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死、あるいは存在の変遷

 ダメだ。

 なにがダメかって、絵だ。もう描けない。正確には、描いてもしょうがない。だってずっと下手なんだもん。

 絵を描き始めたのは18歳のときだった。なぜ描き始めたのか、もうあいまいだが大志はなかったように思う。なんとなく「絵を描ける人」に憧れがあったのだったかな。中高生のときは絵を描くという行為が気恥ずかしくて、実家でこっそりと描いていた。大学生になって一人暮らしを始めたから、大っぴらに描けるようになったのが、すごくうれしかった。

 最初は描くだけで楽しかった。当然下手だったが、余白があった。のびしろか。これからどんどん上手くなるんだという未来への期待だ。ところがどうだ。9年経った今、さして上達していない自分がそこにいた。まさか勝手にうまくならないとは。

 厄介なことに、全部ダメなわけではないのだ。趣味の絵だけがちょうどダメなのだ。何をやってもダメだったら諦めがつきそうなものだが、別になくても人生に支障ない部分がダメだから、「諦めなさい」と私の客観が囁いてくる。

 ここから奮起して上達するぞと意気込んでも、余白がない。学生時代はこのまま上手くなればもしやプロになって、絵とともに歩んでいく人生というのも想像できたのだが、今からそんな想像は難しい。いま、結婚を考えているところだ。私の余白にはパートナーが乗り込み、やがて子どもが乗り込み、そして家族のために生きる人生になっている方が想像しやすい。

 絵が描けなくなっていくことは「死」だと思っていたが、違うのかもしれない。「変遷」だ。私はあのころの私から、違う私へと変遷している。いつか何かになりたいと思っていたが、いつのまにか良くも悪くも代えがたい「私」になってしまっていた。

 これが人生か?いいことがたくさんあるのに、なんだか泣きそうだ。気持ちを抑えられず、月曜の朝5時にこんな文章を書く始末だ。

 また私の1週間が始まる。せめて週末には、私はまだ絵が描けるのだろうか?

まんがを読んでくださいね。