多分英語の面白さはこの辺にあるのだろう

オガワは地図屋である。
ほんで、時々航空写真の検査をしている。
その時使用するのが、「オルソ画像」と「パンクロ画像」という画像データ。

基本的には「オルソ画像」がカラーで、「パンクロ画像」がモノクロである。
これらは衛星写真屋から購入する場合が多い。

…なんか名前が変だ!
なんで「カラー」と「モノクロ」って呼ばないんだ!?
業務上の呼び名と想像するものの名前が一致しないのは、新入社員が入るたびに「名称の訂正申し送り業務」が発生して面倒ではないのか…と思う。
しかしていち企業の歯車であるオガワが考えつくような「大変なこと」を組織の上の人間が把握していないわけがない。
とりあえず言葉の意味を調べてみた。

「パンクロ」、よくよく話を聞いていくと「パンクロマティック画像」という名前であった。ほえ〜
「パンクロ」は英語で「panchromatic」という事が確定した。
「オルソ」は英語で「ortho」と書く。フォルダの名前がこれなので多分そう。

googleで「パンクロマティック」と打つとまあ出てくる出てくる、フィルムの話。

なるほど写真屋はフィルムの話をしているらしい。
まあ写真屋だしな〜と思うなどする。
それではもう一方の「ortho」はというと、「正規の」という接頭語らしかった。

ちなみに「orthomatic film」というのがある。これはパンクロマティックフィルムよりも先にできた、赤の可視光線の感光度が低いフィルムである。
ああ、こいつが先に映画業界に参入したので、大昔のモノクロ映画では「女優の口紅は青かった」と言われているのか。
急に点で存在していた知識が線で繋がってしまった。
気になる人は映画の歴史の本を読んでみるといい。
これ↓動画もついていてわかりやすかった。


さて、「panchromatic」は結論からいうと3つの言葉?でできている。
「pan」、「chromatic」でそれぞれ意味があって、
「pan」が接頭語

「chromatic」が本体なのだが、matic部分は接尾語らしかった。

という上記のような経緯で「panchromatic」は日本語で「全色の、全整色の」という形容詞ということになった。

つまり直訳すると「orthomatic film」は「正規のフィルム」で「panchromatic film」は「全色フィルム」ということになる。
両方モノクロフィルムの名称やないかい。
しかもオルソの方が「正規の」と言っている割には写真としてのクオリティが低い…

ここでフィルムのもたらした影響に想いを馳せてみる。
今まで絵画や吟遊詩人の歌でしか市井の情報を掴み取れなかった平民たち。
初めてフィルム映画が上映された時、汽車の動画をみて「汽車がぶつかる!」と逃げ惑っていた上流階級の皆様方(これは動画があるので見てみるといい)
印象派が花開いた時期でもある。物事を正確に転写する機械が現れたことで、絵画は「正確さ」を担わなくてよくなったのである。

フィルムを発明した科学者たちはきっとその「正確さ」にある種の希望を持っていたのだと思う。だから接頭語に「正規の」をつけたのだと思う。
後発のフィルムを作った科学者はまあ、そのフィルムに赤が無いのを知っていたのだろう。
その人も多分全色感光であることを誇りに思っていたはずだ。後々色まで再現できるようになるとも知らずに浮かれた名前をつけてしまったものだ。
かわいい〜人類。

さて現代。人間はカラー写真のデータにモノクロフィルムの名前をつけて、オガワを混乱させている。
しかし、おそらくこの命名規則は「人類史上初めて衛星から写真を撮ってデータ化した」ときの希望をはらんでいるのだろう。
画像解析のプログラムにおいて、多くの場合は画像データそのものに住所としての名前を付与する必要がある。「どのフォルダの何々という名前の画像データ」という具合に。
こういった住所は「path」と呼ばれる。
さらに段階的に解析の進んだデータ達にも名前をつけていったり、とにかくプログラミングと命名規則は切っても切れない関係にある。
この画像データ、ものすごいことに、データから地表の高さを算出できるのである。
それはきっと衛星画像解析のスペシャリストが何年も頑張って研究を続けてきた成果だし、その足掛かりとしての参照画像データ郡を原初の「写真」という共通認識の上の名称で呼んでいることに敬意すら感じる。

検査対象データはカラーなのにモノクロフィルムの名前がついてるからなんだ!そこには人類の研鑽とデジタルデータ移行時のプログラマたちのアナログ技術への敬意が詰まっているんだぞ!!我慢しろ!!!

というわけでオガワは晴れやかな気分で納得して、この「間違った命名規則」に対して目を瞑っている。
検索と知識は面白い。英語も分析すると面白いんだなあ。