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制服の胸のボタンを下級生たちにねだられ

そろそろ卒業シーズンである。

日本文化上の正規軍ティーンエイジャーたちは、ここで告るだの、仲間との別れだの、そんな劇的なドラマのあるタイミングである。

ちなみに英国では、学校の卒業はどうでもよい感じだが。

しかしながら、俺個人は卒業式の当日そのものは、ほとんど思い出というモンが無い。

正直ドラマや映画で、なんで登場人物が泣いたりとかするのか全く理解できなかったし、個人的には単なる通過儀礼でしかなかったのだが、その中でも唯一覚えている思い出を記すことにする。


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バカ童貞は、なにせ短期的な視野しかない。よって卒業式とは、仲間との別れではなく、春休みが始まる嬉しさの方が強いのである。

俺はもちろん童貞塾・一号生筆頭バカだったわけで、卒業式が終了すると、

”終わった終わった!”

と、卒業証書の入った黒い筒で、童貞仲間の頭や股間をポカポカ叩きながら学校を出ようとしていた。その時、

 「オガ君、ちょっと来て」 

と、ゲタ箱の辺りで、部活の時に一緒だったか席が隣だったか定かではないが、とにかくそんくらいの知り合いの女子に呼ばれたのであった。

そもそも卒業式で告る、とかそういう文化からは全く離れた奴だったので、 今ならドキドキするところだが、悲しいかな童貞はバカである。

    ええ、今?
 ああ、あいつらが先にゲーセン行ってしまう!
 はやく行かねえと、ゲーセンのカップヌードル・カレー味が売り切れるじゃねえか!
 

などと、バカの思考を円グラフにしたら、面積の4割程度を占めることを考えながらその女子についていくと、 そこにはさらに、よく知らない女子が佇んでいるのであった。


 「この子が◎◎君の第2ボタン欲しいって言ってるから、
  もらってきてくれない?」


その◎◎君とは俺の仲の良いツレの一人である。だが面倒なことに、その時はすでに、俺は他の奴に頼まれた後だった。

 「あー、さっきB組の髪の毛の長い女に頼まれたんで、
  ボタンはもう、そいつが持ってる」

その髪の毛の長い女は、ただ◎◎からボタンもらってきてと俺に頼んできたので、素直に奴からふんだくって来た。確か第2ボタンだった。

と言うと、

  ぐずっぐずっ…

と、頼んだ子のすすり泣きが始まる。

今考えると、その子は前日すごく悩んで、そして親友の女の子に頼んだのだろう。

見た目は地味な女の子だったので、初めて勇気をだして、でもその男の子に 直接言えない中での、最大限の彼女のできた行動なのだろう。 それを言うのも時間がかかったので、一足遅くなっちゃうんだろうな、と思う。 

  ぐずっぐずっ…


俺と女子2人、それぞれの間に微妙な静寂が流れる。
なぜこの目の前の女子は、たかがボタンで泣いているんだ…??

当時の俺は、なぜ彼女が、ただの記念品でそんなに泣くのか不思議でしょうがなかった。マリー・アントワネットではないが、「ボタンが無ければ消しゴムをもらえばいいじゃない」 くらいである。


そして突然、その静寂を裂くように、俺のもとに来た女の子が俺を責める。


 ちょっと、なんとかしてよ! 
 この子、ずっと◎◎君のこと好きだったんだよ! 


ず、ずっとだと!英語だとhaveを使う現在完了形ってやつだ!
なんてこった!そうだったのか!と当時は思った。
(今なら「知らんがな」の一言で済ませられる)


何よりも、人を好きだとか恋だとか、そういう大人びた考えの女子が、目の前にいる事実。あれは大学生とかのドラマだけのもんじゃないのかよ!

そしてよりによって、あの◎◎というバカが女子に恋愛対象とされていると言う事実。奴は、俺とキン肉マンごっこして教室のガラスを割ったバカだぞ。

 ぐぬぬ・・・ 
 第3とか4番目とか、そのへんのボタンとかなら、まだ余っとる気がする・・・

おれはそう説明したが、

 あんた、第2ボタンの意味知っとるの?
 ハートに一番近いから、第2なんだよ!
 この子、そんくらい◎◎くんのこと好きだったんだよ!
 
と、俺を呼び出した女子が、俺をさらに責める。

 彼女は興奮しているので、名古屋弁が混じり始めている。


があん!な、なんだと!そんな深い意味がっ!心臓=ハートに近い
それは第2でなければ! 

と、すぐに洗脳される俺。童貞はその辺はピュアである。

とにかく、第2ボタンというポジションが最高プライオリティとなり、俺の脳みそは制御不能になるのであった。


 ぐぐ、俺とか三浦(宝石屋の息子)のなら第2ボタンあるでよ、
 それを◎◎につけてもらって、それを俺が渡すってのは・・・


と、なんか◎◎君の菌を培養して彼女に渡す、みたいな、今考えても無茶苦茶な理論で、この重苦しい雰囲気を逃れるつもりだったのだが、その泣いていた女の子が、初めて顔を上げ、

 そんなんイラんわ、バカ!

と泣きながら、俺を罵るのだった。


そして、俺を連れてきた女子も、

 あんた、ふざけんといてよ! 
 この子どんだけ真剣に好きだったか知っとるの?
 もうアンタには頼まんわ!
 
と言い捨て、女子2名はその場から去ってしまった。

今考えるとその俺を呼び出した女子は、俺を責めることによって、見事にその子のツレとしての 面子を保ちながら切り抜けやがったのであった。なんと計算高い女だ。

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その場に残された俺は、

 ああ、よくわからんが、女の子を傷つけちゃったかもしれんな。
 難しいなぁ、女子って・・・。

と、10秒くらい反省していたが、11秒後には

 あ、ところでゲーセン行かな!カップヌードル売り切れるがや! 

と、黒い筒を振り回して、ゲーセンに向かっていくのだった。
脳内は オペレーション・ウルフで今日は無線所からぶっ壊すぜ!で一杯にして。


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