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守る対象の守り方を考えてみる

令和6年度から策定と運用が義務化された介護事業と障害福祉事業のBCPは、業界・業種が似ているから同じ方向であるとは限りません

ネット上に多くのBCPのひな形や参考資料などが公開されていますが、それらひな形などのとおりにBCPを策定し、運用していませんか

そのようなBCPでも決して悪いことはありませんが、方向性を間違えると、災害などの事態が発生した時に使えないBCPになってしまいます

今回は、このようなことが無いようにするためのBCP策定・運用に関するひとつの考え方を解説します


■ 守る対象の守り方を間違えないこと

常に重視しなければならない事項があります
それは・・・

BCPの策定と運用は ”守る対象の守り方を間違えない” ということです

介護事業と障害福祉事業は、サービス利用者側の特性と事業者側の特性があります

  • 訪問系、通所系、入所系、居住系、外出支援系などの業務上の区分特性

  • 定住・居宅、短期滞在、日帰りなどのサービス利用者側の時間別特性

  • 外出支援や家事援助など利用者介添えタイプから医療と介護の複合タイプまで多様である特性

  • 単一サービスのみ提供か、複数のサービスを提供しているかの特性

  • サービス利用者1人に対する職員の配置割合上の特性

  • サービス利用者の心身状態などの事情が多様である特性

  • サービス利用者の家族・親族の事情でも左右される特性

  • 日ごろからサービス提供ニーズがあるが、非常時もニーズが継続する特性

上記は一例ですが、サービス利用者側と事業者側それぞれに事情や特性がありますので、それらを踏まえてBCP(BCPだけでなく、防災系の各種計画も)を策定して運用することが重要です

当たり前のことかもしれませんが、ひな形や他事業所等が作成したBCPに頼り切って策定・運用していると、自分らの事業にはマッチしていないBCPになってしまうことがあります

その代表的なミスマッチこそが ”守る対象に対する守り方を間違える” ということです

”いやいや、うちの事業は〇〇〇〇だから、守る対象も明確だし、やるべきことも決まってますよ” と思われる方も、今一度、見直してみて下さい


■ 守ることの考え方

BCPを策定して運用する主だった目的は、人の命と財産の保護とともに、重要事業を継続させることにありますので、守る対象もそのとおりなのですが、守る対象をどうとらえるかによって、守り方が変わってくる可能性があります

自分らの事業特性を主軸に考えると、おそらく、自分らにできる対策とやるべき対処が先に並べられ、その範囲で守る対象や事業をどう守るかという考え方になろうかと思います

その逆に、守る対象や事業をどう守り切るのかを主軸に考えると、自分らの事業特性に応じた取るべき対策とやるべき対処が見出せます

分かりますでしょうか

”自分らの実力最大限で守り切る” という結論と

”守り切るために自分らに必要な実力を備えておく” という結論との違いが出てきます

それらはの違いは、守る対象と自分らの事業のどちらの目線で見ているのかに違いがあります

前者は、事業側の立場で、今ある事業から見た守り方
後者は、守る対象の立場で、守る対象から見た今ある事業と守り方

守る対象に対する守り方を単純に考えがちですが、立場と見方を変えて考えることも重要です

チューリップが周りの皆に言いました ”私は赤い花です”
チューリップの周りにいる皆が言いました ”あなたは赤い花です”

どちらも赤い花という話ですが、両者の ”赤” は全く同じ ”色合い” ではないかもしれません


■ 守り方を、どう見出すか

まずは、介護事業・障害福祉事業にあっては、サービス利用者と自分らの事業そのものが守る対象ですが、それぞれ順番に整理してから守り方を考えるようにします

  1. サービス利用者の特性

    • 利用者個々の心身上の特性・特徴

    • 利用者個々に配慮・考慮すべ事項・状況

    • 利用者個々の提供するサービスに対する希望・意向

    • 利用者の家族・親族の状況と希望・意向

    • サービス利用状況(利用頻度、在所・通所・訪問の別など) ・・・・など

  2. サービス利用者にとっての脅威とは

    • 速やかな動作・行動が求められる事象・事態

    • 速やかかつ適切な判断が求められる事象・事態

    • 医療支援が受けられなくなる事象・事態

    • 事業所等の職員からの隔絶・孤立化

    • 家族・親族との音信不通

    • 本人から希望・意向が発せられない・受け入れられない

    • 振動、騒音、対人トラブル ・・・・など

  3. 事業の特性

    • 提供するサービス

    • 組織体制・セクション・分任担当

    • 従業員の数、勤務形態

    • 従業員個々の居住地、通勤手段、連絡手段、同居家族等

    • 事業所等の立地・施設

    • 常時必要とする設備・部外からのサービス

    • 運転資金・必要経費

    • 業務に必要な備品・書類等

    • 連絡手段・情報収集手段 ・・・・など

  4. 事業にとっての脅威とは

    • 従業員等の不在・連絡途絶

    • サービス利用者の不存在

    • 利用ニーズ・社会ニーズの不存在

    • 事業所等の施設が使用不可能・一部しか使用できない

    • 必要とする設備・部外からのサービスの利用不能

    • 運転資金の枯渇・必要経費の増大

    • 業務に必要な備品・書類等の枯渇・損失

    • インフラの中断

    • 各種情報の枯渇 ・・・・など

  5. 次に、守る対象のうち、サービス利用者に関して守り方を考えます 

    • 利用者個々の特性に即した保護・誘導・隔離などのあり方

    • 最低限必要とするサービスや医療支援など

    • 利用者個々に対する接し方

    • 利用者家族等と共有すべき事項

    • 利用者の継続し身上看護の方針と方法 ・・・・など

  6. その次は、その守り方をするために直接必要とするモノを列挙します
    この際、それらが現在及び非常時にあるかどうかではなく、必要性を重視します

    • 利用者を保護し、サービスを提供し続ける知識と技術を持つ従業員

    • 利用者を保護し、サービスの提供を継続するために必要で安全なスペース

    • 利用者に提供するサービスに必要な設備や備品など

    • 最低限必要なインフラとインフラ中断時の備蓄

    • サービス提供のために必要な情報と入手先 ・・・・など

  7. そして、その守り方をするために事業所等が必要とするモノを列挙します
    同じように、現在及び非常時にあるかどうかではなく、必要性を重視します
    上記の内容と重複するはずですが、かまわずに列挙します

    • 知識と技術を持つ従業員

    • 利用者と従業員、設備等を収容する安全な施設・スペース

    • サービス提供に最低限必要な設備や備品など

    • 最低限必要なインフラとインフラ中断時の備蓄

    • サービスの提供と事業運営に必要とする情報と入手先

    • 事業運営に最低限必要とするデータや書類など

    • 上記の運用・処理の要領を定めたマニュアルやチェックリスト ・・・・など

  8. 最後に、上記の全てについて、現状で、できること・できないこと、あるモノ・ないモノを抽出します
    ”できないこと” は、どうすればできるようになり、そのためには何をが必要かを列挙します
    ”ないモノ” は、代替の手段、備蓄の要否・数量、平時と非常時での入手要領などを検討します

このような流れで分析して検討すると、守る対象であるサービス利用者と事業を主体として、事業側がすべきこと・備えておくべきモノなどが明確になります

守る対象をどう守るかに対し、事業側に足りないモノがあれば、それをどのように備えて、入手し、そのときに構えるかを整理する手順は、結果としてBCPで示す方針や重視事項、具体的対策などに相当する内容が現れてきます

ひと手間かかりますが、せっかく策定したBCPをただの飾りとしないようにする大事な考え方と思ってください


■ まとめ

BCPを策定し、日ごろから運用させ、災害等の事態発生時にはBCPを発動して可能な限りの適切な活動を行うことで、守るべき対象をしっかり守り切ることが、守るべき対象でもある事業運営・経営そのものだということで考えていただきたいと思います

  • BCPの策定と運用は ”守る対象の守り方を間違えない”

  • 守るべき対象は、立場と見方を変えて考える

  • 守る対象について整理する

業務継続計画(BCP)だからといって、事業中心で考えすぎると、何のために事業を営んでいるかの大きな使命を見失うことがありますので、自分らの事業の使命(ミッション)と、そのためにどうあるべきか(ビジョン)ということに立ち返って考えるようにするといいでしょう

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