見出し画像

透明人間ばかりの世界が平和になることを証明する。
男Aは人生が嫌になって自殺を決意する。
しかしAはこう思った。
「ビルの屋上から飛び降りるのは恐い。走る電車に飛び込むのは申し訳ない。首吊りは自分には無理」
そこでAは薬局で適当に薬を買うことにした。
Aが薬局に行き、買い物かごに大量の薬を入れてレジに向かうと、レジ担当者は薬剤師を呼んだ。
薬剤師はAに、そんなに大量に薬を売るわけにはいかない、といった。
Aは仕方なく、3種類の薬を1箱ずつ、計3箱買った。
Aは別の薬局に行って、すでに入手した薬とは異なる3種類の薬を1箱ずつ、計3箱買った。
これを繰り返し、Aは300種類の薬を1箱ずつ、計300箱手に入れた。
Aはバケツのなかにすべての薬を入れて、熱湯で溶かして一気に飲み干した。
するとAの体が透明になった。
Aは「死ねないじゃないか」と落胆したが、「待てよ」と思った。
Aは、「透明人間になったらなんでもできるので、人生に起きている嫌なことをすべて回避できるのではないか」と思った。
それでAはいったん死ぬのをやめて、翌朝を待つことにした。
Aは眠り、そして朝になって目覚めた。
Aの体は透明なままだった。
Aは午前10時に自宅を出て銀行に行き、カウンターの向こうに入って行員たちの机の上にのっている札をつかんだ。
行員には札が浮き上がったようにみえる。
銀行はパニックに陥り、Aは手に持てるだけ札を持ち銀行を出た。
Aはこの「静かなる銀行強盗」を繰り返し、午後3時には1億円を手にした。
Aは翌日以降も銀行強盗を繰り返し、結局100億円を手に入れた段階で「もう十分だ」と思って銀行強盗をやめた。
Aはカネだけでなく、あらゆるものを手に入れていた。
道路にフェラーリが駐車してあれば、石でドアガラスを割り、その石でハンドルの下あたりを破壊してエンジンをかけてガソリンが尽きるまで走った。
ガソリンが尽きたらフェラーリを放置して、別の車を盗んで旅を続けた。
Aは(ここでは紹介できないような凶悪な)犯罪もした。
(ここでは詳細を紹介できないが)その犯罪は、これまでの恨みをはらすものだったり、性欲を満たすものだったりした。
1週間後、Aの体がみえ始めた。
透明人間状態が終わった。
Aはカネ持ちになっていたから、もう薬局を渡り歩く必要はなく、インターネットで300種類の薬を1箱ずつ、計300個買い、バケツに入れて熱湯を入れてそれを飲み干して、透明人間になって悪いことを繰り返した。
ところが1カ月後、Aは突然「もう悪いことはしない」と思い、実際、悪いことをやめた。
Aは「悪いことはもう飽きた」と独り言をして、「そうだ」と思い立った。
Aは暴力団事務所に行って、組長と面談して、透明人間になることができる薬剤レシピを教えた。
組長は300種類の300箱の薬を飲んで透明人間になり、これまでにない悪いことをした(ここでは詳細を紹介できなほどの悪いことを)。
組長は組員全員を透明人間にして悪事を繰り返した。
Aは次に警察庁に行き、長官と面談して、透明人間になることができる薬剤レシピを教えた。
長官は300種類の300箱の薬を飲んで透明人間になり、悪い奴らをどんどん捕まえていった。
長官が警察官全員を透明人間にして捜査にあたらせたところ、悪事はだいぶ減った。
しかし透明人間集団と化した暴力団の悪事は止まらず、しばらくは透明暴力団の悪事と透明警察庁の優れた捜査のイタチゴッコ状態になった。
ところが1カ月後、すべての透明暴力団員は悪事をやめ、すべての透明警察官は捜査をやめてしまう。
透明人間全員が「もう飽きた」と思って、悪事も捜査もやめてしまったのである。
それでこの国は平和になった。
つまり、他人に干渉されない人が増え、他人を干渉しない人が増えると、その国に平和が訪れるのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?