Paul Weller – On Sunset
2020年、コロナ騒動の最中にリリースされたソロ15枚目の作品。
「As Is Now」「Saturns Pattern」など、バランスが取れた傑作で組んだJan Stan Kybertがプロデュースを担当。
達観した爺を演じた前作「True Meanings」と比べ、ウェラーらしいメロディや幅広い音楽性が復活し、ウェラーの歌声も年齢相応の渋さと演歌にならないポップさの二面性を兼ね備えた、キャリア屈指の完成度を誇る優れた作品だ。
スタイル・カウンシル時代の相棒、ミック・タルボットがボ・ディドリーのビートを下敷きとした小粋な「Baptiste」など数曲でハモンドオルガンを弾いているのも話題になった。
これまでのキャリアでチャレンジした様々なジャンルの音楽を、シンプルながら効果的な音の配置と音響でフューチャーソウル的にアップデイト、そして曲自体の完成度が非常に高く、何度も聴けるアルバムになっている。ウェラーの代名詞的なパンク的な「FIRE」を直接感じる曲は無いが、中に秘めた音楽的な野心は、しっかり燃え上がっているのがわかる。
静かに始まり捻くれていく「Mirror Ball」、ビートが心地良いご機嫌な「Baptiste」、ウェラー流フューチャーソウルの金字塔「Old Father Tyme」、落ち着いたトーンで達観したボーカルに静かな炎を感じるアルバムを代表する名曲「Village」、エレクトリックとR&Bの高い次元での融合「Rockets」など、キャラがたった良曲だらけだ。
ジャケットの曖昧な雰囲気が正直なんとも言えないが、ウェラーの複雑な心境を示したものなのだろう。
還暦を越えたウェラーが年齢相応の落ち着きとモダンな感性を併せ示した大傑作だ。