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可愛い子猫

昔、猫の親子が実家の軒下に仮住まいしていた。数日間だけ。

庭には畑もあるし、太ったお母さん猫(一体どこでそんなに太ったのか)とサイズの違う子猫5匹がニャーニャーとうるさいから私の父親は迷惑そうにしていた。しかし、生まれて間もなそうな子猫たちは本当に可愛くて、特にその中でも、一番小さいグレーの猫の可愛さに私は思わず「このまま飼いたい!」の欲求を爆発させた。

ある日、母猫がどこかへ行ってしまったようで5匹の子猫たちがか細い声をいつもより張り上げてニャーニャーと泣いている。

「お母さん、まさか、育児放棄!?」

私は子猫たちが泣いている姿に「もしかしてお腹が空いてるのかも!」と思い、ちょっとだけ温めた牛乳を平らな皿に入れて子猫たちのそばにそっと置き、窓から子猫たちを観察した。

子猫5匹は牛乳にすぐに反応したくせに一向に皿に顔を近づけず、お互いをチラチラと伺う様子。得体の知れない食べ物を出されて「どうする?誰が先に食べる?」と相談し合う時の、まさにその姿だった。私は勝手に「ここはまず年長者が毒味しないと」と一番大きな子猫を見つめたが、この子は体がデカイだけで一番の臆病者のようだった。中間の3匹は「まじ?お兄ちゃん毒味してくれないの?どうする?」と話し合い、結局、一番小さい私お気に入りのグレーの子猫にこの大役を押し付けた。お兄ちゃん猫に頭で「ほら、飲んでこい」と押されたグレーの子猫を気の毒に思って顔を見たら、寧ろ「やった!僕が飲んでいいの!?」と瞳をキラキラさせたような表情をしていた。私はこの子猫がさらに好きになった。小さいくせに度胸がある!好奇心旺盛なタイプなのね!

グレーの子猫が最初に皿に近づき、舌を出し、ペロペロと牛乳を舐めた。舐め始めると顔も上げずにずっと夢中になって舐めている。それを見たお兄ちゃん猫たちは「お?大丈夫みたいだぞ...おい、俺にも飲ませろ」とばかりにその皿に集まり、今度はグレーの子猫を外に追いやった。でもすでにお腹いっぱいに飲んでいたその子猫は満足そうで、なんだか笑っているようにも見えた。私はベランダの窓を開け、子猫に近づいた。勇敢なこの子猫は、私に抱え上げられても大人しく、私の両手にすっぽりと収まったまま、やはり瞳をキラキラと輝かせた。(確かこの時写真を撮って、それは当分の間私のお気に入りでどこかに飾っていたはずだ。どこ行っちゃったかな…あの写真)

母猫は育児放棄したのではなくて、どうやらこの仮住まいを離れて新生活を始める場所を探しに行っていたようだった。きっといい新居が見つかったのだろう。母猫は子猫を1匹ずつ、その首を咥えてどこかに連れて行った。まず最初に一番大きな子猫が連れて行かれた。「こんな時も一番最初かい」と私はツッコんだが、最初に連れて行かれた子猫はその場所で母猫の往復を4匹分待たなければいけないわけで、そう思うとそこそこ責任重大な役だなとさっき「弱虫め」と思ったことを心の中で謝った。1匹、2匹と母猫はまあまあ時間をかけて子猫たちを移動させた。そして、やはり、グレーの子猫の順番は最後だった。

「一番小さいんだから、2番目とか3番目にしてあげればいいのに...」と私は思った。でも、多分母猫はこの子が強い子なのを知っていて最後という一番難しい仕事を彼に任せたのかも知れない。私は子猫を誇らしく思った。

4匹目が連れて行かれてからかなりの時間が過ぎても、母猫は子猫を迎えに来なかった。

「もしかして子猫が私に可愛がられたのを知って母猫怒った?人間に出されたミルクを一番最初に飲んだことがバレて見放された?だとしたら私の責任じゃん…どうしよう...」

私は可愛い小さな子猫を心配した。でも心のどこかで「それならこのまま私の子猫にしてしまおう」と胸が弾むのも感じた。空が赤く染まっていくのを子猫はずっと見ているようだった。そして、やっと、本当に何時間も経ってから、母猫はその子猫を迎えに来た。ロクな挨拶もできないまま、子猫は我が家から引越ししてしまった。

私は犬派であまり猫は好きじゃないんだけど、あの子猫ちゃんだけは、本当に可愛くて大好きだった。一瞬のおつきあいだったけど。

…そんな大昔のことを、さっき、ラスベガスで楽しそうにしているウリマンネを見て久々に思い出した。だってあの子猫は、ウリマンネみたいな瞳をしていたから。度胸があって好奇心旺盛だったあの子猫ちゃんなら、大きくなってラスベガスに行くことになったら猫用サングラスでもかけてウヒョーイ!と噴水を楽しんでいそうだから♡

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