見出し画像

特殊清掃~衝撃的だった現場の記憶!

駆け出し特殊清掃員の元バンドマンのおじさん初級です。

最近は核家族化があたりまえになり、老若男女にかかわらず一人暮らしが増えてきました。そうなると増えるのが孤独死です。一人でいるときに突発的な病気で倒れ、そのまま亡くなるというケースが毎日のようにあります。他にも自殺、事故、事件など、人の死にはいろいろな形がありますが、一人で孤独に死ぬか、誰かが見ている時に死ぬかで大きな差ができます。孤独のうちに亡くなるととにかく発見が遅れます。誰にも見つからず遺体がそのまま放置されるわけですから、すぐに腐敗がはじまり、あたりに異臭が漂いはじめます。やがて血液や体液が流れ出し、肉片がこぼれ落ち、その場を汚染していきます。ハエ、ウジ、ゴキブリ、ネズミなどがどこからか集まってきます。これは地獄の様相です。


これまで現場を見てきましたが、人の死が残す痕跡については、かなり神経がマヒしたというか、すでに慣れてしまった感があります。特殊清掃員には若者や女性もいますが、凄惨な現場を経験しても、慣れてしまえば意外と淡々とこなしていけるものなのです。
ここでは、私の特殊清掃員の体験のなかから、印象に残ったケースを書き留めておこうと思います。話してしまえば私もすこしは気が晴れるし、読んだ人の役に立つことが何かあるかもしれないと思うので。ただし、リンク先には凄惨な現場写真もあるので、気の弱い方は「閲覧注意」でお願いします。


ドアが開かない厄介な事故現場だった

さて、普段は孤独死、たとえば一人暮らしの病死などを扱うことも多いのですが、発見が早ければきれいなものだし、遺体がすこし腐敗したとしてもベッドや布団を処分するくらいで済むことがほとんどです。しかし、状況によっては悲惨なことになります。
私の記憶に強く残っているのは、ゴミ屋敷での事故死の実例です。この事例はアパートの管理人からの連絡からはじまったと思います。私はいつものように同僚と一緒に特殊清掃の機材を車に積み込んで、現場のアパートへ向かいました。
管理人の説明によると「異臭がする」との通報で警察が出動し、合鍵を渡した警察官が部屋のドアを開けようとしても開かなかったそうです。ドアが開かない原因はすぐにわかりました。普通はアパートなど住居のドアは外側へ開くようになっています。ところがその部屋のドアはなぜか内側に開くようになっていたのです。そしてドアの向こう側には何か重い物体があり、ドアがピクリとも動かなかったのだそうです。警察はドアを開けることは無理と判断し、壊しにかかりました。アパートのドアは木製ですので、電動ノコギリで切断し、窓のような穴をあけたのです。そこには異臭ただよう遺体とともに家具やおびただしいゴミの山が崩れ落ちていました。警察官は遺体と物品を運び出し、遺体を収容して行ったそうです。

画像1


残されて呆然とする大家と管理人。そこへ私たち特殊清掃員が到着しました。言うまでもなく、この部屋の住人は部屋をゴミ屋敷にしてしまっていました。入口から室内を見るとゴミの山しか見えません。どうやら玄関にあるわずかなすきまに布団を敷いて寝起きしていたようです。警察の見立てによれば、何かの拍子に寝床の周囲に積んであった家具やダンボール箱やゴミが崩落し、住人はその下敷きになり、圧死したのではないかということでした。ここで不運だったのは、先に述べたように玄関のドアが内開きだったこと。下敷きになった住人がドアを外に押して開けば逃げられたかもしれません。しかし、そのドアは内側にしか開かず、しかも崩れたものが邪魔で開くことができませんでした。住人はそのまま圧死または意識を失って衰弱死したとのことでした。

(リンク) 
閲覧注意 写真で見る特殊清掃の現場 

ゴミ屋敷の原因は本人ではなくセルフネグレクトという病気

このケースは事故死に分類されるのでしょうが、人によっては「自業自得だ」と思われるかもしれません。室内に家財道具を放置して、ゴミやダンボールを積み上げ、それらのわずかなすきまで寝るなど、普通では考えられないことです。あげくの果てに崩壊した荷物の下敷きになって死亡するなどなおさらです。
でも、それを精神異常者とか怠け者とか決めつけるのは酷なようです。その現象がセルフネグレクト(自己放任)だとしたら立派な病気だからです。セルフネグレクトとは「自分が生活において行うべき行為を行わない、あるいは行う能力が失われることで、心身の安全や健康が脅かされる状態に陥ること」です。高齢者に多い傾向がありますが、年齢にかかわらず引きこもりなどにもよく見られます。
特殊清掃員は人の死によって汚染された住まいをきれいに原状復帰させる専門家です。私は血液、体液、肉片、異臭、害虫などと日々戦いながら、どうしたらこのような悲劇を防ぐことができるのだろうかと考えることがあります。せめて自分の周囲にいる家族や友人などは孤独や孤立に陥らず「特殊清掃の必要がない人生」を送ってほしい、そう願わずにはいられません。