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グループホームを例にしたBCPの策定

介護事業所や障害福祉サービス事業所等における業務継続計画(BCP)の策定と運用が令和6年度から義務化されます
残るところ概ね1年半(R4.10現在)ですが、進捗状況はいかがでしょうか

ノウハウや人材、時間がないと感じ、なかなか先に進まないのが現状かと思います
それでも、義務化となれば策定しなければならないし、策定するからには使えるものにしたいと考えるでしょう

そこで今回は、事業の業態の一つである ”グループホーム” を例にしてBCPの策定を考えてみます


■ 小規模であっても守るべきことは多い

グループホームは、利用者はの生活の場であり、医療的ケアなどが受けられる重要な拠点です
また、日中サービス支援型であれば、緊急・一時的な利用者の受け入れ対応などの特徴があります

それ故に、グループホーム事業の運営が中断する事態発生は、その影響が相当に大きなものとなります
利用者の生活・居場所がなくなったり、生活支援や医療支援が受けられなくなるからです

更に、職員の立場では働く場でもあるので、事業の中断は、雇用の機会と収入を失うことになります
このように、事業の中断によって受ける影響は、利用者とサービス提供者の両者を直撃します
このことは、利用者やサービス提供者の人数、事業の展開規模に比例して大きなものとなります

だからと言って、小規模事業だから影響が小さく済むということにはなりません
また、事業を中断させないようにするための対策や活動も少ない負担で大丈夫ということにはなりません

  • 災害等発生時は、人命保護が最優先
    利用者が数名であっても、少ない職員数で避難誘導などの対応をしなければならない

  • 施設が使えない場合の利用者を収容する代替の施設など
    利用者の居場所や各種ケアなどを提供できる場所をどうするかの事前対策を講じる

  • 長期間のインフラ中断に耐え得る代替手段や備蓄などの備え
    直ぐに調達できない電気や水に代わる手段を考えておき、備蓄できるモノは備蓄する

これだけを考えてみても、やるべきことは沢山出てきます
ただ、事業を中断させない目的は実に明確です

”利用者と職員、事業そのものを守る”


■ BCP策定は、目的を外さないことから

BCPを策定している・これから策定しようとしている方が最初に当たる壁がコレです
”策定すると言っても、どういう風に考えればいいのか” という壁です

答えは、”目的から外れない・目的に戻る” ということに尽きます
目的は明確です

利用者と職員、事業そのものを守る

この目的から外れることなく・外れそうなら戻って考えを整理するようにします



ワンポイント・アドバイス

策定作業は、多くのことを考え、結論を導き出す作業の連続です
考えを整理する際に有効な方法があります

6W1H当てはめ作業
 Why:何の意味・目的があって
 Who:誰が・何が
 Whom:誰に・何に対して
 What:何を・どれを
 When:いつ・どんなとき・いつまで
 Where:どこで・どの立場で
 How:どのようにする

大きな課題から細かな課題の検討に共通して活用できます
常に6W1Hを漏れなく・抜けなく考え、当てはめるだけで結論が見出せます
見出した結論は、BCPやマニュアルなどに、そのまま記載することができる形になっているはずです

BCPは、事業の継続戦略について、目的を示し、事業が遭遇している事象に応じて何をするのかを示した計画書です
また、その細部として、方針と目標を定め、そのための実施事項などを細かく示すことになります


■ どのような流れで考えるか

目的が明確だからといって、いきなり細かい実施要領や手順を策定することは困難です
物事を考えるのには、順番が重要です
大きな物事から徐々に細かな物事を策定するという流れで考えるようにします。

ここに、とあるグループホームのBCPの目次があります
目次からも見て取れるように、大きな事項から順番に細かく示してあります

  • 目的

  • 基本方針

  • 体制と担任

  • 平素の運用
    ・体制の維持整備
    ・優先業務
    ・リスク分析とインパクト分析
    ・見直しと改善
    ・教育・研修・訓練

  • 平素の細部実施事項
    ・安全管理
    ・施設及び設備の保守
    ・インフラ中断に備えた代替手段
    ・資器材の備蓄と管理
    ・情報・データの管理
    ・運転資金の確保
    ・名簿・リスト・手順書等の管理

  • BCP発動基準

  • 非常時の運用
    ・初動の行動基準
    ・対処体制の確立
    ・情報の収集・分析・伝達
    ・重要業務の確認

  • 非常時の細部実施事項
    ・利用者と職員の安否確認
    ・職員の参集
    ・避難・誘導
    ・二次被害防止と防犯
    ・重要業務の復旧と継続
    ・施設とサービスの代替
    ・被害の復旧
    ・職員の勤務管理
    ・運転資金の調達
    ・必要資材の調達
    ・自治体への連絡・連携
    ・他事業所等との連携
    ・福祉避難所の運営・連携

  • 名簿・リスト・手順書等の様式

グループホームの場合、利用者に対する ”生活と支援の場と機会の提供” が重要事項です
具体的には、”居住施設の提供と飲食・排泄・入浴・医療の支援” となることでしょう
そうなれば、優先業務は、”施設の維持管理、各種支援の実施と常時態勢の維持” となるでしょう

このような考え方で次のような流れで細かく分析しながら整理します

  • 優先業務を明確にする

  • 優先業務を支える事業資産の種類と必要量を洗い出す
    事業資産:人・物・金・情報

  • それらのリスクと事業に与えるインパクトの分析を行う
    資産を失う可能性、失うものの種類と量、優先業務の継続性など

  • 優先業務を継続させるための対策や備えを構築する
    復旧・業務再開の時期(目標)、事業資産の備蓄や調達、手順書等の作成など

このような流れで整理しますが、この際、文字や図表で ”見える化” することで整理しやすくなります

ちなみに、提供するサービス形態が異なると、優先業務と優先性が異なります
例えば、訪問系・居宅系サービス事業であれば、利用者の生活の場は自宅等の事業所以外の場所です
優先業務に必要な事業資産のうち、施設の優先性はグループホームほど高くはないでしょう
その代わり、移動手段や連絡体制などの優先性が高くなります


■ 最初から完璧を求めない

非常に有名なスペインのサクラダ・ファミリアという寺院の建造のお話です
1882年に着工してから140年を経過していますが、いまだに完成していません
現在も建造中のところがありますが、同時に、痛んだ箇所の修復作業も行っています

140年の間には、建設技術に変革があったり、政治経済の影響を受けてきました
その時々で、建設の追加や修正、変更があり、完成までの道のりも変化しています

BCPの策定も、これと同じことが言えます

策定の流れどおりに色々と考えていると、”あれもこれも、何が何だか分からなくなった” となります
策定できない・策定に費やする労力がないと思う理由には、こんなことがあるからでしょう

策定を進めるにあたっては、最終的に完成を目指すのですが、”完璧” を求める必要はありません
一通り完成させた後に、足りないことを追加したり、修正や変更をすることができるからです

完成したBCPを見返し・読み返ししていると、色々と気付くこともあります
事業を運営している中で、環境や状況に変化があったりもします
また、完成したBCPを職員全員に確認してもらったり、教育・研修や訓練を行う中でも気づきが出てきます

大切なのは、それら気づきを放置せず、その都度、追加や修正、変更することが重要なのです
もしかすると、そのような気付きはBCPだけでなく、平素の事業運営にも関係することかもしれません

漠然としている事業戦略や事業計画を文字・図表で表すことで見えてくることが必ずあります
見える化の作業は、建物の設計図を描くのと同じ作業です
目で見て分かる設計図を基に、次の活動につなげるのが事業の運営・継続と言えます

完成を目指すが、最初から完璧を求めず、その時々の気づきを大切にして策定するようにします

これまでに、グループホームを例にBCP策定の考え方と流れを解説しました

  • 小規模事業であっても、守るべきとこは多い

  • 目的から外れることなく・外れそうなら戻って考えを整理する

  • 大きな物事から徐々に細かな物事を策定するという流れ

  • 文字や図表で ”見える化” することで整理しやすくなる

  • 完成を目指すが、完璧を求めない

  • 事業全体を俯瞰視して、追加・修正・変更を逐次行う

これらに留意しながら、作業を進めれば、自然と完成度の高いBCPが策定できるはずです


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