ある先輩の話(4)~やることとやらないことを決める

 銀行員がパン屋になった先輩の話に続きです。

 起業に関して、その先輩は振り返っていくつかの示唆をしてくれました。

 まず一つはやることとやらないことを決めたということです。自分の年齢や元銀行員の経歴から決められたということで、売上を追うことは労力がかかるので避けたそうです。具体的にやらないことしては、お金は借りない、補助金はもらわない、値引きはしない、セールもしない、チラシを配布しない、そしてパン屋として食品添加物を使わないということでした。やると決めていたことはレシピの公開、起業志望者へのノウハウの無償提供だそうです。

 やらないことを決めるのは大変重要なことだと思います。どこかの文部大臣が身の丈にあった受験をと言って世の中の批判を浴びていましたが、シニアの起業にとっては、まさに身の丈に合った事業展開ではないかと思います。もちろん事業意欲が旺盛な方は、拡大志向で事業展開されればいいと思いますが、身内の介護や体の限界、仕事以外にやりたいことなどを考えると、筆者は身の丈が良いのではないかと思います。

 3つの壁の話を前に書きましたが、あえて生産力の壁に挑戦せず、自分の体と相談しながらやったことが、先輩の成功に秘訣だったと思います。ある所から先輩のお店の看板商品のシフォンケーキの注文が200個あったそうです。最終的にはお断りになられたようですが、200個の納品のためには、仕込みの時間を大幅に増やす必要があり、保管するための冷凍・冷蔵設備も用意しなければならなくなります。そうすると朝から晩まで働き詰めでないとだめで、その注文がこと切れると冷凍冷蔵設備も遊休設備と化してしまいます。そういうリスクを取るか取らないか、まさに経営者としての判断が求められたのだと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?