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【インタビュー】グリーン成長戦略で注目のバイオ炭とは? 熱分解炭化技術のプロに訊いた

CO2を地中などに固定する、炭素貯留効果に期待が寄せられている「バイオ炭」。経済産業省が2020年12月に策定したグリーン成長戦略では、バイオ炭を最大限に活用する必要性が強調された。

しかし、バイオ炭について詳しく知っているという方は少ないのではないだろうか。そもそも、バイオ炭という言葉を聞いたことがないという読者の方が多いかもしれない。

そこで、そもそもバイオ炭とは何かといった素朴な疑問や活用のメリット、可能性などについて、熱分解炭化技術のプロフェッショナルである株式会社FUKUMURAの代表取締役 福村猛氏に詳しく聞いた。

「バイオ炭」とは?

(株式会社FUKUMURA本社に展示されている、さまざまなバイオ炭。右の茶色っぽいものは、廃トウモロコシ芯でバイオ炭の原料だという。筆者撮影)

バイオ炭とは、動植物や廃棄物などのバイオマス原料を酸素の少ない状態で加熱することでできる炭化した固形物だ。酸素濃度の低い状態で加熱するため、燃焼を伴わない。つまり、バイオ炭を生成する際には、燃焼によるCO2が発生することはないという。

「バイオ炭は、生成にあたってCO2を排出しないカーボンニュートラルな資源だといえるのです」と株式会社FUKUMURAの代表取締役である福村猛氏は話す。

バイオ炭に加工することができるバイオマス原料には、どのようなものがあるのだろうか。福村氏によると、木質系や食品系、畜産業から出る排泄物や上下水道施設からの汚泥、医療系廃棄物など、炭素を含むありとあらゆる有機物がバイオ炭の材料になりうるという。

同社では、樹皮や間伐材、剪定枝などの木質バイオマスをはじめ、パーム油を取った後の椰子殻の残さ、賞味期限切れの食品やコーヒーかすといった食品系バイオマスもバイオ炭に加工した実績がある。さらに、上下水道施設の汚泥や、畜産業や紙業の廃棄物などに加え、紙おむつなどもバイオ炭にできるという。

多種多様な未利用バイオマスをバイオ炭にできるというので、福村氏に「貴社では何種類のバイオ炭を作ったことがあるのか」と尋ねたところ、多すぎてとても数えきれないとのことだった。

バイオ炭を生成する「熱分解炭化技術」

(紙おむつを熱分解炭化処理したバイオ炭。もちろん、においなどはまったくなくなっている。使用済みの紙おむつを炭化すると、取り扱いも容易になるという。筆者撮影)

バイオ炭は、バイオマス原料を酸素濃度の低い状態で加熱する「熱分解」というプロセスによって生成される。同社の熱分解炭化技術では、無酸素の状態で、バイオマス原料を輻射熱で間接加熱する。そのため、バイオマス原料を燃焼させることなく、不揮発性の「固定炭素」と揮発性有機化合物の「乾留ガス」に分離できるという。

こうして生成された固定炭素は、バイオ炭としてさまざまな用途に活用できる。一方の乾留ガスは、同社の熱分解炭化処理装置では、熱分解のための補助燃料として利用するという。「そのため、熱分解炭化処理装置の燃費を抑えることに加え、燃焼によって乾留ガスそのものを無害化できるメリットもあるのです」と福村氏は強調する。

バイオ炭のさまざまな用途

多種多様な原料がバイオ炭になりうることは前述の通りだが、完成したバイオ炭も多くの用途に活用できる。

一例を挙げると、石炭などの燃料の代替や補助燃料としての工業利用、農業においては、土壌に混ぜ込むことで連作障害の防止やpH調整を図ることもできる。また、多孔質という炭の性質を利用し、土壌の透水性や通気性を改善する効果や、有機肥料と混合して堆肥として活用することもできるという。

さらに、水中の汚濁物を吸着したり、微生物のはたらきによって分解したりする水質浄化剤としても利用できる。

このように、さまざまな活用用途のあるバイオ炭だが、まだ十分に普及しているとはいえない。今後、さらに普及や拡大が進めば、バイオ炭の用途はもっと拡大していくと予想される。

バイオ炭化のメリットと可能性

福村氏によると、バイオ炭化を行うことのメリットには主に以下のようなものが考えられるという。

まず、未利用バイオマス資源の有効活用というメリットが挙げられる。従来は廃棄されていたバイオマス原料を新たにバイオ炭として利用すれば、資源の循環が促進されるだろう。

次に、これまで廃棄されていた廃棄物をバイオ炭化・活用することによって、焼却処分を削減できるため、CO2排出量を低減できる可能性が期待できる。脱炭素にも貢献できるということだ。

さらに、バイオマス原料の発生現場でバイオ炭化を行えば、減容・減量によって処理コストを抑制する効果が生まれるという。発生した場所で処理ができれば、輸送コストを大幅にカットできるだろう。畜産業で出る排泄物や上下水道施設における汚泥などの処理コストを圧縮できるという点は、バイオ炭化処理の大きなアドバンテージだといえる。

筆者は、これらに加えて、CO2を土壌中に固定する炭素貯留効果も大きなメリットであると考えている。バイオ炭を土壌に混ぜると、土壌の質を改善できるだけでなく、CO2を地中に固定できるとされている。固定されたCO2は、燃焼されない限り、半永久的に大気中に放出されることはないとされる。

2019年には、地球温暖化に関する国際的な組織であるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が、農地や草地にバイオ炭を投入することによる炭素固定量の算定方法を正式に定めた。これを受け、2020年には、Jクレジット制度に「バイオ炭の農地施用」という方法論が追加されている。

こうした方法論に従えば、バイオ炭を農地に利用することによるCO2削減量をクレジットとして売却できることになる。クレジットの価格がどうなるかによるものの、バイオ炭の農地利用に取り組むことに新たなインセンティブが付与された形だ。

このように、バイオ炭化に取り組むことには多くのメリットがあるが、もしかすると、ここに挙げた以外にも、たくさんの活用方法があるかもしれない。福村氏は「バイオ炭には、もっともっと多くの活用可能性が秘められていると考えています。ぜひ、若い方々の斬新なアイディアでバイオ炭の新たな用途を開発していただきたいと思います」と期待を寄せる。

株式会社FUKUMURAについて

(左から株式会社FUKUMURAの代表取締役 福村猛氏と、取締役の福村昭子氏。筆者撮影)

今回、バイオ炭や熱分解炭化技術について教えていただいたのは、福岡県に本社を置く株式会社FUKUMURAだ。同社は、独自の熱分解炭化装置を開発し、海外や国内で炭化事業を展開している。これまで、廃棄物が多く発生するアジアを中心に、熱分解炭化装置の技術提供や技術指導を行ってきた。近年は、国内の学術機関や地方自治体の研究機関などと提携し、熱分解炭化技術に関するサポートに従事している。

福村氏は、自動車整備関連や物流事業といったキャリアの中で、産業廃棄物や特別管理廃棄物の収集運搬や中間処理に携わることがあったという。折しも、家庭や学校などでごみを焼却する際に発生するダイオキシンの問題がクローズアップされた時代であり、福村氏は、ダイオキシン類を出さない熱分解炭化技術に出会い、その技術を極めたいと心を動かされたという。

その後、20年にわたり技術開発を続け、大学の研究員を経て、国連の環境専門者会議でも発表の機会を得たという福村氏。同社は、あらゆるバイオマス原料を熱分解炭化処理する中で「それぞれの原料をどのように処理すれば無害化できるのかというノウハウを蓄積してきました。そのため、当社のバイオ炭の最大の特徴は、高度な熱分解炭化処理技術によって完全に無害化できることなのです」という。

同社は、定置式の熱分解炭化装置と車載式の炭化処理装置を開発している。車載式の炭化処理装置は、移動が禁止されている特定外来種や、河川などに繁茂する水生植物なども、発生現場でバイオ炭に変えることが可能だ。

こうした強みを活かし、同社は今後、離島内の廃棄物対策などに熱分解炭化技術を活用する取り組みを進めていくとしている。離島では、島内で廃棄物の処理を完結することが難しく、島外へ処理を委託する必要があるが、そのコストが大きな課題となっているケースが多い。同社の熱分解炭化技術によって、離島内で発生した廃棄物をバイオ炭として資源循環できれば、こうしたコストを低減できるかもしれない。

福村氏は「熱分解炭化技術は、未利用・廃棄物系バイオマスの資源循環を可能にします。焼却処分の削減によって脱炭素に貢献することができますし、安定型埋め立て処分場が足りなくなるといった問題にも役立つでしょう。2020年に策定されたグリーン成長戦略においても、バイオ炭の農地投入やバイオ炭資材の普及が位置付けられました。バイオ炭や熱分解炭化技術は、この先ますます社会に必要とされるものになっていくと確信しています」と力を込めた。

インタビューを終えて

バイオ炭の活用事例といえば、果樹などの剪定枝を炭化し、土壌改良剤として活用する山梨県の取り組み「4パーミル・イニシアチブ」が知られている。しかし、これほどさまざまなバイオマス原料をバイオ炭にできるということや多くの活用用途があるということを、恥ずかしながら筆者はこのインタビューまで知らなかった。

グリーン成長戦略の中にバイオ炭の活用が明記され、Jクレジット制度の方法論に加えられたことで、これからは多くのバイオ炭資材が誕生、普及することが期待される。脱炭素というと再生可能エネルギーによる発電が注目されがちだが、バイオ炭を活用した炭素貯留など、現存する技術をうまく利用していくことも同様に重要だと考える。バイオ炭や熱分解炭化技術に取り組む事業者が増えるとともに、ビジネスパートナーを募集中だという株式会社FUKUMURAに素敵なパートナーが見つかることを願っている。

最後に、突然のインタビューの申し出を快くお受けくださり、たくさんの情報提供をいただいた株式会社FUKUMURA代表取締役の福村猛氏、取締役の福村昭子氏に心からの謝意を表したい。

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