
「うん? まあね。でもみんなしてるし。イベントには積極的に参加しないとね。シンくんもなんか配ったら?」
言われて脳裏に浮かんだのは、両腕いっぱいの大きな花束を、エリカに渡そうとするおれの姿だった。自分で自分の妄想が恥ずかしい。そんなことを知ってか知らずか、エリカは今年はどんなチョコがいいかなあなんて、やっぱりどこかのほほんとした口調で喋り続ける。
花束なんて、ガラじゃないし。
第一、両腕いっぱいの花束を用意できるほどの経済力も、おれには、ない。
ない━━けど。
勇気を総動員すれば、エリカに好きだって言うくらい、できるかもしれない。花の二本や三本なら、買えるんじゃね?
「な、お前、さ」
「うん?」
微かにおれを見上げるエリカに、思いきって聞いてみた。
「好きな花って、ある?」
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