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TALK EVENT「エディブル・スクールヤード」のはじめ方 in 小川町 を開催しました

※今回のnoteは、4月の投稿で助っ人として紹介された高木が担当しています。

2020年4月、PEOPLEというお店の裏庭ではじまったエディブルガーデンづくり。夏を迎えてからは、ハーブ類やトマトにきゅうり、ピーマンにナスと、食卓にならぶ定番の野菜たちが収穫できるようになり、採れたての野菜をみんなで料理し、食べる機会も増えた。

瓦や土砂を片付けながら開墾していた当初からは、想像できなかったような賑わいを生んだエディブルガーデン。

裏庭での取り組みをはじめるきっかけになったのは、PEOPLEのオーナーである柳瀬さんが2019年にカリフォルニアを訪れた時のこと。

当時、カリフォルニアのサンタクルーズ に住まれていた西村和代さんに、「エディブル・スクールヤード」という取り組みの紹介や、街の案内をしていただいたそう。

そこで「ひとつの庭から楽しさや美しさが町に広がっていくシーンを、小川町でもつくりたい」という想いが芽ばえ、裏庭でのエディブルガーデンづくりがはじまったのだ。

現在は京都と広島で暮らす西村さんの経験を、小川町の皆さんにも共有していただくことで、同じような想いをもった仲間が増えることを願い、この庭の仕掛け人ともいえる西村さんをお呼びすることになった。

「食を学ぶ」のではなく「食で学ぶ」

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西村 和代(にしむら かずよ)さん
一般社団法人エディブル・スクールヤード・ジャパン共同代表。1967年京都生まれ。子育てやPTAでの役員経験を活かした独自の主婦視点を持ち、環境教育、食農教育、人材育成、まちづくりの分野で活動している。カラーズジャパン株式会社代表取締役。おばんざい食堂「ひとつのおさら」オーナーシェフ

今回は「エディブル・スクールヤード(以下ESY)」の取り組みを中心に、その活動がはじまったアメリカのバークレーのこと、日本でESYを取り入れているモデル校の事例をお話しいただいた。

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「エディブル・スクールヤード」とは
1995年にアメリカではじまった食育菜園教育のプログラムのこと。菜園を中心として、〈必修教科+栄養教育+人間形成〉の3つをゴールとし、各々の学習目的を融合させた「ガーデン」と「キッチン」の授業を行う。
いわゆる「読み書きそろばん」の上に「食べること」を持ってくる、学びの中心に「食べること」を据える、という「エディブル・エデュケーション」の考え方が基本となっている

取り組みがはじまったカリフォルニアのバークレーでは、全ての小学校と中学校にESY=食育菜園があり、必修科目と統合された形でエディブル・エデュケーションの考え方が実践されているそう。

みんなで畑を耕し、作物を育て、そこでとれた食材を料理し、食べる。それだけでは、農業体験と大差がないように思われる。「食を学ぶ」のではなく「食で学ぶ」とは、一体どういうことなのだろうか。

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保育園の園長先生にグラフィックデザイナー、地域おこし協力隊にカメラマン、そして有機農家さんや建築チーム、木工家具をつくる企業の社長さんまで、多種多様な参加者が集まった会の中で、特に印象に残ったことをお伝えしていく。

「おいしい」と言ってはいけないテイスティング

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簡単な自己紹介のあと、カットされた2種類の野菜が参加者にくばられていく。

西村さん 「まだ食べないでくださいね。待っている間にじっくり観察してみましょう。どんな色をしているかな?どんなにおいかな?感触はどんな感じかな?たしかめてみてください」

くばられた順から食べるのではなく、みんなが一斉に同じ体験をするということで、記憶により残りやすいそう。

西村さん 「よく観察しましたか?じゃあ、これを食べてみましょう。…ちょっと待って!ルールが一つだけ。食べたあとに感想を言ってもらいます。その時に言ってはいけない言葉があります。感想は”おいしい”以外の言葉で表現しましょう

参加者一同、戸惑いながら「赤い野菜のほうが甘かった」「とがっている白い野菜のほうが舌に刺激があった」などと感じたことを共有していく。

西村さん 「この野菜が何か、正解をあてることが大事なのではありません。間違ったらどうしよう、と思わないような工夫をしていくんです」

感想をシェアしていくあいだも答え合わせのような感覚はなく、それぞれのコメントに興味津々。「同じように感じた人はいるかな?」西村さんからの問いかけで、一人じゃないんだという安心感が生まれることもあれば、自分とは違う人がこんなにいるんだ、と感心したりもする。

ふだん頼りがちな「おいしい」という言葉からはなれると、いつのまにか掛けていた色メガネに気づかされる。

ESYでは、このように五感を使いながら表現の勉強として国語の単元にあてたり、ともだち付き合いを学んだりと、食材についての知識を単に身につけるということではなく、その体験を通じて様々なものを学んでいく。

これは理科?それとも家庭科?「すがたをかえる大豆」の授業

日本でESYを取り入れているモデル校、東京都多摩市立愛和小学校での取り組みについてもご紹介をいただいた。

愛和小学校の3年生には「すがたをかえる大豆」という授業がある。

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西村さん 「大豆を植えて、お世話をしながら成長を観察し、枝豆を収穫してみんなで試食をします。その後、大豆にまで育てて収穫する。できた大豆から何を作るかは、子どもたちが知恵をしぼって考えるんです。昨年は味噌を仕込み、今年は豆腐づくりに取り組みました」

スライドの写真には、エプロンを着て、頭にバンダナを巻いた子どもたちがキッチンに集まっている。家庭科や理科の授業かと思いきや、なんと国語の単元とのこと。

西村さん 「キッチンでは、友だちと助け合いながら豆乳を絞り、茹でたときの香り、潰したときの手の感触とか、五感をフルに使って表現を学んでいきます」

そして、授業中の教室の様子をよく見てみると、賑やかな装飾が施されている。この装飾も、特別なパーティの日だからというわけではなく、普段の授業の1シーンだという。

西村さん 「授業の前には、きちんとクロスをしいてお花を飾る。いままで勉強していた空間から、しっかりと場面を転換してあげるんです。そうすることで、食に対するリスペクトを生む、食への興味関心を高めることにもつながります」

ESYに対しては、食や畑といった要素のイメージがどうしても強くなりがちだけれど、実は授業の裏側に盛り込まれている様々な工夫の積み重ねこそが肝心なのだ。

おにぎりの思い出~フードメモリー~

授業の中には、食べ物に対する記憶を持ちよる「フードメモリー」というプログラムもある。

「おにぎりの思い出」ということで、おにぎりに関する子どもたちの記憶が集められていた。

「好きなおにぎりは明太⼦です。6年の12⽉8⽇に家のリビングで昼ご飯
の明太⼦味のおにぎりを⼀⼈で⾷べました。店のだけどおいしかったです。ラーメンもおいしかったです。」
「5年⽣の秋ごろ、家族で多摩センターに⾏って昼ご飯を芝⽣で⾷べた。。。私は、半熟卵の⼊ったおにぎりをコンビニで⾒つけ⾷べました。卵の⼊ったおにぎりはおいしかったです。」

おにぎりを食べている環境、どんなおにぎりを食べているのか。こうした食の記憶を通じて、わかることも多いとのこと。

ESYの創始者であるアリス・ウォータースが活動をはじめたきっかけも、食の崩壊と学校荒廃を同じ視点でとらえて問題提起したことから。

食べることと、暮らしや育ってきた環境は密接にむすびついている。西村さんから話していただいた、小学校にこだわって活動に取り組む理由も心に残っている。

西村さん 「小学校はみんなが行くところ。子どもが必ず行く場所で、体験するということは、親を選んでいないということなんですよ。どんな親であっても、子どもたちは同じ体験ができるんです。小学校で全ての子どもたちに平等に行われることを目指しているんです」

ひとつの庭から楽しさや美しさが町に広がってほしくて

いま小川町に住む子どもたちの記憶、食の記憶はどんなものだろう。楽しい、うれしい思い出が生まれていく、そんな場所がまちの中に増えていったらいいなと思う。

小川町に住んでいると「いまの子どもたちが大人になったときにも笑顔でいられるように…」と、諸先輩方が未来を願い、活動にのぞむシーンによく出くわす。

未熟者のぼくにもできることはあるだろうか。なにかをやるにも、自分たちが楽しくなくてははじまらない。まずは、エディブルガーデンがある暮らしを、もっともっと楽しんでいこう。

庭で採れた野菜たちでピザをつくる、そんな目標を胸に秘めて、ピザ窯のつくり方を調べはじめた。


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西村さん、ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました!

座談会が終わった後は、参加してくれていた有機農家さんの野菜をつかった
色とりどりのメニューが登場し、PEOPLEにまた一つ楽しい記憶が増えました。

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※西村さんにご紹介いただいた参考文献や資料まとめ

西村さんが共同代表をつとめる一般社団法人エディブル・スクールヤード・ジャパンのページはこちらから。

当日、ご紹介いただいた参考文献や資料をまとめておきますので、ご興味のある方はご覧になってみてくださいね。

※『食育菜園』は、現在販売が終了し、活動へのご寄付をいただいた方にお礼として配布しております。詳しくは、団体ウェブサイトまで。



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