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市の公募委員の仕事を終えて

 この6月で3年間の任期の川崎市の地域包括支援センター運営協議会の公募委員の仕事が終わりました。前期高齢者に属する自分自身にとっても、存命中の親や兄弟の行く末についても、どうしていくべきかも含めて、色々なことに気づきのあるよい経験でした。
 
 市町村には老人福祉法と介護保険法に基づいて、老人福祉計画及び介護福祉事業計画を一体的に作成することが求められています。川崎市ではこの計画の名称を「かわさきいきいき長寿プラン」として、3か年毎に計画を見直しながら、高齢者福祉行政を進めています。公募委員の任期3年も「かわさきいきいき長寿プラン」の見直しサイクルに合わせて、決められています。

 「かわさきいきいき長寿プラン」は高齢者を対象とした事業計画ですが、障害者や子供・若者といった対象者毎の計画や、健康づくりや保健医療といったテーマ毎の計画などもあり、それらの計画の上位概念として、地域包括ケアシステム推進ビジョンがあり、「すべての人の生活を支える生活の基盤としての地域」の実現に向けて、様々な施策が掲げられています。その施策を一言でいうなら、相談支援体制の構築に尽きると思います。

 相談をするというのは、被相談者の発意がないとスタートしません。何か相談したいと思っても、通常はこんな相談をしたら、相談を受けた方も困るよな、とか、自分のプライベートに踏み込まれるのが嫌だとか、心理的なブレーキが働きます。そういった心理的な障壁の撤廃も含めた相談支援体制が求められます。相談をすれば、そのあとの支援は御本人やご家族のご意思をベースに、物理的あるいは金銭的な条件などを加味しながら自ずと決まっていくのだと思います。

 少し横道に逸れましたが、公募委員の話に戻ります。地域包括支援センター運営協議会の名称にある、地域包括支援センターは、高齢者福祉の身近な相談窓口として、現在市内49か所に設置されており、社会福祉士さん、主任介護支援専門員さん、保健師等の人員が配置され、担当地域にある介護系の様々な事業所を束ねる組織であり、一般的に地域包括支援センターは地域の介護系事業所のうちで、相応に力があるところが、運営しているケースがほとんどになっています。地域包括支援センター運営協議会の委員の仕事はと言うと、その運営の在り方(個別のセンターの経営に関わる部分を含む)や高齢者福祉の周辺環境の変化(法律の変更、厚生労働省の指導の変化、経済状況、雇用環境等)に伴う、施策の優先順位の見直しといった課題や、冒頭のかわさきいきいき長寿プランの次期計画の策定の方向性などに意見を述べることが求められます。議事録は市から公開されていますので、委員の方々がどんな発言をしているかは、其方をお読みいただきご評価いただければと思いますが、私自身は家族との関わり合い(主に両親や兄弟の家族)の経験に基づいて、それなりの意見は申し上げることができたかなと思っています。

 然しながら、協議会で意見を言うことが大変難しいことだなと言うことも体感しました。まずは、総花的な表現となっている市の施策案をどんな優先順位で行うかの判断がつきにくいのです。そして、投入できる資源(人物金)は限られており、それをどのように優先順位をつけて活用するのかは、それぞれの立場によって違うということです。さらに、自分自身の立場も時間の経過とともに変化することもありえます。例えば、税・保険料の負担者と現に受益を受ける者は、同じではなく、介護保険料を支払っていても、その恩恵を受けていない方はたくさんいるはずです。その方にとっては、介護保険料は抑制的であってほしいわけです。逆に、介護保険の受益を受けている方は、対価はそのままで、サービスの内容を充実したものにしてほしいと考える方が多いのではないかと思います。そして、前者は時間の経過とともに後者になりうるわけです。そこに、発言する難しさを感じました。
 
 また、提示される資料は膨大なので、本当はもっと吟味が必要になるのですが、なかなか読み切れません。もちろん資料は事前配布されますが、資料の膨大さは、全体を俯瞰してみるという視点にもかけてしまいます。最後に開催された会議で、第9期のかわさきいきいき長寿プランの冊子が渡されて、改めてそれを見て、初めて気づいたのですが、冊子に要介護者・要支援認定者と認知症高齢者の推計資料があり、現状では前者が後者を上回っています。しかしながら第9期の計画年度の最終年度では、後者が前者を上回りるとなっています。前者には、認知機能の低下がない、障害を持つ高齢者の数が含まれているので、その数字を比較すると、認知症高齢者の相当数が、要介護者・要支援者認定を受けられず、したがって介護保険の支給を受けられないことになります。これは推測となりますが、介護保険料の伸びを押さえようとすると後者の推計値を低く抑えざるを得ない現実があるのかもしれません。実は、この資料は、途中の会議でも、目にしていたのですが、初めて目にした段階では字ずらを追うのが精いっぱいで、比較するというところまで、気が回らなかったのです。策定段階で気づけたとすれば、何かしらの変化を促すことができたかもしれないと思うと残念でした。

 それに関連して、高齢者が受ける介護サービスの在り方についても、心配に思ったことがあります。それは介護サービスのうちの居住サービスと施設系サービスへの介護保険運営上の予算配分に関してです。本来であれば、何かしらの政策意図(例えば、施設系サービスは抑え気味にして居住サービスに重点的に予算を配分するという意図をもち、予防のための施策を多めに打つ)を踏まえて、施策展開がされることが必要と思うのですが、政策意図はないのかとご質問したところ、要介護者・要支援者認定数の推計値から、横置きしたとの回答でした。その結果何が起こるかというと、前述の要介護者・要支援者の推計値が妥当なものというのが前提となりますが、今回の計画では施設系サービスに関しては既存施設の賃金上昇等のコスト増をまかなうのが精いっぱいで、施設自体の数はあまり増やせず、要介護者・要支援者の増加分をあまり多くは取り込めません。したがって、要介護者・要支援者の増加分の大半は居住系サービスで賄わざるを得ないという結論になります。介護保険料を上げて、施設系サービス拠点を増やすという選択肢ももちろんありますが、現役世代からの所得移転の話にもなるので、慎重な対応が必要になります。

 介護保険料に関して、5月下旬に令和6年度の基準額の全国平均の数字と市町村毎の保険料の多寡が新聞紙上をにぎわしましたが、全国平均が月6225円で大阪市がトップで月9,249円、一番低いのは小笠原村3,374円、川崎市は全国平均を少し上回る6,591円になっています。これをどう見るかは難しいですが、大阪市の担当者は「1人暮らしの高齢者の方が介護サービスが必要で、結果として介護費用が増えている」と説明しています。この大阪市の説明は現象面の説明するものとしては正しいといえるかもしれないが、裏返せば、「介護や認知の予防に関わる施策」をあまりやってこなかった付けを今払っているともいえます。
 
 川崎市も長期的な視野で様々な施策を実行していかないと、将来に禍根を残すことになります。先日ある市議さんとお話をしたところ、今の市長の市政になって、総務企画局に組織を統合し、長期施策にに関しては、行政のIT化、効率化ばかりに目が向くようになっていて、政策意図的なものが欠落している面があるとお話されていました。長期施策がないということは、すぐに弊害が出ることにはつながらないもですが、中長期的には、大きな問題を先送りすることにもなりかねません。そして、足元の計画では、施設系サービスはそれほど増やすことができないので、本当に必要な方に、介護サービスを利用してもらうには、高齢者一人一人が自助、自立しあるは共助の当事者になることで、介護保険の支出の伸びを抑制していくことが求められていることになります。出来上がった第9期かわさきいきいき長寿プランでは、その施策として、介護認知予防に関わる施策もたくさん表現はされていますが、総花的なプランの羅列にならざるを得ず、そのあたりのメッセージ性に欠ける点もいささか残念に思っています。この辺りは、行政の責任においてやるべきことだと思います。

 こうしてみると、すこし消化不良に終わった公募委員の仕事でした。そんなこともあり、この問題には引き続き関われればと思い、より現場に近い区の地域包括支援センター運営協議会の公募委員に応募したところ、選任の通知をいただきましたので、引き続き関わっていければと思っています。

 

 

 

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