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想定事態と想定被害を考えるためのポイント

BCPを策定する作業においては、 ”想定される災害等の事態” と ”事業に影響を及ぼす被害” を考察して整理する必要が出てきます
ネットなどで公開されているBCPのひな形の多くには、想定される事態と被害の項目が最初の方で明記するような様式になっています

”それでは、想定される事態を考えよう!” と始めてみると、大地震や洪水などの主だった災害が挙げられることでしょう
ですが、あなたの事業に被害を及ぼしそうな災害などの事態は、それだけでしょうか?
もしも、想定外の事態が発生したら、策定したBCPが使えますか?

そこで今回は、想定される事態と被害を考える際のポイントを解説します


■ 想定される事態は後(うしろ)から考える

”想定される事態の種類” は、一番最後に考えてください

考えるポイントは、考える順番にあります
その順番とは、次のようになります

  1. 事業が継続できなくなる要素

  2. 事業に影響のあるモノと想定する被害

  3. その被害を引き起こす事態の種類と規模

ほかの記事でBCPの策定は「大きい内容を決めてから、より小さな内容を考える」と解説しましたが、想定される事態と被害を考えるときは逆順で考えると整理しやすくなります

災害等の事態の発生確率や規模は予想・予測が難しく確実さがありませんが、事業が継続できる・できないの要件や条件は、確実に見出すことができるものですので、まずは、確実なものから順番に整理して考えようというのが、これから解説する方法になります


① 事業が継続できなくなる要素を考える

事業が継続できなくなることは、災害等の事態が発生しなくても起こり得ることです
中小企業の事業は基本的に商売ですので、次の要素がなければ事業は成り立たないはずです

  • 売り手

  • 買い手

  • 売り物

  • 売り場

また、事業を運営・経営するためには事業資産も絶対に必要です

  • 人:従業員、お客さん、取引先、仕入先など

  • 物:商品、原材料、製造設備、備品、施設など

  • 金:運転資金、売上げ、経費、融資、投資など

  • 情報:国内外情勢、経済市況、業界動向、顧客情報、交通情報、天気予報など

さらに別の概念で区分すると、次のようなものも事業に関係してきます

  • ハードウェア:施設、設備、機材、資材、商品などの物理的に形があるもの

  • ソフトウェア:情報、電子データ、サービスなどの物理的な形がないもの

  • ヒューマンウェア:知識、意識、感情、技術、経験などの人が持っているもの

  • インフラ:公共施設、水(上下水道)、電気、ガス、通信などの供給を受けるもの

  • トラスト:事業に対する他者・他事業者の信頼・信用

これらのモノがなければ、事態で被害が発生しても重要事業を復旧させることは難しいでしょう
そのことを踏まえて、自分の事業が継続できなくなるモノ(要素)を洗い出しみましょう

どの要素も重要かとは思いますが、また、重複する要素があるはずですが、まずは書き出すなどしてみてどんな要素があるかを把握します
また、具体的に誰、何、何処などがあれば、それも洗い出しておきます


② 事業に影響のあるモノと想定する被害を考える

洗い出したモノは、どれもが事業に必要なモノであり、失うと事業が継続できないということです
それらを次の要領で整理します

  1. 洗い出したモノのうちで、モノを失っても代替できるモノや他の手段・方法があれば何とかなりそうなモノをチェックしておきます
    例:経理処理用パソコン → 従業員の能力、ノート、そろばん、筆記具、業務処理要領など

  2. その逆に、失うことで確実に事業が継続できなくなるモノもチェックしておきます
    ここには代替として活用・流用できるモノも含むようにします
    例:従業員、お客さん、工作機材、顧客情報が入った電子データ、電気、通信など

  3. 2.でチェックしたモノそれぞれに、失う時に想定される被害状況を書き出します
    例:従業員が負傷する・行方不明、機材が故障する、電子データを損失するなど

  4. 書き出した想定される被害状況を整理します
    おそらく同じような状況があるかと思います
    例:人が負傷する・連絡不通、機材が焼損・破損する、停電で電子データが見れないなど

この作業は時間と手間がかかるかとは思いますが、自分らの事業を支えるものが何かを具体的に整理することは、日ごろの経営にも必要となります
これらは ”事業実態" とか ”事業体質” とかで呼ばれるものの一種で、事業主・経営陣はこれを把握しておかなければ経営戦略が立てられず、経営も順調に進めることができないことでしょう


③ その被害を引き起こす事態の種類と規模を考える

いよいよ ”想定される災害等の事態” を考える段階になります
整理した被害状況を引き起こす可能性のある災害などを被害状況と関連付けます

この際、ネット等を活用して過去の事例を参照したり、ご自身や知り合いの体験や聞いた話なども参考にします
例えば・・・

  • 人の負傷:物が倒れるほどの地震、建物火災、ガス爆発など

  • 連絡が取れない:電線回線が切れる・混雑するほどの地震、台風、洪水など

  • 機材の焼損・破損:機材が倒れるほどの地震、機材置き場の火災など

  • 停電:地震、変電所の火災、強風・台風、洪水など

また、災害の種類が同じでも規模や場所などが異なれば被害が出る場合と出ない場合があるので、種類だけではなく、どこで・どのような規模の災害なのかもイメージします

加えて、先ほどから ”災害等” や ”災害など” と表記していますが、事業に影響を及ぼすものは災害だけではなく、事故や事件、不祥事なども該当しますので、次のような事態も考慮しなければなりません

  • 集団感染や集団食中毒

  • 犯罪被害

  • コンピューターウィルス感染やサイバー攻撃

  • 情報流出やコンプライアンス違反

  • テロ攻撃(その巻き添え)

  • サプライチェーンや提携先などの業務の停止

なお、これらを考える際は、一つの事態だけに注目しすぎないようにしなければなりません
つまり、”複合事態の発生” が高い確実性をもっているからです

  • 地震(人、施設、の被害) + 火災(人と物の被害) + 避難先での集団感染(人の被害)

  • 大雨洪水(人、施設、物の被害) + 土砂崩れ(人、施設、物の被害)

  • コンピューターウィルス感染(情報の被害) + データ情報の流出(信頼・信用の被害)

このように、”こんなことが起こると事業に致命傷” という要素、被害状況、被害を引き起こす事態を順番に整理することで、BCPで示す ”想定される災害等の事態” と ”事業に影響を及ぼす被害” が見出せます
また、考える途中の段階で具体的なこと(例:この機材が破損すると困る、この人がいないと困るなど)も洗い出せますので、後の策定作業の参考ともなります


■ まとめ

想定される事態と被害を考える際のポイントは、次の順番でそれぞれ整理することです

  1. 事業が継続できなくなる要素

  2. 事業に影響のあるモノと想定する被害

  3. その被害を引き起こす事態の種類と規模

そして、事業に影響を及ぼす事態とは、災害だけではないということにも注意して考えます
余談ですが、事業に影響を及ぼす事態のことを「脅威」とも言い、被害を被る可能性と被害規模の度合いのことを「リスク」とも言うことがありますので、ネット等で脅威とリスクの文字を見かけたら混同しないように気を付けてください

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