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鉄のつくり方~鉄鉱石はこうして鉄製品になる


鉄という言葉にはさまざまな意味があります。

学校の化学の授業では鉄は原子番号26の元素Feのことですし、普段の生活ではスプーンや自動車のボディに使われている金属のことを鉄と呼んでいる人もいるのではないでしょうか。また、オーストラリアの茶色の広大な大地に埋まっている鉄鉱石のことを鉄という人もいます。

スプーンも自動車のボディも鉄鉱石も、主成分はFeですがそれぞれかなり異なります。

 

そこでこの記事では、鉄とは何かについて明らかにします。

身の回りにある鉄はどのようなもので、どのようにつくられているのか解説します。

 

Feは重くて多い「地球の重量の3割を占める」

 

鉄という言葉の最も正確な意味はFeで、この元素には重くて多いという性質があります。

 

まず重さですが、Feの比重は7.86です。比重は1立方センチの質量(単位はグラム)のことで、密度ともいいます。比重1は水です。したがってFeは、同じ大きさの水と比べると7.86倍重いことになります。

重い金属のイメージがある金(Au)の比重は19.32、軽い金属のイメージがあるアルミニウム(Al)は2.68なので、Feは重いほうといえるでしょう(*1)。

 

次に多さですが、Feは地球上のすべての元素の5.0%を占め、これは4番目に多い量です。最も多い元素は酸素(O)で46.6%、2位ケイ素(Si)27.7%、3位アルミニウム8.1%です。

Feは多さこそ4位に甘んじていますが、比較的重いので地球の重量の3割を占めています(*2)。地球のことをよく、水の惑星といいますが、実は鉄の惑星でもあるのです(*3)。

 

*1:https://lab-brains.as-1.co.jp/for-biz/2021/07/37951/

*2:https://www.nipponsteel.com/company/nssmc/science/pdf/V15.pdf

*3:https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20210223/se1/00m/020/057000c

 

海中の酸化鉄の塊が地上に現れたのが鉄鉱石の鉱山

 

Feの起源は、137億年前に宇宙に誕生した陽子と中性子です。陽子や中性子などからヘリウムと水素ができて、核融合という現象が起きてさまざまな元素が生まれました。さまざまな元素の1つがFeです。

地球に酸素が生まれると、酸素とFeが結合して酸化鉄ができそれが堆積して鉄鉱床がつくられました。

鉄鉱床は海のなかにできたのですが、15億年前に海底が隆起して地上に現れました。それがオーストラリアの茶色の広大な大地などの、鉄鉱石を多く含む鉱山です(*2)。

 

鉄鉱石から鉄製品をつくるには

 

なお鉄鉱石とはFeを含むさまざまな物質からなる鉱物です。自然状態のFeは酸素以外にもさまざまな物質とがっちり結びついています。したがって鉄鉱石からダイレクトに鉄製品をつくることはできず、まずは鉄鉱石からFe以外の物質を取り除かなければなりません。それが鉄づくりの最初の工程になります(*4)。

 

*4:https://www.nipponsteel.com/company/publications/quarterly-nssmc/pdf/2017_18_10_13.pdf

 

鉄製品はFeに石炭と石灰石が必要

 

スプーンや自動車のボディなどに使われる「製品としての鉄」は、鉄鉱石からダイレクトにつくることができないだけでなく、鉄鉱石からFeを取り出した純粋なFeだけでもつくれません。必要になるのは、石炭と石灰石です(*5)。

石炭と石灰石を加える理由については後段の「製品としての鉄をつくる」の章でも紹介しますが、ここでは「石炭はコークスをつくるため」「石灰石は不純物を取り除くため」と押さえておいてください。

 

日本では、石灰石は国内で調達しますが、鉄鉱石と石炭は全量輸入しています。日本の調達先の国は、鉄鉱石はオーストラリア、ブラジル、南アフリカなど、石炭はオーストラリア、インドネシア、カナダなどとなっています(*6)。

 

なお日本以外で鉄鉱石、石炭、石灰石がとれる国ですが(上記でも一部紹介していますが)鉄鉱石はオーストラリア、ブラジル、南アフリカ、アメリカ、中国など、石炭はオーストラリア、インドネシア、カナダ、アメリカ、ロシアなど、石灰石は中国、アメリカ、インドなどです。

 

*5:https://www.nipponsteel.com/company/publications/quarterly-nssmc/pdf/2013_11_004_16_17.pdf

*6:https://www.cjc.or.jp/school/a/a-1-2-2.html

 

製品としての鉄をつくる

 

鉄鉱石、石炭、石灰石などの原料で「製品としての鉄」をつくっていくのですが、この「製品としての鉄」にもいろいろな種類があります。

鉄製品をつくるメーカー(モノづくり企業)が使う鉄のことを鋼材というので、ここではこれを「製品としての鉄」と呼びます。

「鉄鉱石+石炭+石灰石」を一気に鋼材することはできず、その間に以下のような作業が必要になります。

 

●「鉄鉱石+石炭+石灰石」

●事前処理をする

●高炉で銑鉄をつくる

●転炉で鋼をつくる

●鋼片にする

●鋼材(=「製品としての鉄」)にする

 

この作業をするには高炉というとてつもなく巨大な設備が必要になるのですが、それを持っているのは日本には3社しかありません。

「製品としての鉄」ができるまでを紹介します(*5、7、8、9、10)。

 

*7:https://www.jisf.or.jp/kids/shiraberu/index.html
*8:https://www.nikkei.com/article/DGXKZO55068730Q0A130C2EA2000/

*9:https://metoree.com/categories/6107/

*10:https://www.gulfnde.in/2022/05/what-is-difference-between-ingot-bloom.html

 

事前処理が必要~焼結鉱とコークスをつくる

 

鉄鉱石を溶かしただけではFeを取り出すことはできず、まずは事前処理が必要になります。ここで焼結鉱とコークスをつくります。

 

石炭を1,300度以上で蒸し焼きにしてコークスをつくります。続いて鉄鉱石を粉砕してコークスと石灰石を混ぜて焼き固めます。これが焼結鉱です。

石炭をコークスにすると発熱量が格段に上昇するので、高温を出すことができます。またコークスによって鉄鉱石からFeを取り出しやすくなります。

石灰石を入れると、鉄鉱石に含まれるシリカやアルミナといった不純物を取り除くことができます。

 

高炉で銑鉄をつくる

 

「製品としての鉄」づくりで使う設備で最も大きなものを高炉といい、高さ約100メートル、底面の面積はテニスコート1面分にもなります。日本で高炉を持っている会社は、日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼所しかなく、この3社を高炉メーカーと呼びます。

 

高炉のなかに、鉄鉱石と焼結鉱とコークスを入れて加熱します。コークスが入っているのでその温度は2,000度に達します。

そして高炉の底にどろどろになったものができ、これを銑鉄(せんてつ)といいます。

銑鉄は「製品としての鉄」の原型のようなものです。

 

銑鉄を転炉に移して鋼をつくる


銑鉄の状態では硬すぎてもろいので、「製品としての鉄」として使えません。そこで、高炉から出てきた銑鉄を転炉に移して精錬という作業を行います。この作業によって銑鉄が鋼になります。

鋼は銑鉄より炭素が少なく、それで粘りが生まれ「製品としての鉄」として使えるようになります。

 

この工程では、銑鉄に含まれる、ケイ素、リン、硫黄といった不純物を除去します。転炉のなかに石灰を入れると不純物と化合して塊になるので、それを取り出すことで銑鉄から不純物を除去できます。その塊を転炉滓(スラグ)といいます。

転炉ではさらに、マンガン、シリコン、アルミニウムなどを加えて成分調整して鋼ができあがります。

 

鋼を連続鋳造設備で鋼片にする


高炉の容積は5,500立方メートルにもなり、高炉メーカーは1日に12,000トンもの銑鉄をつくります。そこから小分けにして転炉で鋼をつくるわけですが、それでもものすごい量になります。


鉄製品の材料は鋼なのですが、転炉でつくった鋼をそのまま、鉄製品をつくっているメーカーに渡しても加工に手間がかかります。

そこで高炉メーカーは、鋼をつくったあとそのまま加工していきます。

 

どろどろ状態の鋼を鋳型に流し込んで、形をつくります。このとき使う設備を連続鋳造設備といいます。

連続鋳造設備で鋼を、半製品である鋼片にしていきます。

 

さまざまな鋼片:ビレット、ブルーム、スラブ、インゴット


鋼片にはビレット、ブルーム、スラブ、インゴットといった種類があります。

 

ブルームの正式名称は条鋼圧延用鋳塊といい、断面が正方形(1辺130ミリ以上)の長い棒です。

ビレットの正式名称は押出用鋳塊といい、円柱形の棒です。ブルームより細い棒になります。

スラブの正式名称は圧延用鋳塊といい、角形断面の、厚さ50ミリ以上、幅300ミリ以上の板です。

インゴットの正式名称は一般原材料用鋳塊といい、メーカーの要望に応じて形をつくります。

 

鋼片から「製品としての鉄」である鋼材をつくる


鋼片でもまだ「製品としての鉄」になりません。鋼片を加工してつくる鋼材が「製品としての鉄」になります。

鋼材には、線材、厚板、薄板、丸鋼、棒鋼、鋼管などがあります。

 

鋼片と鋼材は次のような関係になります。

 

●ビレット:線材、丸鋼、棒鋼

●ブルーム:ビレット

●スラブ:厚板、薄板

●インゴット:鋼管

 

日本製鉄は厚板、薄板、棒鋼、線材などをつくっています。

JFEスチールは薄板、厚板、鋼管、棒鋼、線材などをつくっています。

神戸製鋼所は線材などをつくっています。

 

食器メーカーや自動車メーカーなどのメーカー(モノづくり企業)は、自社製品の形状に加工しやすい鋼材を購入してスプーンや自動車のボディをつくります。


特殊鋼をつくる電気炉とは

 

ここまでに紹介した「製品としての鉄」は、いわば最もベーシックな鉄といえます。そして「製品としての鉄」には、Feにそのほかのさまざまな金属を加えてつくる特殊鋼があります。

特殊鋼をつくるときは、高炉も転炉も使わず、電気炉を使います。また特殊鋼は原料に鉄鉱石を使わず、捨てられた鉄である鉄スクラップを使います。つまり鉄鉱石などでつくられた鋼材が鉄製品になり、それが捨てられたあとに鉄スクラップになって電気炉で特殊鋼に変わるわけです。

 

また高炉メーカーが特殊鋼をつくることがあり、このときはやはり電気炉を使います。この工程を2次精錬といいます。高炉でつくった銑鉄を精錬するのが1次精錬で、さらに電気炉で精錬するので「2次」になります。

 

電気炉では、鉄スクラップなどで満たした炉(大きな器)のなかに電極を差し込み、電極にアーク放電を生じさせます。このとき高温の熱が発生するので鉄スクラップやその他の金属が溶けて製品である特殊鋼ができあがります。

 

まとめ~人類の生活を支える鉄をつくるための高度な技術


記事の内容を箇条書きでまとめます。


●いわゆる鉄にはさまざまな種類があるが、「製品としての鉄」はFeとはかなり異なる

●「製品としての鉄」の主な原料はFeを含む鉄鉱石と石炭と石灰石

●「鉄鉱石+石炭+石灰石」は銑鉄、鋼、鋼片を経て鋼材になる

●鋼材が「製品としての鉄」である

●「銑鉄、鋼、鋼片、鋼材」をつくるには高さ100メートルの高炉が必要

●日本には高炉メーカーが3社ある

●特殊な鉄である特殊鋼は、高炉ではなく電気炉でつくる


さまざまな高度な技術によって「製品としての鉄」、つまり全人類の生活を支えている鉄がつくられていることがわかると思います。

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