◆世界の傷を切り取ること
日常の隅に落ちている他人の孤独や絶望、傷を切り取ることは覚悟がいる。
私は自分についた傷や暗闇ならいくらでも切り取れるけれど、人の絶望までは切り取る勇気がない。
具体的にあげるとなんだろう、たとえばホームレスを切り取る写真家。
社会の穴を描写する作家。
実際に声をあげて活動することもそうかもしれない。
目にするたび心を揺り動かされるけれど同時に自分には無理だ、と思う。
人の傷を記録したり創作や活動として背負う強さは私にはない。
自分が負った傷、そして過去、人に負わせてしまった傷を抱えるだけで、持っている少しの勇気を全て使い切ってしまっている。
一度ついてしまった傷、誰かにつけてしまった傷はなかったことにはならないし逃げることもできない。
自分を含む半径1kmくらいの小さな世界のなかの出来事でも、目を背けたくなったり、見えないふり、なかったことにしたいことがたくさんある。
そこを飛び越えて、自分以上の景色の傷を切り取るには、どれだけの強さがいるのだろう。
まったく想像がつかない。
私は今後もきっと手が届く距離の世界で、人から見たら「そんなこと」と言われてしまうような傷ばかりを、あれやこれやと書き綴っていくのだろうと思う。
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