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1998年の思い出

バンタンを推すようになってから、1998年に行ったLUNA SEAのライブ会場での出来事をよく思い出す。

LUNA SEAは私が中学時代hideの次に推していたバンドだ。神と崇めていた愛するhideが発掘したバンドということでイベントに彼らを観に行って以来、hideより僅かながら自分と歳の近いギタリストのことが好きになり、どんどん有名になる過程で友人もベーシストが好きになり、仲間ができると余計に推すのが楽しくなりかなりハマった。ちなみに、バンタンのファンはARMYだが、LUNA SEAのファンはSLAVE(奴隷)と呼ばれていた...あはは...。

時は流れ、LUNA SEAはなかなかビッグになり、ビッグになったバンドにありがちなメンバー間の諍いが生じ(彼らはそうは言ってなかったけど、ライブを観に行っていた自分は薄々気付いていた)、バンド活動を1年ほど休止し各自のソロ活動を経て、1998年にカムバし全国ツアーを行った。そしてそれが私の思い出の場所だ。

その時、残念ながら私の彼らへの愛は風前の灯だった。カムバの時点で前ほど興奮していない自分に気付き、もしライブに行っても熱狂しないならSLAVEは卒業しようと思っていた。冷めた理由はいくつかあるのだが、大きくふたつある。ひとつはソロ活動で大成功したボーカルに対し「魂を売ったな」と怒っていたこと、そして彼らを好きになるそもそものきっかけだったhideが亡くなったこと。周りにはこの心境の変化について「太陽がなくなったから月が輝いて見えなくなった」と説明していた。

ボーカルのソロ活動により認知度が上がった影響なのか、ライブは地元のスタジアムで行われた(それまでは広いホール会場的な場所だった)。ライブ前、長いトイレの列に並んでいた時だった。オールブラックなコスプレ姉さんたちの中にひとり、ごくごく普通な、多分60代くらいのおばさんがいた。ずっと嬉しそうにキョロキョロしていて、誰かに話しかけたいオーラを放っていた。そして彼女は列の中で一番ゴリゴリなコスプレのお姉さんに声をかけた。

「こういうところ、よく来るんですか?」

いやいやいや、ロックライブ会場に来てこんなコスプレイヤーにその質問はないだろう、と思う私の前でゴリゴリ姉さんはこう答えた。

「あたし?めっちゃ来てるけどおばさん初めてっしょ?」

おばさん、正しい人に声をかけたね。するとおばさんは堰を切ったように話し始めた。

「もちろん初めてよ〜。私ね、河村隆一さんのLove is...でね、もうね、恋に落ちちゃったの〜あはは、恥ずかしい。でもね、ほんとに大好きで大好きで、こういうところに来るの怖かったんだけど、会いたくて会いたくて思い切って来ちゃったのよ〜。だから今すごく緊張しちゃって〜」

「あはは!おばさんオモシロッ!大丈夫だよ!ここにいる人ね、いい奴ばっかだから!楽しんでってね!じゃーねー」

ライブが始まり、私は未だちょっとヨーデル気味に歌うボーカルの「かかってこいよ!」に全身全霊で「おーっ!」とは答えられず、そろそろ良い頃合いかなとファンを卒業することに決めた(ここでの卒業とはファンクラブを継続しないことを意味するのであって、陰ながらは応援していた)。ありがとう、LUNA SEA。たくさん思い出作ったよ...私が去っても新しいファン層を獲得したみたいだし、大丈夫だよね。さようなら...(その後彼らは2000年に終幕し、2010年に再結成した)

あの日から20年以上が経った。今、若いバンタンを推している私はおばさんだ。もしコロナが終息してコンサートに行けることになったら、十代だったあの頃の私が「ソロ活動でおばさん層増えたな」と思ったように「コロナ期間でおばさん層増えたな」と思われる側になるのだろう。でも、今私はあの時のおばさんの気持ちがよくわかる。彼女はある一人の歌手を好きになっただけだ。人を好きになることに、しかも遠い存在の人物を好きになることに資格など必要ない。そして「お呼びでない」な状況とわかっていながらも、好きな気持ちが膨らみすぎて勇気を出してライブ会場へと足を運んだその気持ちは尊い。私にとってはファンを卒業するきっかけとなったライブも、彼女にとっては一生忘れることのできない思い出となったかもしれない。もしかしたら今もずっと河村隆一を推しているかもしれない...

バンタンにオンマ世代アミが多いことはわかっている。それでも未だ「こりゃまた失礼いたしました!」な気持ちでバンタンを推している自分が夢のコンサート会場に行った時、あの時のゴリゴリコスプレ姉さんのような若いファンに出会えたら嬉しいな...なんて、1998年のLUNA SEAライブの記憶が蘇っては思ったりしている。

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