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GoogleはCEOを変えるべきなのか?Daily Memo - 2/28/2023

本日The Informationというメディア媒体でGoogle CEOのSundar Pichaiさんが退任するべきと記事が書かれた。ここ数週間で複数のメディアやテックブロガーがこの話について語っているので、個人的にどう思っているか書こうと思いました。こちらはOff Topic Clubメンバーシップ向けに最近試験的に投稿している「Daily Memo」ではありますが、長文だったため記事として書かせていただいてます。気になる方は是非Off Topic Clubに参加してみてください!

Googleの課題ポイント

まず、Googleは何に対して指摘されているのか:
・Googleの株価が2023年に入ってから1.9%しか上がっていない
・コスト削減をそこまで行なっていない
・AIプロジェクトが公共の場では上手くいっているように見えない
・最も重要な検索事業が危機的な立ち位置に?
・検索事業のビジネスモデルの再検討
・CEO Sundar Pichaiはリスクを取らないリーダーである

以下記事にて各指摘ポイント、そしてどういう変化が実際起きないといけないのかを解説してます。

課題①:Googleの株価が2023年に入ってから1.9%しか上がっていない

Nasdaqが今年に入ってから10%上がっていて、Metaも41%成長しているのを見ると、市場がGoogleを評価していないように見える。今だとGoogleとMetaが同じ売上マルチプルで評価されるぐらいになった。

課題②:コスト削減をそこまで行なっていない

株価があまり上がっていない一つの理由は利益率の改善、特にコスト削減をMetaや他の会社と比べて行なっていないのではないかと指摘されている。Metaが今年は「効率化の年」と発言してたり、レイオフを既に1度行い、またMark Zuckerbergが行う予定だと噂されている。Googleとしても1.2万人のレイオフを発表していてMetaの1.1万人よりも上回っているが、従業員の割合からするとたったの6%しかカットしていない。

Axios

課題③:AIプロジェクトが公共の場では上手くいっているように見えない

そもそもGoogleが今のAI生成技術のきっかけを作った研究を行ったのに、この領域では対応が遅いように見られている。Microsoftに先を越されて新Bingが立ち上がり、Googleもそれに対してBardを出したがまだデモレベルでデモ動画でミスもあった(フェアに話すとMicrosoftも初日からミスがあった)。

The Verge

課題④:最も重要な検索事業が危機的な立ち位置に?

新BingやChatGPTを活用したサービスはGoogle検索事業の抱えている93%のシェアを取るのではないかと。既にTikTok、Twitter、Instagram、アメリカではRedditなどがより複雑な検索や他人の意見を聞きたい時の検索のシェアを奪っているが、ChatGPTはそもそも使っているツール内に組み込めるので、Googleに行く必要性が減る。

Hootsuite

課題⑤:検索事業のビジネスモデルの再検討

GoogleがBardを導入出来ても、短期的にも長期的にも大幅にビジネスモデルが影響される。今現在のGoogleの検索を全てBardでリプレイスして場合、追加で$36Bぐらいのコストがかかると思われている。Googleの2022年の利益が$60B弱だったのを考えると、利益率がかなりヒットすることになる。もちろん全ての検索がBardにリプレイスされるはずはないが、25%だったとしても利益率が17%ぐらい下がってしまいます。

Semianalysis

ちなみに計算方法としては、Googleは毎秒32万検索を処理していると言われていて、検索事業は年間$162.45Bの売上なので、単純計算すると1検索あたり$0.0161の売上。サービス事業のマージンが34.15%なので、それをそのまま使うと1検索あたりのコストは$0.0106。詳細はこちらの記事をご覧ください。

課題⑥:CEO Sundar Pichaiはリスクを取らないリーダーである

Sundar Pichaiはリスクを取らないという指摘は過去何回もメディアからあった。以前New York TimesではGoogle経営メンバーはSundar Pichaiが事業判断に時間を使いすぎて早く動けない環境を作ってしまったと報道している。元々コンサル企業からGoogleのプロダクトマネージャーとして入ってCEOまで登り上がったのはテクノロジー領域でのビジョナリー的な考え方よりはマネージャー・管理職としてのスキルセットだとも言われている。ただ実際にGoogle Chromeの開発とかのリードを行なっているので、プロダクトに関してはスキルセットはあるはず。

BBC

Googleへの期待値とSundarさんのパフォーマンス

Googleには課題はもちろん大いにあるが、Sundar PichaiがCEOになってからのパフォーマンスを見ると、明らかに株主は儲かっている。2015年8月10日にGoogleのCEOになってからGoogleの株価は2.5倍以上成長。2014年末の年間売上が$66Bだったのが今では$283Bまで成長している。

Google Stocks

The Informationの記事ではGoogleの株主がGoogleにCEOをクビにするほど動くようにプレッシャーを与えているような文面を記載しているが、今のところそのような姿は全く見えない。一般的な考えからするとこの規模のCEOであればもう少し時間が与えられるはず。特にBingが本当にGoogle検索のシェアを取るのかが不明でもあれば、新Bingも発表時から何回も間違った回答を出していた。

ただ指摘が主に入ったのはGoogleであるのは、やはりGoogleの方が大きく、より「完璧」な検索事業を持っているからだと思われているから。Bingはその同じ期待値を抱えていないため、間違ったとしてもある程度は許される。実際にBardが出てきた時にBing以上の批判を受けてもおかしくはない。

「平和時のCEO」と「戦時下のCEO」の違い

今までSundar PichaiがCEOになるべきではない理由は彼の今まの出した実績を組み込んでないが、同時にGoogleとしては実際に今まで以上に危機的な立ち位置にいるのは間違いない。両方を組み込んだ結論は「Peacetime CEO」(平和時のCEO)と「Wartime CEO」(戦時下のCEO)の考え方に実はある。これはa16zのBen Horowitzさんが書いた記事で、テック業界ではよく使われる単語。

一つ面白いのは、この「平和時のCEO」と「戦時下のCEO」についてBen Horowitzさんが書いた2011年ではちょうどGoogleのCEO交代が起きたタイミングだった。当時はEric SchmidtがCEOで、創業者のLarry PageさんがCEOとして任命されたタイミングだった。このタイミングではちょうどGoogleの検索事業が問われていて、Larry Pageが戻ってきて検索ページを大幅に変更して、バーチカル検索エンジンを潰しに行った。

Campaign Asia

この記事では、平和時と戦時の時の会社の大きな違いについて書かれている。平和時では会社が競合と比べて大きなアドバンテージを抱えていて、市場が成長しているため、会社は自社の優位性を保ちながら市場拡大を目指すべき。戦時では会社は驚異的な競合、テクノロジー、市場などと戦うタイミングで、CEOとしては何があってもこの時期を乗り切るのを努力しなければいけない。

重要なのは、平和時のCEOは大きなアドバンテージを上手く活用出来て、戦時のCEOはヤバイほど心配性であること。

そう考えると、今までのSundar Pichaiさんの動きはまさに平和時のCEOの動き。Google検索の利益率などを活用してそのアドバンテージを拡大させたのが今までのGoogleの10年の動き。

Memofleet (いつもインフォグラフィックありがとうございます!)

一つ重要なのは過去のMicrosoftと違って、Googleの場合は今が戦時に入り込んでいるタイミングと理解してそうなところ。Bardの発表は正直微妙ではあったものの、それぐらいのスピードで動き出しているのは戦時カルチャーに戻すために大きなステップ。去年末辺りからGoogle創業者のLarry PageとSergey Brinが経営メンバーの会議に呼ばれているのも良い方向性だと思われる。

過去のMicrosoftがどんな感じだったのかを理解するには、Steve BallmerさんがiPhoneがリリースされた時のコメントが最も分かりやすい。$500は高いとか、キーボードがないのでメールがしにくいという発言だけではなく、Appleはスマホ売上がゼロでMicrosoftは数百万台も販売しているのであまり気にしていないというような発言をした。

もちろん後々見るとSteve Ballmerさんが間違った発言をしているのが分かるが、間違っていなかったのはまだ当時はMicrosoftがある程度アドバンテージを持っていたこと。ただ、心配性が足りなかったのが影響でMicrosoftはスマホへの展開が出来なかった。しかももっと重要なのはiPhoneが出た半年後にAndroidが出たこと。MicrosoftはGoogleにも追いつけなかったので、最終的に仕方がなくNokiaを買収して、それも失敗してクビになった。

結論

Googleの次のCEO選びで重要なのはGoogleの株主ではなく、創業者のSergey BrinとLarry Page。その二人は株式の割合だと12%以下しか持っていないが、議決権レベルだと51%持っているので、事実上コントロールしているのはこの二人。重要になってくるのは、この二人がGoogleに今戻ってMTGなどに参加している中で、同じような危機感を感じているのか。もし感じていれば、CEOが変わる可能性があるが、今回はLarry PageもしくはSergey Brinが戻ってくるのかは不明。二人ともはまだ49歳で、Larry Pageはイーロン・マスクと同等レベルの頭の良さと言われていると考えると、戻ってくる可能性はゼロではない。ただ、戦時CEOはかなり大変なので、今まで基本的に休暇中だった二人が一気に戦場に立つのは避けてもおかしくはない。そもそもSundar Pichaiも戦時CEOのスキルセットを持っているのかもしれないので、それを見極めるために二人が戻ってきているのかもしれない。

あと今のところ、新BingがGoogleを追い越せる要素は正直少ないのも理解しなければいけない。過去のOff Topicポッドキャストでも話したように、Googleは圧倒的なディストリビューションを抱えている。Appleに年間$15B〜$20B払ってiPhoneのデフォルト検索エンジンになっている。3年契約で確か今年か来年更新が必要だったはずなのでMicrosoftがオファーを出す可能性はあるが、正直コスト的にMicrosoftが払うのは厳しい。逆にGoogleとしては$25B〜$30B支払わないといけないかもしれないので、利益率的にはヒットするが、デフォルトのステータスを保つだけでアドバンテージは保てるはず。例えChatGPT的な検索が流行ったとしても、GoogleはおそらくBardで似たようなサービスを作り、Androidのデフォルトとして付け加えられる。

最終的にSundar PichaiがCEOとして残るべきかは次の数ヶ月で決まってもおかしくない。Googleとしては戦時にいることに気づいたので、ここからの動きが戦時のCEOなのか、平和時のCEOなのかが注目ポイント。

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