レジェンドへの挑戦状を読んで

挑戦状シリーズも複数冊読み、初めて長めの感想を残しておこうと思った。そう思わせてくれた要因の1つが、1ページ目に書かれている、

「いつの日か必ず代表チームを率いてみたい欲求はある。試してみたいことがいくつかあるんだよ」

このグアルディオラ監督の言葉である。

現在、世界最高年俸でマンチェスター・シティの監督を務める彼が日本代表の指揮を執る。今はまだ現実的ではないかもしれないが、可能性がないわけではないなら、日本代表の監督は日本人がベストであると考えている自分でさえ、ぜひ一度は見てみたい。彼が日本人の俊敏性と技術を最大限に活かしたパスサッカーで世界を獲るところを。

グアルディオラ監督でなくとも、ロシアワールドカップの日本の活躍を見て興味を示した監督たちは確実にいたはずである。2019年2月16日現在のFIFAランキング1位は日本が2点を先制したベルギー、2位がロシアワールドカップ覇者のフランスとなっており、日本のパスサッカー が世界のトップを相手に互角の戦いをしていたのだから。日本代表の監督を指揮する際に、パスサッカーを後回しにするようでは、日本の特徴を出し切ることはできない。パスサッカーこそが自分のサッカーの目指すところであると考えるのであれば、ワールドカップベスト16の壁を超えられていない現状に、何かしらの手立てを持っており、魅力を感じているのではないだろうか。

また、フィジカル重視で押すフランスのようなサッカーに疑問を抱いており、それならば、その世界を打ち破ったなでしこジャパンは、欠かすことのできない大きな存在である。アメリカ・ドイツを頂点としたフィジカルの強度が絶対的であった女子サッカーの世界に、なでしこジャパンは緻密なパスサッカーで対抗しワールドカップを制した。日本の女子サッカーは技術的にはずっと男子を上回りながら、確実にランキング上位に食い込んで来た。そして、フィジカルで押し合う女子サッカーの世界に一度は終止符を打つ事になった。それを女子サッカーはすべて日本人監督のみで築き上げて来たのである。歴代の日本人監督たちが創り上げたパスサッカーが、世界のお手本となる時がやって来たのだ。この事実は、自分が思う日本代表の監督は日本人が望ましいとする根幹にもなっている。

本書は様々な視点でサッカーが語られており、ビデオ・アシスタント・レフリー(VAR)やオフサイドについても独特の考えが述べられている。新しい提案として採用されるかどうかは微妙だが、その事を受けて、著者の意見とは少し違う見方をしてみる。

著者はVARの存在に異議を唱えながらも、ゴールの判定に使うのは悪くないとしている。これについては、ゴールラインテクノロジー(GLT)と呼ばれる別のものが、VARに先んじて利用されてきた。GLTが有効に機能していたからこそ、FIFAもVAR導入に踏み込んだであろうと考える。今はまだVARはゴールに直結するプレーに対してのみ積極的に使用されているが、最終的には選手の身を守るシステムにまで昇格するのではないかと思っている。なぜなら、VARの使用によりデータが蓄積されてくると、ファールが起きそうな場所や時間帯が予測できるようになって来る。レフリーがプレー中にその事に注意を払うのは簡単ではないと思うが、ゴールラインテクノロジーで使用した腕時計に信号を送るシステムを併用させて、ゲームをコントロールしていく方法があるのではないだろうか。

サッカーファンならいきなりラフプレーが起きる事が少ないのは誰もが承知している。ゲームの流れも関係してくるが、一番ラフプレーが起きやすいのはレフリーとの信頼関係が崩れた時である。これをVARと連動させて軽減していく方法があるのではないか。

オフサイドについてもダイレクトプレーに関しては、ポジションに関係なくオンサイドにする提案をしている。極論を言えば、このオンサイド判定を認める事で、ゴール前に一人残り、味方からのパスを待つ事で逆転のチャンスが生まれやすい環境になる。ただし、この事は著者がパスサッカーを基本としたフットボールを愛するがゆえに、前提として配慮されていないようにも思えた。バスケットには制限区域(ペイント)と呼ばれるものがあり、最も得点しやすいゴール下のエリアには3秒以上留まる事を禁止している。ならば、ダイレクトパスと制限区域のルール両方を組み合わせてみるのはどうだろうか。ダイレクトパスに関してはすべてオンサイドにする代わりに、ひとりゴール前でチャンスを待てる時間を制限する。

これは選手個々の技術が上がってくると、ロシアワールドカップのベストゴールとも言えるウルグアイのスワレスとカバー二選手の長距離のコンビネーションのようなプレーがダイレクトでも可能になり、見ている側もエキサイトするシーンが増えると仮定する。その際に、敵陣にひとり居残るプレーヤーにすべてを託す事が、だんだん目が慣れてきたサッカーファンに退屈さを感じさせるだろうと思うからである。

<カバー二→スワレス→カバー二>

これはチェコの選手が右サイドに残っているのでぱっと見はオフサイドですが、ゴールとなっています。著者がイメージするオンサイドのゴールはこういう感じではないと思います。どちらかと言えば、ひとりゴール前に残るイメージに近い。

<オフサイドポジションに残ったままダイレクトパスを受ける>

サッカーについて語り始めれば、いくらでもゲームを楽しく見る方法は思い付く。監督論でも、好きな選手についてでも、あるいはプレーに対しでも。初めて見る人も、ずっと長い間見続けて来た人でも、楽しみ方はそれぞれある。普段は、スタジアムの満席具合を確認し、その次にキックオフ直後のワンプレーで、ゲームの展開を想像しながら見るのが自分流である。

その事をつい語りたくなってしまったのが本書であり、日本へのラブレターだと思って、ぜひ、手に取り、自分のサッカー論があふれ出す瞬間を楽しんでみてください。もし、グアルディオラが監督になり、著者がチームの強化に加わる事があれば、その初戦はスタジアムから応援したいです。

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