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感情のブロマイド

持病の人間嫌いが発症し、慌てて森の中へ逃げ込んだ。

おなじみのオガワ アポロンTC。25キロくらいある。前回1人で1時間ほど格闘したので、
自宅で何度か練習を重ね、設営は30分を切るまでになった。
大きいは正義だ。なんでもかんでも積み込める車。
それを押し込めるテント。すべてを1人でこなす勇気。

私は孤独が好きだ。それは人に何かを伝えるのが苦手だからなのだ。
設営をするのに何度も同じことを伝えたくない。黙々と作業をしたい。
社会不適合者だから社会からはみ出た場所で静かに過ごしたい。

アポロンはペグさえしっかり打っておけば1人でひっぱり建てることが可能。
今回は風もなかったため、角の4箇所をペグダウンしただけで完了。
フライシートをかけていなかったことに気がついたのは翌朝のことである。
以前よりキャンプ×釣り、をしてみたかった。特に私はバイクでソロキャンに行くことが多い。
バイクは車では入れないところにもアクセスできる利点がある。とはいえ海釣り、しかもエサ釣りしかしたことがなかったため、今回はテンカラロッドを購入。
雰囲気だけは一丁前、テンラカの峰が爆誕した(ボウズだった)
「キャンプに持っていくウイスキーはアイラモルトでなければいけない」というルールを随分前から持っている。燻製を作ったり、炭火にまみれたりするので相性は良い。今回はスカラバスを持ち込んでみた。木々の匂い。春の湿った土の匂い。太陽の匂い。炭の匂い。火の匂い。
そういうものがよくマッチする。孤独の色が深くなっていく。
川では釣れなかったけど管理釣り場では楽勝だった。テンカラの良いところは竿にライン、ハリス、毛鉤を結んでおけばそのまま投げるだけ。いつか友人のオフロードを借りて林道を進み源流釣りにチャレンジをしてみたい。

私が入った川の近くにパジェロが止まっていたので、おそらく釣り人だろう、と思っていた。
釣れずにキャンプ地へ戻ろうとしたときに、先程のパジェロが止まっていたので話しかけてみた。
その方は漁業組合の方で「今日は15匹くらい。全部天然物」と、釣果を見せてくれた。
何が違うのか、と問えば朝の8時から腰まで浸かって釣り上がっていき、6時間は釣っていた、
とのことだった。なるほど根性が違かった。
スマホを出して、人が入らない(入れない、というか下って入れるけれど上がることができないような)場所の写真をたくさん見せてくれた。
「綺麗でしょう。あなたもドンドン川へ入ってください。そして釣りながら自分の足で、目で、
まだ見たことのない美しい景色を探してください」
そう言って彼はにっこりと微笑んだ。
私は車の中でぼんやりと「その道のプロが6時間かけて天然物釣ってるんだから、私みたいな素人には無理だよなぁ」と思ったのだった。
キャンプにおける設営の手間、ランタン作り、配置やあれやこれや…
その全てはこの時間のためにある。
不便な場所でいかに快適に過ごすことができるか?私の中でキャンプは
そういうゲームになっている。快適さを求めるならホテルに泊まればいい。
最近はグランピングだってどこでも出来る。身体1つで行けばいい。

でも、そうではないのだ。自分が持っているギアの一つ一つを吟味して積み込み、
自宅と変わらないような快適さを再現する。これは結構面白い。
1つ問題があり、私は基本的に1人なので快適さは主観だ。
人の意見を聞きたい気がするけれど「えー虫こわ〜い」とか言われると
殴りそうになるのでやはり1人のままが良い。それでいい。
コンロが足りなかったのでスウェーデントーチを購入してみた。2,780円也。
コンロとしての火力は強。すごい勢いで鍋が煮立つ。
地面に直で置きたいフォルムだけれど、直火禁止の場所ではルールに従いましょう。

焚き火台がこんなに普及するというか、使うのがマナーになるとは思いもしなかった。
と、いうのも地面へのダメージを少なくするために地表から高いところで焚き火をしよう、
という使われ方をしているけれど、果たして本当にダメージがあるのか疑問ではある。
疑問ではあるけれど、過去3回ほど直火の燃え残りが風で飛び、消防車が出動するレベルの火災になった、という例を間近で見ているので、どんな場所でも火の始末はきちんとしよう。
孤独を過ごすには少しばかり大きな寝室になってしまった。外気温2℃。
ストーブの他、シーツの下には電気毛布を敷いている。
キャンプで安眠ができる、というのはとても大切なことで、疲れが残るような寝床は翌日以降の行動に影響が出る。せっかくの旅なのだから、ぐっすり眠れる環境を作りたいと常々考えている。
ただこれは私の身体が弱っているだけなのだ。10代の頃はどこで寝ても、とりあえず眠れれば体力、気力が共に回復したものだ。
山形牛 月齢30ヶ月 未経産 ヒレ 200g
子を成すこともなく、肉塊となった彼女に少しだけ思いを馳せてみる。
遺伝子を残すことがすべてではない、という結論に達したところで焼いて行く。
無言。時々フクロウが鳴いているだけ。
塊肉の火入れは本当に奥が深い。だからこそ無言になる。真剣になる。目の前で諭吉が火にかけられているのだ。真剣にならない人はいないはずだ。
今回はパエリアを作ることにした。なぜか。お米を洗う手間がないからだ。
私のキャンプルールに準備8割、現地2割がある。前日、生のイカを捌く。
アサリは塩抜きをする。エビは頭と尻尾を残して殻をむく。
生のムール貝を探す。
これらをまとめて冷凍する。
玉ねぎ、人参をみじん切りにする。少しだけにんにくも入れる。
これは冷蔵にしておく。
あとは野菜をオリーブオイルで炒め、米を入れ、パエリアの素を入れればいい。
炊けてから魚介は入れる。なんせ素が優秀なのだ。楽をしていこう。
パエリアにはブイヤベースしかないと思う。なんせ同じサフランを使うのだから。
こちらは先程の魚介に魚のアラを加えておく。
野菜にはセロリを足しておく。
あとは現地で野菜を炒め、魚介を入れて白ワインを一回しして蓋をする。
十分にエキスが出たら、トマト缶を入れる。
ブーケガルニ、サフラン、ローリエを入れてじっくり煮込む。
コンソメを追加して、塩で味を整える。

峰ちゃんはどんな料理が得意なの?と言われて言葉に詰まったことが会ったけれど、今回なんとなく煮込系の旨味を引き出すような料理が得意なのかな、と思った。それくらい美味しかったのだ。
赤と緑が入ると食卓が華やかになる。カマンベールのアヒージョ。
小瓶のオリーブオイルににんにく、塩を強めにふって、あとは火にかけるだけ。
キャンプで油の多いものを作るのは少しだけ大変だけど、
キッチンペーパーを大量に持っていき吸わせてしまうか、固めるテンプルか、冷めてからペットボトルに油を移せばそんなに大変ではない。
そのまま油を流すやつにキャンプをする資格はない。
炊事場に現れたキツネ。
闇夜を裂いてぬるり、と出てきた。
海にしろ、山にしろ、川にしろ、動物と遭遇することは多々ある。
このキツネは人に慣れていたので、食べ物をもらうことがあるんだろう。
私は自然のものに餌を与えることを好まない。
確かに人から得たものをうまそうに食べる彼らは可愛い。
でも、それは自然の姿ではない。
自然にあるものは自然にあるべきだ、と考える。

寝ている間に近くに来られたらたまったものではない。
彼らとは住む世界が違う、あくまで少しだけ彼らの世界を借りている、
くらいの気持ちで過ごしていきたい。

人は1人では生きられない、と誰かが言う。確かにそうなのかもしれない。けれど世の中の大半のことは1人でも出来るのだ。1人でできないのは子を成すこと、だけだろう。

私はときどき、人間嫌いを発症する。これは性格によるものだ。誰とトラブルになったわけでもない。傷つけられたり、傷ついたりしたわけでもない。ただただ、人がいないところに行きたくなる、という厄介な病気なのだ。

そうして孤独という殻の中に閉じこもり、世界の中で一人ぼっちになって初めて、また人の世界に戻りたくなる。まったく厄介な病気なのだ。


アディオス

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