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父の遺産を全部もらった彼女は鬼ババなのか つづき

父の彼女トモコさんはサバサバした人だった。ずっと共働きで働いていて、息子が一人いた。夫を突然死で亡くしてしばらく泣き暮らしていたけれど、年齢が早期退職年の55歳になったことで、新しい人生を始めたいと会社を辞めて婚活していたのだそう。

この間まで働いていたビジネスウーマンだけあって、専業主婦の母親とは違い経済の話題に明るかったのも、私とウマが合ったところ。

専業主婦花盛りの時代にあって、ずっと働き続けていくには相当の苦労もあったようだった。男女雇用機会均等法もない時代だから、差別もかなりあったと思う。それでもしがみついて仕事をしていたのは、幼少時代の苦労が大きかった。

トモコさんは軍人だったお父さんを戦争で亡くして、戦後かなり苦労して育てられたらしい。トモコさんと妹さんとの女3人暮らしは、そうとう心細かったと思う。だから、とにかく自立して経済力をつけたいと、そんな風になるのは自然の流れかな。

だから、父親と出会った時は、持ち家はもちろん、投資用のマンションもいくつか持っているくらい裕福だったから、別に父親と籍を入れる必要はないかった。というか、むしろ入れたくない(笑)くらいだっただろう。だって、私のような子供どもが増える方が遺産でもめるじゃない?そこが十朱幸代(似の彼女)とは大きく違ったし、両家の利害が一致したところ。

二人は仲良く付き合い始めた。どちらも持ち家があるので、トモコさんが週に何度か通ってくるような仲だったみたい。一緒に旅行に行ったりして、お互いパートナーを亡くしてできなかった穴を埋めていくような生活を楽しんでいた。前向きな二人を見ていて私もうれしかった。

あるとき、トモコさんと二人で話していた時にこう言われたことがあった。「私たちは『今』を楽しみたいのであって、お父さんがもし倒れて寝たきりになったりしたら、その時はお別れするからね」と。そりゃそうだと思ったよ。私もトモコさんに介護を担ってもらいたいから二人を祝福したわけじゃない。日々を幸せに生きていてほしいからであって、自分の義務を放棄してトモコさんに押し付けようなんて思ってない。そりゃズルいじゃないかと、自分に言い聞かせてもいた。

じゃぁ、実際にそうなったときはどうするんだ?私が介護するのか?兄貴はどうなんだ?特に具体的な案はないまま、日々はずるずると過ぎていた。

つづく・・・


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