Tiktokはスパイなのか

Tiktokが国際問題で話題に

若者の間で流行しているスマホアプリに「TikTok(ティックトック)」というのがあります。15秒から1分程度の短い動画を撮影しシェアできるSNSで、小学生の娘たちの間でも人気のアプリです。

分類としてはSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)に当てはまりますが、TwitterやFacebookのように、テキストで表現するのではなく「動画を投稿する」サービスです。

「子供の戯れ」以外の何物でもないTikTokが、国際政治の荒波にもまれています。

日米で“TikTok排除”の兆し

 各紙が7月28日に報じたところによると、自民党内の「ルール形成戦略議員連盟」という会が、わが国でもTikTokの使用制限を求める提言をまとめる方針でいます。

個人情報保護の観点から国際的視点にたって考察しているnoteもあり、興味深いです。

 TikTokは中国のIT会社ByteDance社が開発し、運営しています。規制派は、「TikTokを通じて利用者の個人情報が中国政府に渡るおそれがある」としていますが、これは米共和党の意向に同調したものとみていいでしょう。

ドナルド・トランプ大統領率いるアメリカ政府ではすでに、「TikTok禁止」の方向で検討段階に入っています。米中貿易摩擦の中でアメリカ側が切ったカードの1枚と見ていいでしょう。

半導体などの製造業で世界を制覇しつつある中国が、SNSなどのコンテンツ・プラットフォームでも主導権を握るとなると、アメリカにとっては不愉快な状況です。世界的な成功を収めつつあるTikTokに対し、悪評を広めたいという思惑が垣間見え、日本はその流れに乗ろうとしています。

インド政府は6月29日に禁止

インド政府は6月29日、59のモバイルアプリの使用を禁止すると発表しました。「インドの主権と一体性を害する活動に関与している」というのを理由にしています。公式発表では中国を名指しはされていないものの、59のアプリは全て中国製で狙いは明らかです。

この記事にはこのように書かれており、この内容の通りであれば説得力があるといえます。

6月15日の中印国境付近での衝突でインド軍兵士20人が死亡し、政府は強力な対抗措置を求める世論の圧力にさらされていた。だが貿易面での選択肢には限界があり、自殺行為になりかねない。軍事面での選択肢はさらに危険とあり、そこで中国のIT技術が標的に選ばれたというわけだ。実際にインドが中国側に何らかの損害を与えられる可能性がある分野でもある。

政府は情報技術法69A条を禁止の根拠に挙げてます。
禁止されたアプリは、インドで推定6億回ダウンロードされている動画共有アプリのTikTok(ティックトック)、データ使用量が少なく、低価格スマートフォンのユーザーに人気のモバイルブラウザのUCブラウザ、データ共有アプリのシェアイット、検索エンジンの百度(バイドゥ)、中国版ツイッターの新浪微博(シンランウェイボー)、チャットアプリの微信(WeChat)など。

アメリカでも国家安全保障上の脅威から

2019年11月の記事によると、CFIUS(対米外国投資委員会)が国家安全保障上の脅威がないかどうか調べるところから始まっているようです。

バイトダンスは2017年12月に約10億ドルでミュージカリーを買収後、欧米で人気だった同アプリを閉鎖し、自社が運営するティックトックの改良版に統合ししました。バイトダンスはこのミュージカリーの買収に際し、CFIUS(対米外国投資委員会)の承認を得ておらず、このためCFIUSが調査に乗り出すという記事が2019年11月にでました。

今日ではさまざまなアプリやWebサービスが、ユーザーの個人情報にアクセスしています。Amazonは住所を、Googleマップは位置情報を求めてきます。しかし、それらは正当な目的のために利用される限り問題にはなっていません。

個人情報の利用に関して、違法とは言えないまでも“行儀が悪い”アプリやWebサービスは存在します。たとえばFacebook(米国)の「退会」処理は煩雑で、選択肢によっては退会後もネットの行動履歴を追跡されるなど、不誠実な仕様となっています。また、若者に人気の写真加工アプリ「SNOW」(韓国)も以前、「位置情報を提供するとフィルタの種類が増える」という仕組みを採用していました。ユーザーが受け取るボーナスは位置情報と無関係のものなので、悪い仕様だったと言えるでしょう。

このように、個人情報の取り扱いに不審な点があるのは“中国製”に限った話ではありません。「日本製だから」「米国製だから」というあいまいな理由では妥当性を欠くように思えます。

TikTokは本当に“スパイ”なのか?

TikTok側にも問題がありました。パソコンやスマホで、文章をコピーする際に使う一時的な置き場のことを「クリップボード」といいますが、TikTokがクリップボードに頻繁にアクセスしていることが有志ユーザーによって確認されました。

これはユーザーに利益があるものではないため、我々の目には“スパイアプリ”だというふうに映っても仕方ありません。実際にクリップボードの内容によって何か利害問題が生じた証拠はないものの、「セキュリティ上の懸念」はつつかれても文句は言えません。

ただし、ユーザーに確認することなくクリップボードにアクセスするアプリは他にもたくさんあります。有志によって確認された該当アプリの中には「ABC News」や「Fox News」、その他各国製のゲームなども含まれており、TikTokだけの問題ではありません。実に多くのアプリが、不必要なクリップボードへのアクセスを繰り返していたわけで、そうなると問題は、個別のアプリというよりも、iOSやAndroidなど、OS側の設計だということになってきます。

我々ユーザーはOSの開発者に対し、「アプリ側からクリップボードに許可なくアクセスできる」という仕様の見直しを求める必要があります。

トランプ大統領はTikTok禁止に本腰

トランプ大統領によれば「中国政府がTikTokを使って、世界中の機密情報を集めようとしている」とのこと。まるで日曜朝の特撮戦隊ものの筋書きみたいなことをいっています。

たしかに中国政府には機密情報を集める動機があるといえます。ただ、あえてTikTokをスパイ行為に利用する意味があるのでしょうか。

日本や米国に会社を設立するのは容易であり、“中国色”を消し去ったSNSを広めることも可能なはずです。そうなると、ひと目でわかる“中国製”アプリだけを警戒しても意味はないし、さらに言えば、国内の機密情報を狙っているのは中国政府だけではありません。

しかもTikTokで手に入るものといえば、その大半がダンスの動画と、10代少女の個人情報。はたしてそれが国家戦略上、重要なのでしょうか。外国人をスパイするためにTikTokを広めたのだとしたら、効率が悪すぎです。

政治の意向でTikTokをなくせるのか

TikTokを排除できるのは、第一義的にはAppleやGoogleなど、アプリストアを運営する企業です。これらの企業がTikTokを「ユーザーに害をなすアプリ」だと判断してリジェクト(拒絶)すれば、TikTokのサービスは段階的に利用できなくなります。

しかし、スパイ行為の証拠がないものをリジェクトするのはフェアではありません。特定の国で開発されたことを理由にアプリの審査が通らないとなると、その影響は甚大で、業界全体が萎縮します。

したがって、AppleにしてもGoogleにしても、現時点でTikTokをリジェクトする考えは持っていないはずです。そうなると各国が立法行為を経て規制することになりますが、現時点では「TikTokがスパイ行為をしていた」と判断できるまでの証拠はなく、名指しで禁止するのは公正ではありません。
 
何よりも、“中国製”という理由だけで製品を排除するのは、自由社会の商慣習に反しています。したがって「TikTokがなくなる」というのは、普通に考えればありえない話です。他のアプリを含め「個人情報の収集範囲を今より制限する」という法律を作るのが、誰にとってもベストな落とし所なのではないでしょうか。

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