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Web3、DAOが描く地方創生とデジタルガバナンスの社会実装

登壇
https://www.youtube.com/watch?v=qczFcaOQtVg

カードゲーム

資料



分散的なものづくりに求められるブロックチェーン技術

株式会社DeNA、技術開発室の緒方と申します。2012年頃からDeNAに所属しておりまして、モバゲーの開発、新規ゲームタイトルの開発、ゲーム実況動画配信アプリなど、色々なものに関わってきました。2017年に、先端技術専門のR&D組織設置をきっかけに、ここ数年、ブロックチェーン技術の研究開発に携わっています。さて、本日は「Web3とDAOが描く地方創生とデジタルガバナンスの社会実装」というタイトルでお話をさせていただきます。DAOというテーマを中心に、今年行った、Web3.0人材育成事業の中でも、お子さんから、高校生、社会人まで幅広い層にブロックチェーン技術について教育コンテンツなどの提供も行ってきたのですが、そうした様子についても本日はお話ししたいと思っています。

私自身は、個人的な研究などを含めると2014年頃からブロックチェーン技術というものをテーマに開発や、リサーチしてきたのですが、時代ごとに様々なトレンドがありました。2009年、ビットコインの登場を皮切りとして、イーサリアムなど様々な暗号通貨が登場しました。その後、スマートコントラクトによって、デジタルであっても唯一無二の一点ものを作ることができるNFTという仕組みは色々なブームを生み出しました。実は、NFTについては、2年前に「NFTデジタル・コレクティブル市場におけるDeNAの新たなる挑戦」というタイトルでtechconでお話をさせていただいておりますが、DeNAでも川崎ブレイブサンダースのPICKFIVE、横浜denaベイスターズのplayback9など様々なNFTサービスをリリースしました。そこから、また2年ほど経過した今、また新しく、こうした技術を社会問題の解決などに繋げる施策というものが多く生まれています。それが、今日ご紹介するDAOであったり、デジタルと物理的な要素が融合する「フィジタル」という世界観、教育分野におけるマイクロクレデンシャルとしてのSBTなどです。

今日のお話では、まず、現在のDAOについて、ブロックチェーン技術の役割についてお話をした後、愛媛県の「みきゃんNFT」、福島の浜通りリビングラボなどの弊社が関わっている具体的な事例を紹介します。技術テーマとしては、ブロックチェーン技術単体だけでなく、ワイオミング州のDAO法や、QuodraticVotingと呼ばれる新しい投票の仕組み、デジタルツインをテーマとして、VPSやPhotogrametoryなど新技術や試み、様々な観点からお話をしたいと思いますので、40分という長いセッションですが、ぜひご覧いただければ幸いです。

DAOは、「共通の志を持つ人々が自律的に活動し、特定の管理者が存在しない状態でも事業やプロジェクトを進めることができる組織」を意味します。DAOについて考える際に、よく課題として挙げられるのは「2040年問題」と言われるものです。2040年には全国の896の市区町村が「消滅可能性都市」に該当するとされています。私は九州の佐賀県出身であり、地方で起きているこのような問題は他人ごとではなく、こうした課題を考えるきっかけにもなっています。この状況の中で、「関係人口」と呼ばれるコミュニティの構築が急務とされ、Web3やDAOへの関心が再び高まっているとされています。企業における副業という働き方やふるさと納税などもそうかもしれませんが、多くの領域で、分散化、流動化、多層化が進展していると言われている状態で、個々のアイデンティティも、一つの組織や地域に帰属するものから脱却していくものと考えられます。

これまで企業のモノづくりにおいては、トップダウン的な手法、いわゆるピラミッド型のアプローチが一般的でした。しかし、現在の人口減少や技術、課題の多様化を考えると、一つの企業や組織内での完全な囲い込みは難しくなっている中で、様々な組織に属する人々が協力し合い、柔軟に新しい何かを生み出すプロセスが求められていると考えられます。

このような状況の中で障壁となるのは、人、モノ、金の接続と流動性の担保ですが、こうした問題にブロックチェーン技術は大きく寄与すると言われております。

まず、人の接続という観点で、見ず知らずの人たちが関わり合うには、トラスト、信頼が重要です。しかし、コミュニティに所属するために都度、履歴書のようなものが必要だとすると、柔軟性に欠けます。そういった課題を克服するために、ビットコインのガバナンス構造は非常に参考になります。ビットコインは、マイナー、ノード運用者、コード作成者、ユーザー全てが必ずしも信頼されていない中で、管理ノードや階層関係なく、誰もが同じソフトウェにアクセスすることができる仕組みが存在していますが、これを実現しているのが、PoWというガバナンス構造です。

 もともとコンピューターが進化していく過程において、このような思想自体は、1996年にJohn Perry Barlow氏の「サイバースペース独立宣言」で語られていたものの、技術的な課題によって実現されませんでした。その課題の一つは、多重人格障害によって多数のアイデンティティを抱えた人物が登場する1970年代の映画になぞらえて「シビル攻撃」と呼ばれるものです。100人で決めているようにみせかけ、実は1人が100アカウントを制御している可能性を排除できず、真に分散的な仕組みを作ることができませんでした。サトシ・ナカモトが開発したナカモトコンセンサスをきっかけとして、不特定多数の参加者を前提とした分散型組織の構築が現実的なものとなりました。今日ご説明するDAOもクラファンみたいなイメージを持たれるかもしれませんが、ぜひ、ガバナンス構造とセットで考えると色々と新しい発見ができるのではないかと思います。

分散型技術としてのブロックチェーンを見た時に、様々なアプローチがあり、例えば、トランザクションのスピードを早くする試み、ブロックチェーンの相互運用、Wasmを使ってコントラクトを実装する取り組み、色々あります。この中でも、特に興味があるのがPoWという仕組みです。ビットコインはsatoshinakamotのホワイトペーパーによって生まれたわけですが、P2P型の決済システムのアイデアというのはそれまでも、多く存在していました。1983年、E-cash、1989年 digicash 1998年 b-money 2004年bitgoldなどで、必ずしも、分散的な決済方法というものがこれまで考えられてこなかったわけではありませんが、2008年PoWという発明によって、初めてビットコインが、実用化されたと言われています。今日ご説明するDAOもクラファンみたいなイメージを持たれるかもしれませんが、ぜひ、ガバナンス構造とセットで考えると色々と新しい発見ができるのではないかと思います。

2つめ、次にモノの接続として、相互運用の観点です。様々なシステムが双方向にデータを通信するためには、プロトコルなどの共通化の仕組みが重要ですが、多くのプロトコルは特定の研究者だけの間で決められるケースがあります。。Ethereumなどでは、プロトコル開発に多くの人が関与できるような構造が採用されており、「ERC」という規格です。例えば、暗号通貨の規格である「ERC-20」は広く知られていますが、現在、ERC規格は進展し現在では、多くの規格が作られています。

3つ目のポイントはカネの接続として、スマートコントラクトになります。スマートコントラクトが他のプログラミング言語と大きく異なるのは、暗号通貨をコードの中で簡潔に扱うことができる点です。私自身、10年前にmobageの決済に関連する仕組みも扱っておりましたが、複数のシステム、データベースがある場合、状態遷移が複雑で、必ず差分が出てきてしまいますが、差分を吸収するために付随するシステムがすごく大きくなってしまうわけです。mobageではあらゆるバッチ処理があって、本当に、大変だったわけですが、スマートコントラクトではもっと簡潔に記述することができます。

自動販売機に例えられることがありますが、お金を投入し、ボタンを押して商品を取り出すという一連の流れを担保することができます。こうした仕組みによって、複雑なDAOの様々なアイデアを、実装することができるわけです。DAOの面白い機能、色々なものがありますが「rage quits」という概念で、解散宣言された時に、プールされた資金が参加者の人数で割られて、返金されるような仕組みがありますが、おそらくこうしたルールを既存の金融の仕組みで書く場合、かなり大変だと思いますが、こうしたアイデアをシンプルに書くことができる点も大きなメリットと言えます。

さて、このようなコントラクトの活用ですが、技術的には可能であっても法的には実現が難しいケースが多々あります。DAOの場合は、現在の日本の法律の下ではDAO自体が法人格を持たず、税法上の取り扱いも不明確でこれを「権利能力なき社団」とも言いますが、制度整備が必要となります。昨年末、自民党主催のDAOルールメイクハッカソンに参加しました。この中で、DAOを利用している企業や団体、自治体が参加し、どのような法律があれば今の問題点を解消できるかについて議論しました。国外では、ワイオミング州では匿名で参加するDAOがLLC(有限責任会社)と同等に扱われ、一般企業との取引が可能になりました。我々も今行っている実証事業の中で、DAOを作りたいという話題が出たんですが、DeNAと書類的な契約が結べないという点で、難しい状況がありますが、取引することは難しい状況にありますが、将来的には、法規制の整備により状況が改善される可能性があります。

DAOというものは投票の仕組みと言われると、今ひとつピンとこないかもしれませんが、実は、こうした仕組みの裏側にあるのは、ビザンチンフォールトトレランスと呼ばれ、本来コンピューターの故障やエラーシグナルに対応するメカニズムに用いられてきたものです。航空機に使われるアビオニクスシステムでは、複数のセンサーのうち、何個がエラーを報告したら故障と判断するかという話題は、DAOで「何人が悪さをしたらシステムが破綻するか」という話題に置き換えられます。重要な点は、DAOというものが、突然出てきたまったく新しい概念というわけではなく、これまであった、基礎的なコンピューターサイエンスの仕組みを使うことで、社会課題の解決に繋げていこうというのが大切な観点になります。今日、実は、ビザンチンフォールトトレランスという名前からとって、ビザンチンというゲームをブースでご用意しているのですが、こうした仕組みを、カードゲームで体感しようというゲームでして、お帰りの際に、ぜひ体験いただければと思います。

愛媛県の事例とDAOの説明

DeNAでは昨年末から自治体でのWeb3活用に関する実証実験をスタートさせています。令和4年12月に実施された「Web3.0技術を活用したみきゃんNFT流通実証実験」と、令和5年から実施中の「Web3.0人材育成検証事業」についてご紹介します。昨年末、愛媛県内3箇所と東京1箇所、計4箇所でNFTの配布を行い、NFTを使用して人流の変化や、「地元で稼ぐ」ということを一つのテーマとして、OpenSeaによる売買などの実証実験などを行いました。

クリエイターエコノミーというものをテーマとしまして、県内在住の学生さんから社会人まで広く募集を行いまして、愛媛で人気のキャラクターみきゃんをデザインしたNFTを作成してもらい17種類のNFTを作成しました。みきゃんが鯛に食べられているというデザインがあるのですが、みかん鯛という地元ゆかりのある食べ物を表現されているなど、とても特徴のあるデザインが集まりました。また分散型のコンテンツということで、地域で、NFTの勉強会が開催されたり、紙に印刷してリアルな展示会が独自開催されるなど、コンテンツが地元で広がりを持っていくような姿をみてとることができました。

愛媛県から出されている分析レポートでは、実証実験の参加者の多くが積極的に地元を盛り上げて行きたい思っている方が多い点が挙げられました。このような結果を受け、令和5年から、改めて県の事業として「Web3.0人材育成検証事業」でDAOを大きな柱の一つとしてスタートし、DeNAも事業をお手伝いしています。まず、分析レポートの中で「NFTを取得するために車を2時間走らせた」という観点から、こうした施策が行動変容につながること、そしてその先に、そうした行動と紐づくことで、クレデンシャルとしての機能を持てるのではないかという仮説のもと、Web3.0人材育成検証事業では、SBT(Soulbound Token)というものをテーマとしてNFTの活用を行いました。

SBTは、Ethereum開発者のビタリク・ブテリン氏が、金銭的な紐付けが多いNFTの状況を見て、売買などができず、証明として活用できるトークンを提案しましたが、そうした活用方法になります。実は、売買ができないという点は、プログラムソース的に見ると、これまでのNFTのtransferの機能を削っただけのように見えるですが、本質的には、売買ができないというだけではなくて、万が一アカウントを失ってしまった場合の、リカバリ方法などが合わせて議論されていたりします。分散的な仕組みであるため、こうしたリカバリについてもソーシャルリカバリと言われる分散的な復旧方法などが考えられています。DIDと言われますがID管理の仕組みなども合わせてこうしたSBTの議論となっています。これも、多くが公開された状態ですので、非常に面白い流れになっています。

昨年は、NFTを売買できるという観点で、実証を行いましたが、今年度SBTに変更したのは、よりDAOのコミュニティとして成立させるための活用を考えたからです。そうした意味で、先にご紹介した、NFTの取得のために遠くまで足を運んでくれた人だとか、自治体が企画したイベントに参加してくれた人という枠組みによって、一定の熱量を図り、コミュニティの温度を高めていくというのは非常に理にかなっているのではないかと思います。

 こうしたNFTを保有する人が、悪戯半分でコミュニティを荒らす可能性は限りなく低いとも考えられ、コミュニティの決め事を行う投票資格などへの応用は理にかなった使い方かもしれません。実際に、「OtterSpace」と言われるDAOツールでは、経済的インセンティブに紐づかないガバナンスによる新しい形のコミュニティが提案されており、中心となっているのは、「ERC-4973: Account-bound Tokens」という仕組みで作られたSBTの規格の一つです。経済的なインセンティブと密接な関係にあるうちには、費用を賄うために、影響力を減らす可能性があることなどの問題に触れられており、より良い合意形成のためにこうしたトークンの使い方が期待されています。将来的には、みきゃんNFTも、リスクの低い小さな意思決定などから徐々に活用を考えていければと考えています。

マイクロクレデンシャルとは、修士や博士などの学位課程に比べ、より小規模に分散された教育プログラムの修了証として用いられるものとして、EdTechと言われるテクノロジーを用いて教育を支援する仕組みと絡めて、利用されるユースケースが増えてきているそうです。2015年にMITが、「MicroMasters」という仕組みを考案しているそうですが、技術やスキルが多様になる今、様々な研究機関が横串でつながり合うことは非常に重要な動きであると考えられます。ブロックチェーンを活用した資格の相互運用の仕組みはBlockcertsなどをはじめ、TOEICにも導入されたことで注目を集めています。またDeNAでも数年前からこのようなブロックチェーンを応用した資格証明の実証実験も行っており、プログラミングスクールの中で受講証明書として活用したこともあります。

もう一つは、メタバースなど新しい技術の体験を行いたいという観点です。Metaが企画していたオープンワールドでは、過去に商品などの管理体型としてNFTが利用されていましたが、他にも---というオープンワールではNFTを使ってデジタル商品の管理が行われていたり、言い換えると、NFTは現実世界と仮想世界を行き来するための手段として挙げられます。こうしたデジタルやフィジカルが紐づく手法は、Web3業界では様々な施策があり、Mixed Realityなどとも相性が良いことで知られますが、今回は、こうした手法の導入を目指しました。

今回の実証事業では、ARではなく、仮想世界を現実世界に呼び出すためのドアとして3Dプリンタの活用を行いました。実はWeb3業界では3Dプリンタで作られたシューズ、さらにデジタルとフィジカルを接続するためにRFIDの活用は、多く使われている手法でもあります。そうした中でWeb3.0親子体験会として、愛媛県総合科学博物館など2箇所で、ブロックチェーン技術について知っていただくために、3Dプリンターを用いた「みきゃん博士のクリーチャーズファイル」というイベントを実施しました。クリーチャーは最近子供とデュエル・マスターズをやってるんで、クリーチャーを作るというのが頭を過って命名させていただきました。

「子供たちは無料の3Dソフトウェアを使用してクリーチャーを作成し、そのデザインを3Dプリンターで印刷しました。それらはカプセルトイとしてガチャガチャに入れられ、参加者はお持ち帰りすることができました。DeNAは元祖ガチャの会社でもありますので、喜んでいただけたんじゃないかなと思います。さらに、RFIDカードも提供され、自宅で制作を続けることが可能になる工夫が施されました。今、うちの子供もそうなんですが、GIGAスクール端末を持ってるので、自宅に帰ってからもブラウザで創作活動を続けることができるという施策を合わせて行いました。

次に、第二の柱であるDAO(分散型自律組織)について説明します。12月からは、このイベントおよび公募で作成された3Dモデルを活用し、投票により愛媛県のWeb3公式キャラクターを決定しました。クリエイターとなるのは子供たちですが、投票には子供を持つ親御さんや教育関係者が多く参加すると考え、こうしたことを条件としたSBTを作成しました。今、子供たちを取り巻くデジタル環境が変化している中、当事者が議論を行い、デジタルシフト推進課に提言を行う機会になったのではないかと思います。こうした投票チケットとなるのが先にご説明したSBTと呼ばれる概念になります。

今回、愛媛県で採用したのはhazamabaseと呼ばれる投票の仕組みです。手順としてはコントラクトを作成し、それに紐づく、投票のルールを作成します。投票となるNFTが何であるのか、そのNFTは何票分の権利があるのか、プロポーザルを通過させるには、全体の何割が投票すると通過できるのか等、様々なルールを記述することができます。プロポーザルや投票の実行などのアクションを行うごとに、ブロックチェーンにデータを書き込むためにガス代が必要となりますが、hazamabaseではガスレストランザクションに対応しておりまして、こうしたガス代を運用者が支払うことによって、ユーザーはガス代の負担をすることなく、様々な機能を利用することができます。ほとんどのユーザーはブログを作るような感覚で投票の様式を作ることができます。もちろん、プログラミング、コントラクトを触れる人であれば、こうした仕組みをプログラミングで起こすことや、指定された規格にしたがっていれば、外部から呼び出すことも可能でして、リーンに初めて、少しずつ自分で手を入れながらカスタマイズしていくことも可能である点が面白いと思います。

先日、事前にDAOの集まりの機会があり、我々も参加しました。その際、現地の方々と議論の進め方について話し合いました。現在、Discord内で子供を持つ親や、障害を持つ子供と関わる方々向けに勉強会などのフォローアップを行っており、これが非常に好評です。NFTを活用し、コミュニティへの参加権を提供することは難しいかもしれませんが、投票に関心のある人を絞る使い方は理にかなっていると思います。

DAOの構造

さて、DAOの構造について、もう少し技術的な背景を話したいと思います。DAOは、コミュニティ、ガバナンス、トレジャリーなどの機能から構成されます。コミュニティへの参加は自由な場合もありますが、NFTを持つ者のみに限定されることもあります。メンバーが提案(プロポーザル)を出し、コミュニティ内で議論が行われた後、投票が行われ、指定されたルールに従ってトレジャリーから資金が支払われるという流れが一般的です。簡単に言えば、学生証を持っている人たちが、学校というコミュニティの中で、文化祭を企画するというイメージがわかりやすいかもしれません。たこ焼き屋をやるのか、焼きそば屋がいいのか、それともお化け屋敷をやるのかなど、様々なプロポーザルについて、コミュニティの中で議論します。最終的には、決定されたプランの実行者が資金を受け取ることで文化祭の実現に向けて動いていきます。たこ焼きをやる場合は、魚屋さんのWallet、鉄板レンタル業者のWalletが事前に登録されていて、意思決定された瞬間に、自動執行されるような仕組みもあり、企画者が資金を持ち逃げしたり、ねこばばしてしまうような不透明さが排除されることが期待されます。

さて、DAOの一番の魅力は、従来のガバナー(人間の意思決定者)に代わり、自律的に意思決定を行うコンピューターの仕組みにあると思います。ものづくりを行う上で、制作進行などの調整業務を行ったことがある方もいるかもしれませんが、度々、様々な意思決定の中で、板挟みにあうケースがあるかもしれません、こうした難易度の高い、意思決や調整をコンピューターに置き換えてしまうことで、人間は成し遂げたい仕組みを考えることに集中することができるというメリットがあります。具体的には、こうした意思決定社のことをGovernorというコントラクト上のプログラムを展開するわけですが、難しいことはなくて、様々なテンプレートが用意されていまして、ブラウザベースのツールなどもあります。オーソドックスには、remixiと呼ばれるコントラクトを記述するツールを使って雛形をブロックチェーン上に展開することができたりしますが、どちらかというと、ソースコードを展開することよりも、パラーメーターをどう設定するかの方が難しいかなと思います。というのも、Governorのパラメーターは意思決定者の性格を形成する要素となっています。例えば、Voting periodを短く設定すると、意思決定は迅速に行われますが、参加者が提案されたプロポーザルを十分に読み込む時間が不足し、慎重さが欠ける可能性があります。一方で、Voting periodを長く設定すると、意思決定は遅くなりますが、より慎重な判断が可能になるかもしれません。他にも、パラメータは多数存在し、どのような性格の意思決定者がどのような決定に効果的であるかについては、何度も検証を重ねる必要があり、まずは身近なシステムからDAOを活用していくことが求められます。

さて、ガバナーの意思決定メカニズムに似た様々な投票システムも設定することが可能です。子供の頃から「一人一票が公平」と教えられてきましたが、実際の投票システムは必ずしもそうではありません。例えば、火星に新しい港を作るために、どこに港を作るかというのを選挙するという話ですが、普通に投票すると、人口の一番多いところに決定されてしまうと。この図でいくとWのところが一番多いので、港がここに作られるんですが、全体感としては、NとEとSをたすと、Wよりも多くなるので、本当は、もうちょっと右側に作った方がより平等ではないかと。で、これを改善するために、全く異なる投票形式を採用してみようと、つまり、2番目の希望まで書かせるとどうなるか、決選投票のような仕組みを採用した場合には、結果が変わる可能性があるわけです。

他にも、DAOで語られるユニークなのは、「Quadratic Voting(QV)」と呼ばれる手法です。これは、使わない票を貯めておき、後にその票の平方根が投票の効力となるシステムです。この仕組みを使うことで、従来意思決定で排除されがちだったマイナーなアイデアも採用されることが期待されます。以前はこのような投票ルールを活用するのが難しかったと、票を貯めるということもできませんません。しかしながら、DAOではルールベースが組み込まれ、切り替えることで多様な視点からの利用が可能になります。DAOでよく利用される「Snapshot」は、このような意思決定メカニズムに対応しており、様々なシステムが存在します。これらのシステムを試しながら、人々の幸福に貢献することは、ブロックチェーン技術の魅力の一つです。

データを分散化することで得られるメリット(防災)

さて、自治のための分散的なデータ活用という観点でお話をしたいと思います。2007年に英国で始まった試みで、「FixMyStreet」というシステムがあります。これは、道路の破損や、落書き、街灯の故障など地域の課題を共有解決するための掲示板のようなものです。地元で問題を解決する、まさに「自治」の仕組みと言えます。このような手法は、Linuxのリーナス・トーバルズが提唱したリーナスの法則、「多くの目があれば、バグはなくなる」というオープンソースの考え方にも似ているように思いますが、色々な人が関わることで、サービスを向上させていくことを目的としているわけです。

技術がさらに進歩し、様々なIoT機器などを通じて多くの情報を収集できるようになりました。例えば、皆さんが楽しんでいるPokémon GOでは、レベル36以上のプレイヤーには、新しいスポットを作成する権利が与えられ、さらに情報の収集にはVPSなどの仕組みがあわせて使われています。

こうした手法は、今、Society5.0という位置付けの中で、非常に重要な位置付けとされています。ドイツ政府が2011年に発表した産業政策「インダストリー4.0」では、第4次産業革命として非常に重要な位置づけがなされています。CPS(サイバーフィジカルシステム)は、多様なデータをセンサーなどで収集し、サイバー空間で分析し、得られた情報をもとに社会問題の解決を目指すものとなっています。「竜とそばかすの姫」という映画では、生体情報を取り込み、主人公のアバターを変化させる様子が描かれていますが、もはやこうした動きは、映画の中だけの世界ではなくなっていると言えます。

第1回「浜通り復興リビングラボ〜サイエンス×官民共創まちづくり〜」で、復興庁主催のもと、東日本大震災の津波で大きな被害を受けた福島県いわき市の沿岸部にある豊間小学校で、最先端のICT技術を使って津波の怖さを学ぶワークショップが実施されました。子供たちは、無料の3Dソフトを使用して、それぞれのモンスターをデザインし、事前に指定された場所に8mの高さでこれらを設置しました。iPhoneを使ってこれらの情報を取得し視聴、自分たちが作成したモンスターが8メートルを超えるサイズになるのを見て、津波が発生した際にどの方向に逃げるべきかも合わせて確認しました。いわき市の豊間小学校は、震災の津波による被害は校舎にはありませんでしたが、児童2人が学校の外で犠牲になったそうです。お子さんたちが生まれる前に起きたこのような災害についてデジタル技術を使って改めて教育に繋げることと同時に、こうした新しい技術を用いることで実際に災害などが起きた時に活用する仕組みが将来的には作れると良いと思っています。

ARなどの情報ツールを用意しても、実際に使い方がわからなければ意味がありません。緊急時に備えて、日常的にゲームやエンターテインメントの要素としてこれらの技術を楽しみながら習得すること、そしていざという時には、様々な情報を可視化するツールとして活用することの両面でのアプローチが必要であると考えます。

使用されている技術はNiantic社のLightship VPSという技術です。Niantic社は、「ポケモンGO」などのアプリケーションを提供する企業であり、そのバックエンドテクノロジーを「8thwall」というシステムを通じて開発ツールとして提供しています。

VPS(Visual Positioning System)は、カメラやその他のセンサーを使用して物理的な環境の中でデバイスの正確な位置を特定する技術で、周囲の環境の画像を捉えて既知の地図やデータベース内の画像と照合し、位置を決定します。屋内環境や都市部の高層ビル密集エリアでも高精度な位置情報を提供でき、GPSでは表現できない高さを表現できるため、今回防災というテーマでの技術選定に至りました。

最近では、東京都交通局から、都営地下鉄でGoogle マップの「インドア ライブビュー」の導入が発表されたことが話題になりました。GPSの入らない地下において、景観などの情報を元に、ARナビゲーションを行うことができる仕組みで、グローバルローカライゼーションという技術が使われています。実際に、このグローバルローカライゼーションも、今回いわきで活用したVPSに加えて、ストリート ビュー、機械学習を組み合わせた手法であると公表されていますが、景観情報を活用する際の難しさの一つは、天候や季節によって景観が変化してしまう点です。

いわきの場合も実際に、昨年撮影したデータの中で、工事中の箇所が解放されていたり、木の葉が枯れていたことが影響していると予想されますが、少し反応が悪く感じられる部分がいくつかありました。8thwallでは、朝昼晩や期間をおいて何度か撮影を行うことで景観の平均化された特徴点を活用する仕組みがありますが、データの収集にかかるコストや努力は並大抵のものではありません。ポケモンGoでは、こうした情報の収集に対して、一定レベル以上のユーザーに、ミッションとしてデータをスキャンさせ、モンスターボールと交換するような手法が提供されていますが、分散的な情報の収集に対して、報酬を支払う仕組みはまさに、こうしたデータ活用の手法ではないかと思います。

先にご紹介した、普段は楽しみ、緊急時には、防災という仕組みで活用するような方法は、地域のお祭りのようなものであるかもしれません。お祭りで使う調理器具、食材などを運ぶための輸送手段、イベントを行うための広いスペース、こうしたリソースは、災害の時には、食料を提供したり、怪我人を運んだり、避難所に使うなどの利活用方法が想定されます。楽しむことで、緊急時に備える手法は、お祭りと同様にして、こうした元々はイベントによって収集されていた情報は、現代の情報システムによって統合することが可能かもしれません。

ポケモンGoのように能動的な投稿ではなくて、各種センシング技術を用いた手法も存在しています。このようなセンシング技術を用いて生活を豊かにする試みは、スペイン・バルセロナ、中国・杭州などにおける先端事例は多く、日本でもスーパーシティ構想などで議論されてきた経緯があります。我々人間に目や鼻、耳などがあるように、街にとってセンサーはとても大切なものなのです。建物などではセンサーを網羅的に配置できますが、街すべてが舞台となるケースでは、個人のスマートフォンや既存のデバイスから情報を集めることも有効です。

昨今のエネルギー問題から、スマートメーターなど外部から電気や水道量をモニタリングできる仕組みや、スマート街路灯なども注目されています。少し前のニュースですが、ペルーではハゲタカワシにGPSをつけてモニタリングに従事しているという面白い話題などもあります。私が愛用しているウェザーニュースの「みんなでつくる天気予報」は、簡易気象観測器である「WxBeacon2」というセンサーによってモニタリングしたデータを共有することで、天気予報の精度に貢献できますが、空という圧倒的に広い範囲では、このように個人の集合知を吸い上げる仕組みは理にかなっているように思います。コロナ禍において、商業施設などでは「換気の見える化」のために二酸化炭素濃度の測定がされるようになりましたが、環境モニタリングは今後も必要とされると思います。 現状、データの多くは無償で提供される仕組みになっていますが、データの提供に対して報酬を返すことができれば、より多くのデータが集まるかもしれません。ブロックチェーンを用いた話題として、「モビリティエコノミクス(日本経済新聞出版)」のなかでは、車両走行時に、周辺の様々な情報を吸い上げるIoT機器に対して報酬が還元される仕組みについてのアイデアが述べられています。また、ブロックチェーンを用いたWi-Fiネットワークソリューション「Helium」というサービスでは、自宅にWi-Fiスポットを設置することによって報酬が還元される仕組みになっているそうです。ブロックチェーンとIoTの組み合わせが期待されるのは、マイクロペイメントという利用量に応じた少額支払いと、個々のデバイス自体がウォレットという勘定の概念を持つことができるという点です。報酬が期待値にあうかというエコノミクスについては、まだ各社、試行錯誤の段階だと思いますが、十分にマネタイズが行えればサービス自体の成長に大きく寄与することができるでしょう。

合わせて、将来的には、AWSTwinMarkerというシステムを使って、センサー機器から収集した情報を自動的にバーチャル情報に切り替えるような仕組みが提供されるなど、具体的な実装方法も作られてきています。AWSにはAWSManagedブロックチェーンと呼ばれる環境も用意されているため、Twintmarkerとブロックチェーンを接続することで、様々な応用なども可能です。

データを分散化することで得られるメリット

さて、もう一つ、防災と同様にして、分散的なものづくりを「観光」に繋げていけるのではないかという仮説実証実験についても少しだけお話します。これまで行政の観光課が担ってきた、街の魅力などの発掘を、観光に来てもらった人自身に見つけてもらおうという取り組みです。こうした分散型のメディアについては、Youtuberなどをはじめとして、積極的に行われているものですが、現状、個々に行われえている発信を、DAOなどのグループとして捉えることによって、横同士の繋がりを強化するなど狙いがあります。

ブロックチェーンの仕組みの中で、現在盛り上がりを見せているのはRWA(RealWorldAsset)という観点の仕組みです。リアルワールドアセット(RWA)自体は、株式や債券、不動産、美術品、貴金属、カーボンクレジットなど無形・有形の現実資産のこと。これらをトークン化することで、DeFi市場が拡大や、各資産の流動性向上や金融取引のコスト低下など、様々なメリットが期待できます。これはどちらかというDiFiと呼ばれる金融文脈の話題ではありますが、実際にものを動かすことなく、デジタルデータを移動させることによって、美術品など輸送コストなどを減らすことができることが期待されているものですが、同時に、現実のものをデジタル上に表現することができれば、こうした取引もまた円滑に進むのではないかと考えています。

LiDARや、Photogrametry、LumaAI、3D Gaussian Splattingなどなど、現実空間の情報をデジタル空間に取り込む手法はここ数年で大きく進化しました。さらに先にご紹介したGoogleMapの取り組みの中でも、Immersive Viewという機能があり、3Dで表現された都市モデル、東京タワーやスカイツリー、浅草寺などをGoogleMap上で触ることが可能となっています。同様にして、閖上においても、こうした手法を活用して、観光などの情報資源にアクセスできる手法を現在模索しています。仙台高専の学生さんとツアーを計画して、閖上のかわまちテラスという場所を舞台に、観光客を取り込む施策を現在考えています。

近年、カメラ画像やセンサーなどを使って、現実空間のオブジェクトを手軽に3D空間に取り込むことのできる技術は大幅に進化しました。元々は、Visual Odometryなどの技術は、ロボット自身の移動量を計測する手法でもあります。車輪などの駆動装置の回転数を加算して移動距離とみなす方法をWheel Odometryと呼びますが、カメラの画像を用いて自己位置認識を行うのがVisual Odometry(VO)という分野です。低廉なカメラで高精度に位置姿勢を求めるVPSは、Building Information Modeling(BIM)による建築施工管理やARを用いたモバイルゲーム、自動運転に向けた自己位置同定など、多分野で利用が進んでいる注目の技術です。

特に、特別な仕組みを必要とせず、動画や画像などから3Dモデルを作成する仕組みは、こうした分散的な情報の収集に向いています。ブロックチェーン自体の仕組みなども、一般的なパソコンなどで検証できるようにサイズが抑えられていたりするのですが、真に分散化されるためには、あまりにも特別な仕組みが使われないようにするという配慮も必要となります。iPhoneに掲載されている仕組みによってLiDARなどのセンサーもより一般的にはなってきたと思いますが、動画や写真によってこうしたモデリングができる手法が普及すれば、データをより取りやすくなります。

Conclusion

さて、これまで、DAOなどを中心とした、分散的なものづくりの形をみていただきましたがいかがだったでしょうか。DeNAでも長い間、こうした分散的な仕組みというのは、自社の利益にどう繋がるのかという部分において、なかなか説明が難しかった部分があるかなと思っています。しかしながら、今年から、自治体さんと一緒に、自治という観点での施策を行い、プロダクトの地産地消と読んでいるのですが、子供達をはじめ、色々なリソースを持ち寄ることで、プロダクトをいくつか実験的に作ることができました。いわゆる東京でのものづくりでは、デザインの発注一つとっても、お金がかかったり、広告宣伝費がかかったり、新規事業におけるプロダクト開発は、かなり消耗も多いのではないかと思いますが、地元のIP、リソースを使って、地元を盛り上げる施策に活かすという部分では非常に面白い挑戦ができたようにも思います。一方的に発注をして作るのではなくて、現場の人に教育を施しながら、一緒に作るという協調的なものづくりを行うことで、リスクを減らしながら、新しいことに挑戦ができたり、自治体の方も、地元の方の教育を合わせることで地元企業などを将来的に潤うような仕組みに繋がるのではないかという期待があります。

また、今回得られた気づきとしては、子供達のが技術に触れることで、お子さんって、親の仕事をよくみているわけですので、その中で、親御さんの職業観の中で、何か新しいDX分野の仕組みをご家族の中で話し合って、それが、最終的には、地元を盛り上げるような施策に繋がって欲しいなという形でもありました。先端技術というものを実際に、一部の企業が企画して、コンサルティング的に導入するという手法はどうしても限界があるのではないかと思っています。そうした中で、コミュニティ作りに加えてこうした教育を行うことで、こうした活動が広がっていくことが求められます。

2040年問題という課題に向けて、僕らはレッドオーシャンで、他者を潰して疲弊していくようなリソースはほとんどなく、それぞれの人がパズルのピースのように、求めているものと提供したいもの、を上手に繋いでいくことがすごく重要な気がしています。本日は、Web3、DAOが描く地方創生とデジタルガバナンスの社会実装というタイトルでお話をさせていただきましたが、分散的な仕組みによって作られるものづくりの魅力が少しでも伝わっていれば嬉しく思います。分散的なものづくりが、皆さんのものづくりのヒントになれたら、また、持続的なものづくりの仕組みに貢献できたとしたらこれ以上のことはありません、ご清聴ありがとうございました。

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