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遊撃の意味を考える

こんにちは、おふとんと申します。
普段は社会人として働きながら、シージのプロコーチ等の活動もしています。

今日はシージの防衛において重要な役割を占める「遊撃」というポジションの意味についていろいろと書いていきたいと思います。



1.遊撃の概要

第一章では個別のマップ・作戦に寄らない一般論としての遊撃について考えていきます。

1-1.遊撃の必要性

遊撃の必要性を確認する前に、まずこの記事における用語の定義を確認させてください。
現地:爆弾が存在するエリア及び隣接しているエリアを初期配置としているプレイヤー
遊撃:爆弾が存在するエリア及び隣接しているエリアを除いた位置を初期配置としているプレイヤー(=現地の逆)

では本題へ。
遊撃を配置する必要性とは何なのでしょうか?
それは5人全員が現地であった場合、守れ切れないからです。

攻撃側は基本的に人・ガジェット・時間の3種のリソースを割いて攻撃を展開します。攻撃の5人全員が3分かけて、現地めがけてすべてのガジェットを使用してきたと仮定したときに現地5人で守っていたとしても耐えきれない場合に遊撃に出る必要性が生じるわけです。(逆に耐えきれるのであれば遊撃に出る必要性はそこまでありません。)

1-2.遊撃の仕事内容

先ほど、遊撃は現地5人で守っていたとしても耐えきれない場合に遊撃が出る必要性が生じると書きました。これを踏まえたとき、遊撃の仕事内容とは何なのでしょうか?
それは現地が耐えきれるように攻撃のリソースを消耗させることです。

攻撃側のリソースは先ほど言ったように人・ガジェット・時間の3種類があるので、遊撃の仕事内容としてはそれぞれを消耗させるためにキルを取りに行く、ドローンを壊す、時間を稼いで引くなどが考えられます。

ここで防衛側として重要なのは、チームとして人・ガジェット・時間のどこを重点的に消耗させに行くのかの方針を共通認識として持ち、それに応じた仕事内容を遊撃に課すことです。

もしチームとして人を消耗させるであれば、遊撃は積極的に戦いに行く必要があります。
逆に時間を消耗させるのであれば、遊撃はリスク管理をしっかりと行い、機を見て現地に戻る必要があります。

2.遊撃の成功例/失敗例

第一章では以下を確認しました。
・現地が攻撃側のリソースを耐えきれないから遊撃に出る
・遊撃の仕事内容は攻撃のリソースを消耗させること
・遊撃の仕事内容はチームの防衛方針に応じて課す

第二章では実際のプロの試合を見ながら、作戦ごとに遊撃、さらには現地にどういった仕事内容が求められるのかを見ていきたいと思います。

2-1.遊撃の失敗例:遊撃の方針とアクションの不一致

まずはこちらの動画をご覧ください。
NAL2021 Closed QualifiersのParabellum vs Mirageの3ラウンド目です。

まずは防衛の構成を確認します。
サイト:銀行 地下
ピック:サンダーバード、キャッスル、パルス、リージョン、ミュート

次に準備フェーズのセットアップを見ると、以下の点から遊撃型の防衛であることが明確にわかります。
・(1階のハッチを含め)現地のために割いた補強は3枚のみ
・1階に遊撃を2人配置している
・キャッスルを使用し、遊撃が立ち回りやすいようサポートしている

また敵のプラント阻止をするためのガジェットはパルスとミュートのニトロセルのみです。
パルスは1階遊撃で2階の敵を突き上げることを主眼にしたニトロセルの運用をしており、ミュートはサーバー階段を一人で守っているので、プラントのタイミングでは生き残っていない可能性が非常に高いです。つまりプラント阻止のためのガジェットは実質的に0であると言えます。

ここまでの状況を整理するとMirageの勝ち筋は遊撃で敵を削り切ることであると言えます。プラントをするシチュエーションまで攻撃側に持っていかれると射線によるプラント阻止が難しい銀行の地下において、プラント阻止用のガジェットが実質的には1つもない状況で勝つことは難しいからです。

しかしアクションフェーズに目を移すと、パルスが2階のスレッジに対する突き上げを失敗したタイミングでMirageは続々と地下へと降り、1:45段階で遊撃は完全にいなくなってしまいます。
これを察知したpBは1:30段階で1階を完全にコントロールし、さらに投げもの対策が全くないサーバー階段で守っていたミュートをスムーズに処理すると1:00段階でプラント態勢に入ります。

こうなると、Mirageとしてはリテイクをかけるしかなくなり二人でメイン階段を上ります。pBのミスでメイン階段のロックがなかったためリテイクが成功しかけますが、pBにうまく対応されたことでMirageはラウンドを取得されてしまします。

Mirageは作戦・構成的に遊撃で敵を削り切る(=チームとして攻撃の人を消耗させることに重点を置く)という防衛方針をとるべきだったにも関わらず、遊撃が消極的に立ち回り、早い段階で引いてしまった(=攻撃の時間を消耗させるアクション)のです。
チームとして人を消耗させるべき時に、遊撃が時間を消耗させるアクションをとったことで、幸先よくファーストキルをとったにも関わらず、ラウンドを取られてしまいました。

このようにチームが取るべき防衛方針と遊撃のアクションが違うと有利状況であっても負けてしまいます。

2-2.遊撃の成功例:人を消耗させる遊撃

まずこちらの動画をご覧ください。
North American League 2022 Stage 2 Playday1のSoniqs vs Astralisの5ラウンド目です。

まずは防衛の構成を確認します。
サイト:銀行 空き部屋/スタッフルーム
ピック:メルシ、ウォーデン、アザミ、アルニ、イェーガー

次に準備フェーズのセットアップを見ると、以下の点がわかります。
・2階に2人、1階に2人、地下に1人配置した遊撃型の防衛である
・2階のハッチはすべて補強されており、2階の遊撃用の退路は確保されていない
・2階遊撃をサポートするガジェットは遊撃に出ているアザミ自身のKIBAバリアのみである(=2階遊撃のサポートは少ない

ここまでの状況を整理すると、Soniqsの勝ち筋は2階の遊撃に攻撃の人(できればガジェットと時間も)を消耗させ、少人数戦の状態で補強等で堅く守っている現地に攻めさせることであると言えます。

たとえ2階の遊撃が2人とも攻撃に倒されたとしても、その過程で攻撃の人を2人以上削り、ガジェット・時間も消耗させることができれば、Soniqsとしては防衛有利な状況でラウンド終盤を迎えることができるという算段です。

これを踏まえ、アクションフェーズを見てみます。

まず2階のアザミに注目すると、2:00段階でもう一人の2階遊撃であるアルニが攻撃に倒されていまいますが、このタイミングで攻撃の配置やメルシの得た情報を基に引くことが十分可能であったにも関わらず、用務室で耐え続け、1:30段階で倒されます。
これを見てわかるように、アザミは2階の遊撃で攻撃の人を消耗させるという防衛の方針に徹して、引かずに戦い続けたことがわかります。
※4vs3状況でアザミが引くのか、残って戦うのか、このラウンドを勝つという観点でどちらがベターかという話はありますが、今回の記事の主旨とは違うので、あえて触れません。

またもう一人注目してほしいのが、1階のメルシです。
2:00段階でアルニが倒された際に約1秒後にメルシがライオンをトレードキルしています。Soniqsの防衛方針は2階の遊撃で攻撃の人を消耗させることだったので、アルニが倒されたままでは防衛の方針が崩れてしまいます。そこでメルシが即座にトレードキルすることで、防衛のプランを崩さず試合を運ぶことができるのです。
こうしたメルシの動きはチームとして人・ガジェット・時間のどこを重点的に消耗させに行くのかの方針を現地&遊撃が共通認識として持っており、そのうえで連携が取れていたからこそ為せる技でしょう。

結果的にSoniqsはこのラウンドを負けてしまいますが、ラウンド終盤を3vs3で迎え、「2階の遊撃に攻撃の人(できればガジェットと時間も)を消耗させ、少人数戦の状態で補強等で堅く守っている現地に攻めさせること」という方針に沿った防衛は成功したと言えるでしょう。

このようにチームの防衛方針と遊撃(今回のケースは現地も)のアクションが一致していると勝ち筋に沿った防衛が可能になります。

2-3.遊撃の成功例:ガジェット・時間を消耗させる遊撃

まずこちらの動画をご覧ください。
North American League 2022 Stage 2 Playday2のSoniqs vs TSMの7ラウンド目です。

まずは防衛の構成を確認します。
サイト:クラブハウス 地下
ピック:ミュート、スモーク、ヴィジル、イェーガー、メルシ

また今回は攻撃のBANがヒバナとマーヴェリックであること(どちらもハードブリーチャーのBAN)も重要な点です。

次に準備フェーズのセットアップを見ると、以下の点がわかります。
・2階に2人、1階に1人、地下に2人配置した遊撃型の防衛である
・1階のハッチはキッチンとバーが補強されており倉庫のみ開けられている
・遊撃は2階遊撃は補強も活用しつつ監視、金庫、ガレージに展開している

(準備フェーズの情報だけではわかりませんが)アクションフェーズでのSoniqsの動きまで含めて整理すると、Soniqsの勝ち筋は攻撃のガジェット(特にハードブリーチガジェット)・時間を消耗させ、最終局面での攻撃のエントリールートを限定することであることがわかります。

遊撃はあまりリスクを取らず、キルを取られてもトレードできるよう近い距離間で連携しつつ、BANにより限られた攻撃のハードブリーチガジェットを遊撃サポート用の補強を割らせることで消耗させ、現地の補強を割らせず、エントリールートを制限しようという算段です。

これを踏まえアクションフェーズを見てみます。

ラウンド開始直後のみメルシとヴィジルが広がり、攻撃側のドローンを破壊する動きをします。その後、遊撃はそれぞれの定位置(メルシ:金庫、イェーガー:ガレージ、ヴィジル:ラウンジ)につき、それぞれリスク管理を行いながら攻撃のガジェット・時間を消耗させています。そして1:30段階で全員が地下に引き、5人生存状態でラウンド終盤を迎える準備をします。
ここからもガジェット・時間を消耗させるという防衛方針をチーム全体が理解し、それに応じたアクションを遊撃も実行できていることがわかります。

対するTSMはSoniqsの遊撃が地下に戻ったことを確認できたのが1:00段階であり、地下へのアプローチ(補強ハッチの破壊や突き下げetc)を開始するのは0:45段階です。
ここで注目してほしのが攻撃の残りのハードブリーチガジェットです。エースのセルマが1つ、テルミットのヒートチャージが2つです。TSMはセルマを洞窟補強に、ヒートチャージをバーのハッチ補強に使用しました。キッチンのハッチ補強は割れない(インパクト餅つきをSoniqsがやってくると予想されるため)と判断し、残り20秒でキッチンハッチが割れていないという状況でのエントリーを余儀なくされます。この場合、残り時間が少ない中で撃ち合いと連携だけで勝利までこぎつける必要性がある攻撃としては難しい状況であると言えるでしょう。

結果的には洞窟のメルシとブルーのイェーガーが決定的な1vs1を負けてしまいラウンドは落としてしまいますが、Soniqsの防衛プラン(勝ち筋)であった「攻撃のガジェット(特にハードブリーチガジェット)・時間を消耗させ、最終局面での攻撃のエントリールートを限定すること」は十分に達成できていると言えるでしょう。


ここまで遊撃の概要とその具体例について書いてきました。
いかがでしたか?

第二章の遊撃の成功例ではあえてSoniqsの事例(同じチームの事例)を2つ取り上げました。
Soniqsのように作戦の方針に合わせて、遊撃の仕事内容(人を消耗させるのか、ガジェット・時間を消耗させるのか)を明確にチームで決め、それに合わせたアクションを遊撃が柔軟に行えるようになるとチームとしての戦術の幅が広がるとともに、チームの作戦理解度も高まると思います。
もしチームを組んで競技活動をしている方はこのような考え方を意識するとチーム・個人のレベルアップにつながるかもしれません。よかったら試してみてください。

また第二章の遊撃の成功例ではどちらも結果的には防衛が負けているラウンドを取り上げています。(これは敢えてではないですが…)
遊撃型の守りをしてラウンドを落としてしまうと遊撃が悪いと思いがちですが、防衛の方針とそれに応じた遊撃の仕事内容を考えると実際の敗因は遊撃以外のところにあるケースがあることもあります。
こうした視点を持つことで、試合の観戦や練習の反省などでもう一段深いところまで見えてくると思うので、これも良かったら意識してみてください。

今回は以上となります。かなり長い文章になってしまいましたが、読んでくれた皆さんありがとうございました。

それではまた。



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