裏を見る2.0
こんにちは、おふとんです。
少し久しぶりのnote更新になってしまいました。
クオリティの高い記事を書こうとするとなかなか良いテーマが見つからず、筆が進みませんね。。。
先日、Soniqsのリーダーであるsuprがやっているポッドキャスト番組「If Supr says it」を聞いていたら気になる発言がありました。
このポッドキャストではDZのHyperをゲストとして迎え、suprとあれこれ語っているのですがその中でHyperがこんなことを言っていました。
"People aren't going to believe this but Panbazou is actually spose to be a flank watch." (原文ママ)
直訳すると「誰も信じないと思うけど、実はPanbazouは裏を見るという役割なんだ」ということを言っています。
DZの試合を見たり、Panbazouを知っている人ならば「そんなわけないやろ」とつい言ってしまうと思います。(僕も言いました。)
ただDZの試合でのPanbazouの動きを見ていくと、「裏を見る」という行為の新しい解釈ができそうだったので、今回はそれについて書いていきたいと思います。
1.「裏を見る1.0」の限界
裏を見るという行為の新しい解釈に踏み込んでいく前に、まず従来の「裏を見る」という行為(以後、『裏を見る1.0』と言います。)とはどういったものなのかを確認していきたいと思います。
「裏を見る1.0」とは一言で表すと、
相手の裏どりルートのチョークポイントをロックし、敵に裏を取られない状態を確保することです。
わからない人のためにチョークポイントの解説をします。
チョークポイントとはルートが1本にまとまる点のことを指します。
例として下の画像を見てみましょう。カフェ1階のボムに対してW側から攻めているとき、敵の裏どりルートは画像の青い線で示されます。このルートが一つにまとまる点(画像の『ココ!』)がチョークポイントになります。つまりチョークポイントをロックすれば、すべての裏どりルートをロックすることが可能になるわけです。
画像の例でいえば、このチョークポイントをスモールベーカリーの窓からロックして裏どりの可能性を排除することが「裏を見る1.0」ということになります。
「裏を見る1.0」は窓外などの一般的に倒されるリスクの低いポジションからロックをすることで裏どりの可能性を排除できるというメリットがある一方で、競技シーン・プレイヤーのレベルが上がるにつれて、当初は隠れていた様々なデメリットが顕在化してきました。
これらのデメリットの中で最も大きなものはロックポジションの予測が立てやすいことでしょう。マップの中にチョークポイントはそう多く存在しないので、裏どりをするプレイヤーの理解度が高ければ「ここでロックしているであろう」というポジションに決め撃ちが飛んできます。また往々にして裏どりをする役割のプレイヤーはそのチームで最も撃ち合いが強いことが多いので、ロックする側のプレイヤーはかなりシビアな撃ち合いが求められます。
単純な解決策としては、ロックをする側も撃ち合いが強いプレイヤーを置けばよいのですが、裏を見る1.0において、ロックを行うプレイヤーは攻撃の構築に全く関与できないため、チームで最も撃ち合いの強いプレイヤーをそのようなポジションに置くというのは現実的には難しいケースが多いです。
・競技シーン・プレイヤーのレベル向上に伴い、裏を見るプレイヤーに求められる撃ち合いの強さはどんどん上がっている
・撃ち合いがトップレベルに強いプレイヤーを攻撃の構築に関与できない裏どりロックのポジションに置くことは現実的ではない
このような要素が絡んだ結果、「裏を見る1.0」の限界が顕在化し、裏を見るという行為に対して新しいアプローチをとること、すなわち「裏を見る2.0」の必要性が生じるわけです。
2.「裏を見る2.0」とは何か
「裏を見る1.0」が限界を迎え、「裏を見る2.0」が必要になったと第一章で書きました。ではこの「裏を見る2.0」とは一体何なのかをまずは実際の試合を通してみていきたいと思います。
North American League 2022 - Stage 2 - Playday #6のDarkZero vs TSM FTXの試合のラウンド7です。
山荘の地下ボムで遊撃守りを展開するTSMに対し、DZはマップのS側をすべてエリアコントロールしていく攻めを行います。
ラウンドを1:30段階まで見るとDZの攻めの概要としては以下の通りであることがわかります。
・Hyper, njr, Ecl9pseの3人が主導隊として、エリアコントロールを進める
・Canadianが自由に動き、1ピックを狙う
・マップのN側からS側にくる敵をPanbazouがロック
ここからPanbazou(ジャッカル)の動きに注目すると、相手がロック射線に対して勝負を仕掛けてくる気配がなかったことから、PanbazouはトッケビのCanadianにロジックボムを要請し、その音と足跡の情報を頼りにN側に進行し、アルニをキルします。
さらにこの段階でS側の1階までコントロールしていた主導隊と連携し、アリバイをキルして、大きな人数有利の獲得に成功します。
このPanbazouのプレイが「裏を見る2.0」の真骨頂ともいえるプレイです。
まずは純粋な裏どりロックからスタートし、相手が詰めてこないことを察したタイミングでリスクをとって前に進み、自分たちがコントロールしているエリアを拡張するというプレイです。
もしPanbazouが「裏を見る1.0」的なロックに徹していた場合、DZはマップS側のエリアをとれていたとしても、人数差が作れず、終盤戦で厳しい戦いを強いられていた可能性が高いですが、この「裏を見る2.0」的なプレイによりDZはエリアだけでなく、大きな人数有利を獲得したことでラウンド取得に大きく前進しました。
3.「裏を見る2.0」の強み
第二章では実際の試合を通して、「裏を見る2.0」とは具体的にどういったものかを紹介しました。それを踏まえ、第三章では「裏を見る2.0」にどういった強みがあるのかを解説したいと思います。
3-1.「裏を見る1.0」の限界を解決している
第一章で「裏を見る1.0」の限界として以下の2点を指摘しました。
①競技シーン・プレイヤーのレベル向上に伴い、裏を見るプレイヤーに求められる撃ち合いの強さはどんどん上がっている
②撃ち合いがトップレベルに強いプレイヤーを攻撃の構築に関与できない裏どりロックのポジションに置くことは現実的ではない
「裏を見る2.0」ではこの限界を解決しています。
「裏を見る2.0」では裏を見る担当のプレイヤーはラウンド序盤は純粋なロックをしていますが、タイミングや相手の出方を見て前へ詰めていきます。
この動きを行うことで裏を見る担当のプレイヤーも自ら攻撃の構築に関与できるため、ある程度撃ち合いが強いプレイヤーを配置することが現実的になります。
3-2.攻撃の選択肢が広がる
繰り返しになりますが「裏を見る2.0」では、裏を見る担当のプレイヤーがまずは純粋な裏どりロックからスタートし、相手が詰めてこないことを察したタイミングでリスクをとって前に進み、自分たちがコントロールしているエリアを拡張するというプレイを行います。
主導隊が攻めているエリアと逆側のエリアを拡張していくことで、以下のような形で攻撃の選択肢を広げることができます。
・逆側から詰めて、主導隊側に意識が向いている敵をキルすることで、人数有利を活用した攻撃の構築や殲滅ゴールでの攻撃の選択肢を増やすことができる
・逆側のエリアの情報を取りながら、エリアをコントロールすることで、主導隊の攻撃の構築がうまくいかないときに攻撃の方向を切り替えることが可能になる(=当初の予定とは逆の方向から攻めるという選択肢を増やすことができる)
3-3.リスクに比してリターンが大きい
ここまで見てきたように「裏を見る2.0」は通ればかなりリターンが大きい動きをしていることはわかると思います。この時に気になるのがリスクです。
「裏を見る1.0」と比較して、「裏を見る2.0」はかなりリスクを取った動きをしているので、リスクとリターンを天秤にかけたときに本当に「裏を見る2.0」の方が良いのか?という点は考える必要があります。
この点については結論から言えば、「裏を見る2.0」はリスクは無視できるほど小さく、リターンが非常に大きいです。
「裏を見る2.0」の主要なリスクは、裏を見る担当のプレイヤーが詰めて、撃ち負けた場合に裏を見るプレイヤーがいなくなってしまうことですが、これは裏を見る用のドローンを事前においておけば、裏を見る担当のプレイヤーがそれを見ることで死後も実質的に「裏を見る1.0」的な役割をこなすことが可能なためリスクは無視できるほど小さいです。
逆に「裏を見る1.0」の方が、敵が裏どりロックにかまってこなかった場合に裏を見る担当のプレイヤーが全く攻めの構築に関与できないため、総合的に見るとこちらの方がリスクが大きいと言えます。
3-4.若手プレイヤーの強みを活かせる
これは戦術的な話というよりもチームビルド的な話になってきますが、近年のシージにおいていかに強い若手プレイヤーを発掘し、チームの中に組み込んでいくかというのは重要なテーマです。
一般的に強い若手プレイヤーは、純粋にエイムがめちゃくちゃ強いプレイヤーと、(撃ち合いがある程度強いのは前提として)ランクマッチ的な立ち回りも含めて強いプレイヤーに大別されると思います。
こうした若手プレイヤーを何も考えずに最前線のアタッカーにしてしまうと、特に後者のようなプレイヤーはランクマッチで今まで自分がしていた立ち回りとチーム競技としてのシージの立ち回りの差に対応できず、フォームを崩してしまうケースがあります。
逆に「裏を見る2.0」での裏を見る担当のプレイヤーは基本的には味方のサポートを受けず、己の身一つで詰めて、エリアを拡張していきます。これはランクマッチ的な立ち回りに近しいものがあるため、(多少チーム競技としてのシージにアジャストする必要はありますが)若手プレイヤーもランクマッチで培った自分の立ち回りパターンを存分に発揮しながらプレイすることができます。
いかがだったでしょうか?
今回の内容に関してはsuprのポッドキャストを聞いてから真剣に考えだした内容だったので、自分としても書いていきながら色々学ぶことができた記事だったなぁと振り返って思います。
また今日たまたまベルリンメジャーを以てsuprの引退が発表されましたね。suprさんは自分のシージ観の形成に大きな影響をくれた選手なので、今後もひっそりと応援していきたいです。ありがとう、suprさん。
それではまた。
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