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匂わせの代償

まず最初に断っておくが、私は「アイドルは恋愛禁止」思想を一切持ち合わせていない。寧ろ人から羨望される人は恋愛面でも充実していてほしいと願う方だ。その上で、アイドルの恋愛疑惑という事情について、そんな私でもこんな風に思うんだなぁ、というところを書いていく。推しに対してネガティブなことを書くつもりは決してないが、結果的にそういうことになるかもしれないし、この話題がそもそも嫌いな方はここでこの画面を閉じて下さい。

さて。(まず何から書けばいいのかな)

今月、推しが海外公演から帰国して少し後くらいに心をざわつかせる情報がSNS上に出回った。ずばり、推しに彼女がいるのではないか、という疑惑である。

噂の彼女はスタイルが素晴らしくて、美しく、仕事でも成功している推しより歳上の女性であった。そして彼女は推しとお揃いのものを多数所持し、それをSNS上に多数上げていた。というか、それで推しに対する疑惑が生じたらしかった。海外公演のその場にも彼女はおり、推しが「Where’s my safe zone, let me know if you know」と歌う際にジミンの方を指差した!というアミにとっての癒しの話題は突如、彼女とのラブラブを見せつけられたのではという心ざわつく話題に様変わりしていた。

私は事細かに疑惑を画像付きで説明するツイートを見ながら「ほー。これはこれは」と思った。なんか、クロっぽいぞこりゃ、と。そしてそう思った直後、今度は「でも…違わない?」とその疑念を拭う様々な推しへの思い込みを頭の中で反芻した。私の推しは自分自身も彼女にも匂わせなんてさせないプロ意識の高い人なんじゃないか、私の推しはリリースイベントに彼女を呼ぶようなリスキーなことはしないんじゃないか、私の推しは海外公演に彼女を連れて行かないんじゃないか、万が一連れて行ったとしてもこんなにあけっぴろげにはしないのではないか…などと。

そしてそんな風に色々と思考を巡らせる自分に対して失望した。
「あぁ、なんだかんだ言って推しの恋愛疑惑に凄く心乱されているよ私。恋愛して欲しいとか言ってたし今もそう思ってるけど結局これが誤報だったらいいなぁなんて思ったりしている。結局自分も器が小さかった…」と。

あともう一つ思ったのは、恋愛疑惑が出ただけでアウトタグ付けられてた別メンバーとそのファンのこと。災難だったねぇ、って改めて気の毒に思った。あの時自分は当事者じゃなかったから冷静な気持ちでいたし「まぁ、いいじゃないの」なんて思っていたけど、違ったね、そんなもんじゃなかったね、とあの騒動の中にいたファンたちの感情をやっと理解した。しかもそれがアウトタグに繋がるってアーティストにとってもファンにとってもどんな地獄なの。

ついでに言えば、推しの噂の彼女が過激なアミたちから攻撃を受けるなどして酷い目に遭っていないだろうか、と噂の彼女を心配したりもした。私は推しが心から大好きなのだ。だからもし彼女が推しに愛されているのであれば、彼女は私が愛すべき存在ということなのだ(いきなりの矛盾)。

多分小一時間(いやこれは体感であって実際にはもう少し長かったと思う)この話題に振り回されて、私は結局こう結論した。

「推しが選んだ子ならきっといい子に違いない。だからこれが本当なら祝福しないと。でもなんとなく違う気がする………ザワザワ」

さて、私の心を乱したそんな話題もすっかり忘却の彼方にあったある日、推しがインスタを投稿した。夜、漢江のサイクリングロードで自転車に乗る推しの後ろ姿と自転車から見えた景色、遊歩道沿いに立つ推し、そしてインスタントラーメン。推しがソウルの街で夜風に当たったある夜の情景、それがこのインスタから私が受ける印象であるべきで「ああ、スーパースターの推しもこうして夜サイクリングして気分転換してるんだねぇ。可愛いなぁ」と心を温めるべきところだった、本来なら。がしかし、私の最初の感想はこうだった。

「これ、誰が撮ったんだろう」

普通なら「推しが久々に彼氏感あるインスタアップしてくれた♡」と喜べたはずなのに、もはや私の脳内には推しの彼女の実像イメージがしっかり刻印されてしまっていて、インスタには写り込んでいない彼女の姿、推しの後ろで「自転車乗りながら写真撮るの大変だよ〜」と満面の笑みでペダルを漕ぐ彼女の姿が私の脳内で勝手に再生された。

思わず彼女のインスタをあの日以来久々に覗きに行ったりした。海外にいないかな?なんていう微かな期待を持って。そしてそんなことしてる自分に嫌気がさした。

「はあ。匂わせはやっぱり罪だよ…」

私は強く、そう思った。

だってね、これまでだって推しの彼氏感インスタに「誰が撮ったんだろう」と思ったことは何度もあったんだよ。でもその度に「マネージャーかな?もしかしてナムさんと一緒だった?」なんていうお花畑思考を持つこともできたのだ。もしカメラ側の人が推しの彼女だとしてもその姿は脳内で再現されず、なんとなく私の希望に沿った女性をイメージできたり、もしくは完全に妄想世界に飛んでいって彼女の目線=私、でイメージすることすらできたのだ。でも匂わせによる疑惑のせいで、私には脳内お花畑になる権利も、脳内妄想世界になる権利も奪われてしまった。

アイドルを推すなんてことはそもそもその行為自体がお花畑だ。だから、アイドルの恋愛報道とか匂わせとかは、要するに自分の脳内に育てたお花畑を荒らされる行為に近いんだな。イケメンで仕事で成功しお金を持ってる二十代の男に彼女がいないかもしれない、なんていうあり得ないファンタジーを少しだけ信じちゃったりもする脳内の可憐な花たちが勝手に抜かれたり踏みつけられたりしたような、そんな感覚と言いますか…。

結局疑惑は疑惑のままだ。信じるも信じないも各人の自由。
「そんなの嘘に決まってる」
「彼女が推しを好きなだけで推しは彼女のことを好きじゃない」
「ただの友達だ」
そんな風に結論づけることだってできる。でも、その結論に至るまでに私たちはそれなりの傷を負ったし、そういう気休めの薬を塗るたびに薬がしみて傷口がチクリと痛むのだ。まるで推しの恋愛を否定するかのような自分の裸の感情に対峙して感じる自己嫌悪の痛み、というのかな。

匂わせさえしないでいてくれれば…推しが誰と付き合おうが私には関係ないことだったのに…。推しの匂わせ騒動を経て、私は推しのインスタが少し怖くなった。今まで喜んで享受していた彼氏感たっぷりのプライベートスナップは今後は少し内容を吟味してから上げていただきたい…なんなら無くしてしまってもいい。ジミンみたいに普段の姿はヴェールに包まれたままでいい。それか、はっきり恋愛宣言してほしい。それならそれとして私も推し方に覚悟を持てる。その時は歳上の彼女を大切にする推しという、新たな推し像を推すことになるだろう。

ああ、時が解決してくれるのか…。てかそもそもそんな解決でいいのか…。インスタとかカメラ目線写真集は私にとって更なる拷問になりそうだからもっと音楽活動に集中してくれませんか…。そんなことを考えながら、嗚呼、アイドル稼業は大変だなぁなんて推しに同情したり自分を反省してみたりもして。そんな諸々の自己内省の時間とチクリ程度の心の痛みとそれを癒す苦労があの匂わせ騒動が私に残した傷痕だろうか。

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