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父の遺産を全部もらった彼女は鬼ババなのか つづきの最後

父親からの電話はこうだ。
新しい家は、もし自分が亡くなったらトモコさんにあげてやってくれというもの。少し声が上ずってる気がした。勇気を振り絞って話している感じ。いやいや、もちろんだよ、どーぞどーぞと、私は答えた。いやだって、これだけ色々お世話してもらっていて、有難くて、それくらいの価値はあるし、父親の申し出はごもっともだと心から思った。

子どもの頃から常に両親に言われていたことがある。「お父さんもお母さんも、お箸一本から自分たちで買ったのよ。死ぬときには財産全部使って一円も残さないからね。あなた達も全部自分で稼ぎなさい」と。そう、だから親から何か貰おうなんて全く考えはなかった。

この頃私は、毎月のように二人の所に帰って(?)いた。父親の顔を見るためもあるけど、半分はトモコさんのガス抜きだ。父は要介護3になっていて、トモコさんの負担はだんだん大きくなっていた。毎月顔を出してトモコさんの苦労話を聞くことが、唯一できる私の「介護生活」だった。

ある時トモコさんから、重要書類のBOXのありかを教えられ、その中にある証文を見せられた。いわゆる「遺言書」。そこには父親の死後に家をトモコさんに譲ることが明記されていて、公証人役場の判が押されていた。いやー、しっかりしてるなーと妙に感心した。

BOXには父親の預金通帳も入っていて、それも見せられた。前の家を売った時、新しい家を購入した時、年金や生活費などなど、収支はきっちり付け込まれていて(トモコさんは元経理)、私に常にオープンにしていた。うんうん、大丈夫よ、私別に疑ったりしてないから、と心の中で思っていたけど。

結局父親は介護度がどんどん上がり、施設に入り、そのまま亡くなった。入居した施設は、トモコさんのお陰でとてもいい雰囲気の所だったし、家からも近くトモコさんは毎日のように通ってくれた。結局、最後まで介護に尽くしてくれたトモコさんのお陰で、私たち子どもは大した苦労もすることなく最後を看取れたこと、感謝してもしきれない。

ただ、兄貴の見方は少し違う。何が食い違うのか、私は騙されているということになっている。家をトモコさんにという父親の話には、特に反対していなかったはずなのに、その後どこか何かがあったのか(めんどくさいので聞いてない)、途中からオニババ扱いになっていた。

でも、どうなんだろう?例えば、前の実家がそのまま残っていたとする。その処分を現地に疎い私たちができただろうか?そもそも荷物の処分すら大変なこと。それを親が自分たちで引っ越しすることでやってくれて、無茶苦茶助かったし。あれだけの介護をやってくれた人に対して「オニババ」だなんて。。。兄貴はそのプロセスをあまりに知らなさすぎ。

そりゃ、私にも時々頭をかすめることがないわけではない。「ホントかな?」と疑う心がふとわいてくる。トモコさんがよく「長生きしてね」と父に言っていたけど、20年超えると内縁の関係でも財産権が発生するのだとトモコさんから聞かされた時は、少々複雑だった。あくまでも他人なので、疑いだすとキリがない。でも、だからどうなんだ?といつも自分に言い聞かせる。万が一そうであったとしても、逆にどうなんだと。

財産を奪うことが目的だったとして、それでどうなんだ?(いや大した財産でもないけど)土地をたくさん持って、それで?お墓には持っていけないし、自分の息子に渡して、それでどうなんだ?(ちなみにトモコさんの息子も子どもはいない)お金に換えて贅沢する?それ、幸せ?たとえそうであっても、もういいやという気持ち。そんなことより、疑うことをやめていい関係をつづけた方がずっと幸せ。

この間トモコさんと会った時、彼女がふともらした。
「これで良かったのかなぁって思うのよね」
何が?と聞きたかったけど、聞こえないふりをしてスルーした。もうどうでもいいなと。

私はトモコさんとエセ母娘ごっこを楽しんでいる。「お父さんが残してくれたプレゼントだね」と言うとトモコさん涙ぐんでた。今さらムリに本当のことを知る必要もないと思ってる。騙されたなら騙されたままでもいいと。

兄貴には伝わらないだろうなぁ。でも、恨みを抱える兄貴よりも私の方が幸せだと思う。たぶん。

おわり。

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