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牛若ちゃんと、

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元禄の頃。 朝廷に仕える武士でありながら、政争に破れ切腹した父。 政敵の慈悲に縋り子らを生かし囲われた母。 尼僧に預けられた遮那は、山の天狗の長より狗術を授けられる。 度重なる悪…
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第二話 牛若ちゃんと弁慶ちゃん 「きつね合戦」(ステマあり)

 このところ方々で聴くようになった。  近所で誇れる美味いもの。  まずは、半兵衛はんの麩田楽。  宮廷の膳部だった半兵衛はんの創る物は何でも美味い。  中でも田楽は絶品。  これは誰の否もない。  他に、最近讃州から来た若夫婦が開いた店の、きつねがすこぶる付きに美味いのだと。嵯峨野から取り寄せた揚げを店でじっくりと煮込むのだが、その味付けと煮込み具合が絶妙で、一度味わったなら他では食べられないと謂うほどに。  本当だろうかと遮那は思う。  遮那の中では、麩田

第一話 牛若ちゃんと弁慶ちゃん 「五条大橋の邂逅」

 夕闇迫る黄昏時。  雲掛かる西の山稜に、赫く朧な夕陽が沈みゆく。  斜に差す、朱く目映い夕明かり。  揺らめく影が長く昏く伸びて、街を赤黒のまだらに染める剣呑。  人の謂う逢魔が時。  昼と夜、現世と隠世の狭間。  虚ろにして胡乱、薄闇の陰に魔が潜んで人心を惑わす。  そんな時間に、年端もいかぬ女児が一人。  五条の大路は、大橋の西詰まで。  小綺麗に纏った朱と緑の着物、組紐飾りで結わえた髪。  目尻の上がった大きな眼に、きりりとした眉、小さな鼻口。