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掌編 チャボ

 蝉がなく日曜の朝早く、近所の滑り台しかない小さな公園で五歳の息子と遊んでいると、茶色い羽に覆われたチャボが、知らぬまに公園の隅に現れた。クワックワッと鳴きながら、右に左にゆっくり歩き始める。異様なその行動に驚いた五歳の息子は遊ぶのをやめ、私の右足にしがみついた。やがて、チャボはゆっくりこちらに向かって歩いてきた。私たちを公園から追いだそうとする威嚇行動に私には見えた。
 しかたない、家に帰ろうかと思ったその瞬間、息子が地面の砂をつかみ、チャボに向かって投げつけた。その攻撃にひるんだのか、チャボは身を翻すとそそくさと公園から出て行った。
 私と息子は後を追った。チャボは公園に二カ所ある出口のうち、南側の出口から出ていった。そこは公園に隣接している左右に五軒ほどが連なる平屋住宅の中央の細い道につながっていた。やがてその道を抜けると車一台が通れる狭い車道に出た。チャボはその道を横断するつもりだ。車に轢かれないかと心配したが、チャボはそのまま歩く勢いを止めず車道を横断していった。
 するとその道の向こうに、高い塀に囲まれ、車二台はとめられる駐車場がある大きな屋敷が現れた。チャボは警備会社のシールが貼られた黒い立派な門扉をくちばしで鋭く叩いた。やや間が合って、門扉は横に移動して開いた。チャボはそのまま中に入っていった。

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