Uzumeプロデュース 「LALL HOSTEL」  稽古稿


※この作品は2020年4月8日(水)〜12日(日)に上演を予定していた作品、Uzumeプロデュース「LALL HOSTEL」の稽古時点での台本です。当作品は新型コロナウイルス感染拡大に伴い、お客様、キャストスタッフ安全面を考慮した結果、公演中止の運びとなりました。


※この記事の売上は、手数料等を差し引いた収益の全額をUzumeに寄付させていただきます。

(冒頭10P分は無料で読めます。ぜひ読んでみてください)


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「LALL HOSTEL」

作・演出 大部恭平


【登場人物】

・綿貫勇人=水瀬の彼氏。
・水瀬ひまり=綿貫の彼女。

・坂間誠一 =結婚詐欺師。
・原田礼子 =女探偵。水瀬の友人。
・東雲源太=坂間の後輩。
・柳美羅=LALL HOSTEL従業員。
・来栖千咲=LALL HOSTEL新人従業員。
・弓崎琉輝亞=配達アルバイト。
・皆藤大和=大学生。
・春原佳純=大学生。

・客=忘れ物を取りに戻る客。

・筑紫健司=LALL HOSTELオーナー。



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1場

   ホステル。
   夕方から夜に切り替わる頃。外は雨。
   ぬいぐるみを眺め浮かれた様子のオーナー、
   筑紫健司。
   テキパキと電話応対をする従業員、柳美羅。
   メモを見てそわそわ動く新人従業員、来栖千咲。
   筑紫に対して熱心に語る皆藤大和と春原佳純。
   柳、支度の手を止め、
   
柳 「オーナー、ウェブ予約分のリスト反映も終わりました。明日のワークショップのテキストも置いておきます」
筑紫「ん?おぉサンキュー」
来栖「(柳に)あと何かやりますか?」
柳 「あ、じゃぁ先に傘立て出しちゃおうか」
来栖「はい」
柳 「場所わかる?」
来栖「はい!(メモを示し)大丈夫です」
柳 「さすが。よろしく」
皆藤「(筑紫と春原に)ね?いいでしょ」
筑紫「うん。最高」
皆藤「でしょ!?ほら。これワンチャンあるよね?」
春原「あんた馬鹿じゃないの?こんなふざけた動画誰が観るの?」
皆藤「いやめっちゃセンス詰まった動画じゃん」
春原「編集って普通もっと時間かけてやるもんだから。ね?」
筑紫「うん」
皆藤「いや、だから。時間かけりゃいいってもんじゃないか
ら。質だから。あと個性。ね?」
筑紫「個性ね。ほんとそう。わかる」
皆藤「……オーナー聞いてる?」
筑紫「え?あぁごめん。なになに?」
皆藤「聞いてなかったのかよ」

   柳が訝しがる。

柳 「どうしたんですか?」
筑紫「え?」
柳 「さっきからボケーっとして。完全に自分の世界入ってましたよー」
筑紫「あ、ほんと?ごめんごめん」
柳 「で、あんたらはさっきから何をギャーギャー言ってる
の?」
皆藤「あー。なんかこいつが勝手に騒いでるだけっす」
春原「私はなんも言ってないでしょ」
皆藤「いや完璧お前じゃん」
春原「はぁ?」
柳 「で何?」
春原「いやなんか、ここで1泊した記録を動画にまとめて、宿泊系Youtuberとしてデビューするとか言ってて。アホですよね」
筑紫「宿泊系Youtuber?なにそれいいじゃん」
春原「それをさっきから話してたんじゃん」
筑紫「そかそか。ごめん」
皆藤「(カメラを取り出し)記録も撮るし、前にここ来た時のこととかバックパッカーした時のことも書けば完璧だな、って。俺、バズりますから」
柳 「あほだねぇ」
来栖「えー、でも学生でバックパッカーとか素敵ですね」
皆藤「でしょ?何が起きるかわからないって、まじで快感っすよ。『人生』も『旅』も『Youtube』も俺からしたら全部同じ。飛び込んでナンボ。俺、バズらせます」
春原「……」
来栖「なんか壮大……」
皆藤「ふひひひ……」
春原「きもい」
柳 「でも、そんな上手くいく?」
春原「いくわけないじゃないですか。テストで作った動画みたらわかりますよ。こいつはいつも行き当たりばったりだから」
皆藤「普通のことやってもダセーじゃん。行き当たりばったりじゃなきゃ楽しくないっしょ。だってお前、明日自分に何が起こるかなんて今分からないだろ?」
春原「はいはいウザいウザい」
来栖「いいねー」
皆藤「いえーぁ」
2人「いえーぁ」
柳 「なんだそれ」
皆藤「で、空いてる?部屋」
筑紫「あー。(予約台帳を見て)2部屋あるけど、どっちがいい?」
皆藤「安い方」
筑紫「だよねぇー。じゃぁ来栖ちゃん、用紙出してあげて」
来栖「はい。えっと・・・」
柳 「あ、そこの引き出しの・・・」
来栖「あぁ、すみません」
柳 「いいよいいよ」

   柳、用紙を皆藤たちに渡す。
   来栖はメモを取り、柳の動きを追う。
   筑紫、予約台帳を見て、

筑紫「ねぇねぇねぇねぇ」
柳 「はい?」
筑紫「来栖ちゃんも」
来栖「はい」
筑紫「……記念日に貰いたいプレゼントといえば、なに?」
柳 「なんですか急に」
筑紫「いいから。教えて」
柳 「え?なんだろ・・・」
来栖「なんの記念日かによりますよね。あと誰からいただくか、にもよりますかね」
筑紫「そっか。じゃあ『結婚記念日に2人を古くから知る、とあるホステルのオーナーからもらう』としたら?」
来栖「結婚記念日ですか?」
筑紫「そう」
柳 「うちら結婚してないから分からないですよ。私、願望もないし」
筑紫「そっか」
来栖「なんかあるんですか?」
筑紫「いや今日ね、すごく懐かしいお客さんが来るのよ」
来栖「どなたですか?」
筑紫「綿貫勇人っていうの。覚えてる?」
柳 「覚えてますよ!ひまりさんの彼氏さん」
筑紫「そう!」
来栖「昔の常連さんですか?」
筑紫「常連というか、勇人は(皆藤を指し)あいつより若い頃から知っている弟みたいなやつで、『旅は苦手だけど、読書が好きなんで』とか言ってここに通ってくれてたの。卒業してしばらく来なかったんだけど、5年くらい前に彼女連れて泊まりに来てくれてさ。で、彼女がまた良い子なのよー」
来栖「へぇー」
柳 「オーナーがちょうど彼女に捨てられた時期ですよね」
筑紫「そうそう、当時自分のことばっか考えてたからさぁ。ってやかましいわ」
柳 「分かりやすいの。私なんでも分かっちゃうから」
来栖「あー」
筑紫「で、また2人とも穏やかで平和な雰囲気なわけよ。癒されるのなんの。その時やった『つくしマスコットを作ろう!手芸WS』でも勇人大活躍でさ。あー、こいつらお似合いだなぁ、良い夫婦になるなぁ、とか思ってたんだよ。だから、こないだ勇人が連絡くれたのが嬉しくて」
来栖「え?そのお二人が結婚したんですか?」
筑紫「まだ。でもたぶん、勇人は今回の旅行でするつもりだね」
柳 「なんで分かるんですか?」
筑紫「だってドミの空き状況とか、しつこく聞いて来るんだもん」

× × ×

   回想。
   落ち着きなく電話をする綿貫勇人。

綿貫「あ、前泊まったところって空いてますか?ベッドがたくさんある……はい。ドミトリー。え?いや、人いたら気まずいなって思って。いやいやしませんよ、やめてください。あ、あと予約していることはひまりには言わないでもらっていいですか?ありがとうございます。あ、あと、その日筑紫さんいますか?あ、良かった。あ、あと……」

 ×  ×  ×

柳 「しつこ」
筑紫「正直途中から話聞いてなかったもん」
柳 「で、何をあげるんですか?」
筑紫「じゃじゃーん。『オーナー特製つくしパン』これをプレゼントしたいなーって」
来栖「へぇー素敵」
筑紫「でしょ?多分勇人、今晩あたりパパーン!と決めちゃうと思うんだよね。だから明日の朝ご飯で近所のパン屋さんに作らせてもらったこのパンも、パパーンとあげちゃおうと思って。パパーン!とパンを出す!パパーンパン!どう?」
柳 「おう。急につまらねえな。けど、シンプルで良いんじゃないですか?」
来栖「はい。それに手作りは心がこもってていいと思います」
筑紫「で、明日のワークショップは2人にも参加してもらって、アドバイスもらえたらと思ってる」

   ワークショップの台本を指す(もしくは張り紙?)
   表紙に『独身オーナー筑紫健司の独り身診療所』
   という記載。

来栖「いいですね」
柳 「えーどんなプロポーズするんだろう?」
筑紫「んー、わかんね」
来栖「考えるだけでキュンキュンしますね」
筑紫「うん!ちょーキュンキュンするぅー!」

   笑う。

筑紫「あ、だから2人にドミ一室まるっと貸しちゃうね」
柳 「はいはい。じゃぁちょい急ぎめで準備しよっか」
来栖「はい」
筑紫「よろしくー」
皆藤「オーナー、荷物置いてくるね」
筑紫「はーいごゆっくりー」

   電話が鳴る。

来栖「はい。エルエーエルエル……あ、今朝の。忘れ物ですか?はい。あ、少々お待ちくださいね」

   来栖、忘れ物を探しにいく。
   柳、仕事に戻る。
   皆藤、春原は部屋へ。
   そこへ坂間誠一が訪れる。
   
坂間「……どうも」
筑紫「こんばんは」
坂間「……あ、空いてます?」
筑紫「チェックインですか?」
坂間「は?チェック……?」
筑紫「あ。えっと、とりあえず濡れちゃうんで入ってくだい」
坂間「すみません」


   坂間、腰掛ける。雨宿りに来た様子にも見える。
   来栖、袖から電話。終わり次第戻る。

来栖「(袖から)ありました。後でお待ちしています」
筑紫「チェックインかな?」
柳 「いや、リストにはなかったですね」
筑紫「バー利用かな?」
柳 「まだ営業前ですよ」
筑紫「だよね……」
坂間「……」

   柳、タオルを手に取り坂間に近づく。

柳 「良かったら使ってください」
坂間「あぁ、ありがとうございます」
柳 「お茶とか入りますか?」
坂間「あ、ください」
柳 「はい」

   柳、お茶を取りに行こうとすると、

坂間「あ、あの」
柳 「はい?」
坂間「ここって、アポなしで宿泊は可能ですか?」
柳 「チェックインですか?」
坂間「あ?あぁはい、チェックなんとか。表の看板見たんですけど……」
柳 「看板見てくださったんですね。ありがとうございます。ご宿泊は本日でいいですか?」
坂間「はい、とりあえず本日で」
柳 「はい。確認するのでちょっと待ってくださいね」
坂間「すいません」

   柳、用紙を取りに行く。

筑紫「泊まり?」
柳 「みたいです。看板見た、って」
筑紫「おー、ご新規さん?分かった。ちょっと俺行って来る」

   筑紫、書類片手に坂間の元へ。

筑紫「オーナーの筑紫です。本日はありがとうございます」
坂間「どうも」
筑紫「外すごいですね」
坂間「ええ、急に降り出したんでびっくりしました」
筑紫「チェックインご希望ということで?」
坂間「はい」
筑紫「ありがとうございます。で、お部屋がですね……」
坂間「一番安い部屋でいいです」
筑紫「分かりました。そしたらこの1泊4500円のお部屋
はいかがでしょうか?」
坂間「あぁー。……ちなみに、1番安い部屋ってここですか?」
筑紫「今空いている中だと、そうですね」
坂間「はぁーん。……え、ここの宿の中だと1番安いのって
これ?」
筑紫「いえ、2500円のお部屋がありますよ」
坂間「そこって……?」
筑紫「あ、ごめんなさい。今ちょうど埋まっちゃって」
坂間「あー、そっかそっか」
筑紫「一応こんな雰囲気ですね」

   と、4500円の部屋の資料を見せる。

坂間「なるほどねー」
筑紫「どうですか?雰囲気分かってもらえましたかね?」
坂間「そうですね。いいですね。うん……」
筑紫「良かったです。では、こちらでよろしいですか?」
坂間「はい」
筑紫「ありがとうございます。ではこちら記入していただいて、あと身分証明書もお願いします。あ、ごめん。ペン持ってきてくれる?」
柳 「はい」
来栖「あ、私持って行きます」

   坂間、ポケットのお金を取り出し残金を確認。
   来栖、ペンを渡す。
   坂間、用紙に記入する。途中で手を止め。

坂間「あ。あの……」
筑紫「はい?」
筑紫「……」
坂間「……」
筑紫「……?」
坂間「2500円の方は空いてないんですよね?」
筑紫「はい」
坂間「1個も?」
筑紫「1個も」
坂間「ふーん……あ、ちょっと電話してきていいですか?」
筑紫「どうぞ」

   坂間、部屋の隅で電話をする。
   春原荷物を置き、戻る。暇そうにスマホをいじる。

来栖「災難ですねあの人」
筑紫「なんか怪しいな」
柳 「うん」
来栖「え?なんか怖い人とかですか?」
柳 「もしかして、ただの金欠?」
来栖「え?そうなんですか?」
筑紫「ありますね」
柳 「うん」
来栖「確かに、ちょっと変ですよね」
柳 「ね」
筑紫「探ってみますか」
坂間「(電話越しに)とりあえず、それは今度話すから。急ぎで。よろしく」

   坂間、電話を切る。筑紫、近づき、

坂間「あ、すみません。ちょっと後輩に」
筑紫「いえいえ。……失礼ですが、えっとお名前は?」
坂間「あ……」

   と、記入用紙に書かれた「坂間誠一」の名を見せる。

坂間「坂間です」
筑紫「坂間さん。本日はどこから来たんですか?」
坂間「あぁ、地方から。たまにはフラっと1人旅でもしようかと思って」
筑紫「へぇー!旅最高ですよね。普段はあまり旅行ったりしないんですか?」
坂間「ええ、仕事柄なかなか休みを取れなくて、なんだかドタバタになってしまって」
筑紫「そうなんですね。え、お仕事は何を?」
坂間「あぁ……結婚関係の、コーディネーターを」
来栖「へぇー、素敵」
坂間「そんな素敵なもんじゃないですよ。休みもありませんし、僕の仕事はカップルの素敵な1日の手助けをするだけで、あくまで脇役ですから」
筑紫「またまた謙遜しちゃって」
坂間「いえいえ」
筑紫「え、あのー、失礼かもしれないですけど、なんで安いお部屋にこだわってらっしゃるんですか?」
坂間「あぁ……。ちょっとこれ、恥ずかしくて言いづらいんですけど、カバン盗まれてしまいまして」
筑紫「えぇ!?」
坂間「いやぁ、災難でした」
柳 「え?見つかったんですか?」
坂間「この雨ですから、なかなか……」
柳 「えー、つら」
春原「警察に言ってきましょうか?」
坂間「大丈夫ですよ。雨ですし」
春原「いや、いいですよ。私暇だし」
坂間「本当大丈夫です。あの、さっき被害届は出したので」
春原「そうですか」
坂間「いやぁ、まさかこんなことになるとは。恥ずかしい。1人旅なんて柄にもないことするもんじゃないですね」
筑紫「いやいや。旅にトラブルはつきものですから」
坂間「なんかすみません。……えっと、宿泊って……」
筑紫「ああそうでしたね」
坂間「あの、後輩にお金持って来させるんで、もしあれだ
ったら先に泊めてもらえたり……」
筑紫「じゃぁちょっと確認してくるんで待っててもらえますか?」
坂間「ありがとうございます」

   坂間、ロビーに腰掛ける。

柳 「どうします?」
筑紫「誰かがお金持ってくるって言ってるし、とりあえず様子みようか」
柳 「はい」

   皆藤、カメラ片手に戻ってくる。

皆藤「オーナー、適当に撮ってても良いですか?」
筑紫「いいよ。あんまり他の人の迷惑にならないようにね」
皆藤「はーい」

   配達員の弓崎琉輝亜やってくる。

弓崎「お疲れさまですー」
柳 「どうもー。あ、今取って来るんでちょっと待っててください」
弓崎「あ、はい」

   弓崎、そわそわしている。

弓崎「あ、すみません。ちょっとお手洗い借りても良いです
か?」
柳 「どうぞ」
弓崎「すみません。我慢してて。申し訳ないです。ごめんなさい」

   弓崎、トイレへ。
   そこに綿貫勇人が訪れる。

綿貫「こんばんは」
来栖「はーい」
筑紫「ん?」

   再会を喜ぶ筑紫と綿貫。

筑紫「おおおおお!!」
綿貫「お久しぶりです!」
筑紫「元気?」
綿貫「はい」
筑紫「うわー、ちょー懐かしいね!」
綿貫「そうですね」
柳 「お久しぶりです」
綿貫「あ、お久しぶりです」
筑紫「ひまりは?一緒じゃないんだ」
綿貫「あ、はい……」
筑紫「わー変わんないな。なんかカッコよくなった?」
綿貫「いやいや、やめてくださいよ」
筑紫「いやマジで。良い男になったよ」
綿貫「いいですから」
筑紫「でも、俺の方が良い男だけどな」
綿貫「うるさいですよ」

   笑う。

筑紫「あ、そうだ。昔よく遊び来てくれてて、今は俺よりはかっこよくないけどまぁまぁ男前な、勇人くんです」
綿貫「綿貫です」

それぞれ挨拶。
坂間は気配を消し、輪に入らないようにする。

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