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マーケットプレイスの階層①:キックスタート

自己紹介

こんにちは、宮武(@tmiyatake1)です。これまで日本のVCで米国を拠点にキャピタリストとして働いてきて、現在は、LAにあるスタートアップでCOOをしています。Off Topicでは、D2C企業の話、マーケットプレイスの作り方、最新テックニュースの解説をしている記事やポッドキャストもやってます。まだ購読されてない方はチェックしてみてください!

はじめに

本記事は、Sarah Tavelさんの「The Hierarchy of Marketplaces — Introduction and Level 1」の記事を直接許可を頂き、翻訳及び要約したものになります。今回は、3つの階層のうちの最初の階層についてお話ししたいと思います。

「マーケットプレイスの階層」と言うコンセプトは元Greylock PartnersのGPで、現Benchmark CapitalのGPであるSarah Tavelさんが考えたものである。彼女の考えた階層を登り切ったマーケットプレイスは市場規模を最も取れる会社。そこで重要なのがマーケットプレイスはGMVにフォーカスするのではなく、満足度を作るのに集中するべきだと彼女は語っている。

簡単に言うと、売手と買手をどの代理解決法よりかなり満足させるマーケットプレイスが勝つ。GMVはあまり意味なく、逆にGMVをずっと追うと間違った道に行ってしまう可能性がある。

この「マーケットプレイスの階層」フレームワークを使って自社のマーケットプレイスの現状のポジション、そしてこれからのプロダクトのロードマップを作るのが良いかと思います。そして、もちろんのことですが、このフレームワークは時間が経つとどんどん進化していきます。

マーケットプレイスの階層とは?

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スケールしたマーケットプレイスは凄まじいビジネスになる。ただ、マーケットプレイスはスタートが難しく、そしてそれ以上に「勝つ」のが大変。勝つチャンスを最大限にするためにどうするべきか?

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Sarah Tavelさんは投資家としてMondbody、OLX、Sonder、Rekki、Hipcampなど、様々な成功した会社を担当していて、さらに2012年から2015年まではPinterestのProduct Managerとしても活躍。今現在はeBay、Grubhub、OpenTable、Zillow、Uber、glassdoor、Nextdoor、Roverなど多くのマーケットプレイスの成功事例に投資しているBenchmarkで勤務。

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マーケットプレイスの階層とは、三つのレベルがある。各レベルで目標があり、それを達成できると次のレベルに上がることが出来る。

1.キックスタート:Minimum Viable Happiness(実用最小限の満足・喜び)
2.ティッピングループ:使えそうなループを見つけて最大化する
3.支配:圧倒的な差をつけて1番になる

レベル1:キックスタートとは

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まずはレベル①の「キックスタート」から。

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「キックスタート」とは、マーケットプレイスではよく聞く「ニワトリとタマゴ問題」の解決策。

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既に色んな記事で書かれているが、キックスタートする方法とは「スケールしないことをする」のが大事。その中でも、以下記事がオススメです。

元Eventbriteグロース担当のBrian RothenbergさんとEventbrite CPOのCasey Wintersさんが縦軸か横軸(色んなカテゴリーで始めるか、一つのカテゴリーに集中するか)の話など、ニワトリとタマゴ問題について語っている記事。

Jackson Square VenturesのManaging DirectorでoDesk創業チームメンバーのJosh Breinlingerさんが両面マーケットプレイスの作り方を解説する記事。

そしてAirbnbグロース担当のLenny Rachitskyさんが何十人もインタビューして書いた記事シリーズ「How to Kickstart and Scale a Marketplace」。Lennyさんの記事はOff Topicでも全8パートを翻訳しているので、ご興味ある方は以下リンクにてアクセスください。


この「キックスタート」フェーズで間違った考えをする方達がいる。。。

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それは、キックスタート段階では取引数を増やすのが目標ではないこと。目標にするべきことは、どの代替ソリューションよりも満足度・喜びを作り上げること。

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事例として、Uber対タクシーを見てみよう。タクシーの方がサプライ(車数)と取引数が圧倒的に高く、ユーザーはタクシーに乗るのが慣れていたのに、なぜ最終的にUberが勝ったのか?

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同じく、DoorDash対Postmatesでは、DoorDashがローンチする1年前からPostmatesは始めていて、DoorDashとPostmatesは同じ戦略などを使ってキックスタートしたのに、何故DoorDashが勝ったのか?

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次にGOAT対eBay。eBay上でのスニーカーの取引数は圧倒的にGOATがローンチした時には高かったのに、何故GOATはスニーカーカテゴリーのトッププレイヤーになったのか?

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Uber、DoorDash、GOATが勝った理由は売手と買手はマーケットプレイスの大きさを気にしていないから。彼らが気にするのは代替品と比較してどれだけ満足させられるのかだけ。マーケットプレイスを作るには、今までの期待値を常に超えるのを考えるのは必要。これは始まりも、その後マーケットプレイスを進化させる時も同じ。

期待値を超えるにはより効率化する、魅力的なマッチング、優れた経済性、より高い信頼性、より満足する体験などをしている企業が多い。

GMVではなく満足度を見るべき理由

C向けのSNS系の会社がMAUだけを見ているとミスリードされると同じく、GMVはマーケットプレイスにとって虚栄の指標である。上記三つの事例で分かるように、GMVを見ていると継続的なバリューを作れているのかを分からない。競合がどれだけ大手であっても、新しいマーケットプレイスが売手と買手をより喜ばせれば大幅にシェアを持ってかれることがある。そのため、スケールではなく、満足度が全マーケットプレイスの優位性になるはず。

取引・トランザクションにフォーカスしたがるのは分かる。簡単に計算できてしまい、1億円のannualized(年商)GMVのマイルストーンを置くのは間違いではない。ただ、マーケットプレイスが成功するかしないかはトランザクション数ではなく、通常のトランザクションでどれだけ代替品と比べてより満足度を作れるかが大事。

これはグロースに集中するべきではないと言う話ではない。マーケットプレイスでは市場を飽和することが大事なので、それをするにはグロースするしかない。ただ、そのグロースの考え方を「一つのトランザクションあたりの平均満足度を上げるために必要なもの」と言う視点で考えると、虚栄のグロースではなく、クオリティーを保ったグロースが出来るはず。

そしてレベル2で詳細を説明しますが、必要最低限の満足度を達成すると、グロースは満足度に永久とリンクされ、満足度を上げることを追求するとグロースがついてくるようになる(逆はそうとは限らない)。

満足度を最大化するためにはまず勝てる課題から始めること

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大きな市場を狙うのではなく、まずは小さく、制限されたマーケットプレイスを選ぶのが大事。選んだ市場が小さすぎると思ったら、恐らく正しい方向性に進んでいる。もちろん小さすぎるのはよくないが、良いマーケットプレイスを作る起業家はどの市場チャンスからスタートして、そこからどう拡大する・横展開するかを理解している。

実際に、どう制限するかは以下記事を参考にすると良いと思います。

スタートする市場を選ぶ際に、「今選んだ制限された市場を成長させると、自然とそれ以外の市場に入り込めるか?」を自分に聞くべき。自然と入り込める市場がなければ、別の市場を狙うべきかもしれない。これは、売手側の視点ではなく、買手側の視点から考えるとよりわかりやすいかもしれない。

幾つか制限されたマーケットプレイスの事例とすると:

DoorDash
DoorDashはサンフランシスコ郊外のレストランから始めた。郊外のレストランは多くのデリバリーサービスには見られなくて、正当に評価されてなかったニッチ分野だった。Postmatesは競合が多いサンフランシスコ市内でレストラン、カフェ、小売店など幅広いカテゴリーへリーチしていた。

Uber
Uberはサンフランシスコでblack car(高級タクシー)から始めた。

GOAT
GOATはeBayがあまりフォーカスしていなかったバーチカルのスニーカーの二次流通市場を選んだ。

プロダクトとポリシーを使って満足度を高める

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サプライだけではなく、商品や方針・ポリシーなどを使って各トランザクションの満足度を最大化するのが大事。

・GOATではプロダクトがスマホベースで、「Assurance of Authenticity(本物である保証)」のポリシーを設けた。

・Uberでは低いレビューのあるドライバーはクビになり、タクシーより安く、決済が楽で、「タクシーがあなたのところへ行く」方針があった。

・PostmatesとDoorDashは既存プレーヤーのGrubhubの満足度を超えられたのは配達していなかったレストランでもデリバリーが可能にして、選べるレストラン数を増やしたこと。

実用最小限の満足度とは

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どうすれば十分な満足度を作れているかが分かるか?それはNet Revenue Retention(売上継続率)を見ると分かる。

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「ユーザーが満足したタイミングは愚痴を言わなくなったからではなく、離脱しなくなる時」 -- Casey Winters

「マーケットプレイスの階層」のレベル2に行くためには実用最小限の満足度(Minimim Viable Happiness)を達成した時。

これは十分な割合の売手と買手が満足しているためマーケットプレイスを継続して使ってくれる時。それを見るためにはリテンションコホートがどのタイミングでフラットになるかを見るべき。

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引用:Apptimize

上記のパーセンテージはバーチカル・カテゴリーによって大分違う。ただ、マーケットプレイスのどちらかで100%以上の売上継続率で、もう片方は拡大戦略に兼ね合うユニットエコノミクスがあるかを見るべき。

もちろん、売上継続率は満足度を完璧に測れる指標ではないが、今のところ最も近しいもの。NPSなどを多くの人が使いますが、あまり役に立たない気がする。

同時に、最近ですとDropboxのグロース担当をしていたSean Ellisさんが考えたフレームワークで、Superhuman CEOのRahul Vohraさんも使った「弊社サービスを使えなくなったらどれだけガッカリするか?」調査に関しては、良いし評価まだデータ量が足りないため、特にコメントが出来ません。

さらに、このMinimum Viable Happinessはダイナミックに変わる指標なので、常に見る必要がある。満足度はそもそもの期待値で変わり、その期待値は今存在する代替品によって変わる。PostmatesとDoorDashが来る前はユーザーはGrubhubに満足していた。ただ、新しいプレーヤーが参入した時にGrubhubの売手側の売上継続率が劇的に下がった。

自社サービスが成長するとともに、そして市場全体が進化するとともに売手と買手の期待値が変化することを頭に入れておき、その変化に伴うMinimum Viable Happinessをどう作りに行くかを考えるのが成功するマーケットプレイスの仕事でもある。

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次回のレベル2、レベル3の記事はこちらから読めます。

ポッドキャストもおすすめです

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Written by Sarah Tavel | Translated by Tetsuro (@tmiyatake1) | Edited by Miki (@mikirepo)


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