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災害発生時、社会福祉を何が支えるのか

災害などで被害が甚大になる事態の発生においては、多くの人たちが医療、介護、障害福祉などの社会福祉事業に頼ってきます
被害状況下で自分自身や家族の身を案じながら治療や看護など受けるため、ワラをも掴む思いで社会福祉事業所等に来るのです

そんな状況になることは、過去の事例から予測でき、医療、介護、障害福祉等の事業所はそれなりの備えや構えが必要となることも理解できると思います
また、国や行政もそれぞれの機関で対策を講じ、いざという時に速やかに行動できる態勢を整えています

しかし、自分らの社会福祉事業自体にも被害が出ている場合、一体、”誰が自分らを助けてくれる”、”何が事業を支えてくれる” のでしょうか
国や行政機関の支援は十分なのでしょうか・いつごろから助けがくるのでしょうか

今回は、防災やBCPを考える上で、そんな悩ましいことをどのように考えればいいのかについて解説します


■ 誰が助けてくれるのかは立場によって違いがある

防災関連の用語ですが、こんな言葉をご存じでしょうか

” 自助 ” ” 共助 ” ” 公助 ”

  • 自助とは、人命救護や被害復旧などの活動を自分らで行う ”自分の身は自分で助ける” という意味です
    災害等発生直後は、他者の力を借りることが期待できませんので、自力で初動を制する活動になります
    例えば、地震の揺れが大きく、タンスに挟まれたが自力で脱出するなどです

  • 共助とは、人命救護や被害復旧などの活動を周辺の人たちと ”協力して周りを助ける” という意味です
    災害等発生から数時間~2、3日の間は、自分らの身近にいる人たちらと活動することになります
    例えば、地震で倒壊した家屋に残された人を地域の人たちで救助し、ケガの手当をするなどです

  • 公助とは、国や行政機関、ライフライン事業者が人命救護や被害復旧、最終的には復興まで行うという意味です
    大きな組織力と有形無形のパワーをもって行う活動です
    自衛隊や消防、警察などによる捜索救助や給食水支援、道路等の復旧、事業者によるライフラインの復旧などがこれに当たります

この3つの ”助け” は、時間の経過とともに ”自助 → 共助 → 公助” の順で活動が活発化し、時間の経過とともに人も資器材も多くなります
一方、人命は何の助けもなければ、時間の経過とともに危ぶまれる状態になり、事業にあっても時間の経過とともに事業資産が徐々に消費されます

ここに一般市民と社会福祉事業者との間に隔たりが生じてきます

一般市民にとっての自助や共助は自分や周りの人たちですが、社会福祉事業者を公助の一つとして捉えて助けを求めてくることでしょう
ところが、社会福祉事業者側も事業に被害が出ている間は皆と同じように被災者として公助を待つ立場となっているはずです

社会福祉事業にかかわる事業主、経営陣、従業員などは、自分自身も被災者として自助と共助の活動を行いつつも、一般市民にとっての公助である社会福祉事業の復旧を急がされる立場になるはずです

しかし、限られた人手と事業資産でこれを乗り切れる自信はありますでしょうか

そこで、事前対策として ”共助態勢” を早期に確立できるようにしておくことが望ましいことになります


■ 共助の態勢を考える

自助は一人か数人、共助であっても十数名程度の活動ですので、やれることが限られます
また、自分自身の身の安全や被害復旧も同時に行わなければなりません

社会福祉事業者も同じですが、事業にかかわる人達も被災している可能性が大いにありますので、日ごろ当たり前のことが望めません
防災計画や防災用資器材があっても人がいないと何もでず、人がいても事業資産が枯渇していれば事業は成り立たないわけです

そこで、同種・同業他事業所などと協力した活動でお互いに助け合うことで事業の復旧と継続を行おうというのが ”事業間共助” です
一人ではできないことを周辺の人たちと協力して行う活動である共助を被災した事業者同士でも行おうというものです

例えば・・・

  • 地域が異なる介護施設間で協定を結び、どちらかの施設に被害が出た際は、他方の施設に要介護者を収容する

  • 病院と介護施設間で契約を結び、被害が出るような災害等発生時は介護施設に医師が常駐する

  • 訪問系介護事業同士が提携して、両者のサービス利用者宅を相互訪問する

・・・など、二者、三者間で協定等を結び、災害等で被害がある場合に備えた共助態勢をあらかじめ整えておくのが事業間共助です

なお、各種法令の規定上できないこともあるかもしれませんので、災害等発生時の応急処置としてどの程度・いつ頃までなら許容できるかなどを管轄自治体の社会福祉部署や社会福祉協議会などに問い合わせ・相談しておく必要があります

その他にも、介護や障がい者支援のために必要な資器材の仕入れ先業者とも災害等発生時の ”補給態勢” について理解を求めるほか、必要であれば、業務委託契約などを結んで、いざという時の優先的な資器材納品や代金支払時期を保留してもらうなど、事業の復旧と継続に必要な関係作りも大切です


■ 公助はいつごろから期待できるのか

”人命救助の72時間の壁” という言葉をご存じでしょうか

地震等災害が発生し、人的被害が出た際の人命救助は72時間(3日)以内が勝負と言われています
その理由は・・・

  • 人が給水なしで生き残れる人命救助上のタイムリミット

  • 過去の自然災害被災者の時間ごとの生存率

  • 自衛隊などの行政機関の増員が最大化し、給水支援等が開始されるのが約72時間後

今では、東日本大震災をはじめとする地震災害、大雨洪水等災害など、この10年ほどの多くの災害発生を受けて、国や地方自治体はより迅速な対処を行うように体制整備を進めています

それでも大災害規模となると、やはり数日間は公助が期待できないことが予想できます
加えて、ライフラインや通信、物資輸送となると、1週間以上の長期にわたって供給を受けられないことも考えられます

事業継続の観点で考えると、事業者が持つ力で生き抜く自助で生き残り、同種・同業他事業者との協力による共助でしばらくの事業継続ができたとしても、その後の損失補填や元の状態に戻すために必要な経費が枯渇すれば、完全に事業を戻すことはできないでしょう
また、被災事業者支援のための補助金などの支給、支払期限の延長措置、利息の免除などの公的支援が事業を助けるようになるまでは、さらに長期間を要することも考えられます

このように、直接的な公助と財政的な公助の両者の存在と時間的な特性を踏まえて、 ”備えと構え” と 事業継続のための ”戦略” を事業に持たせることが非常に重要となります


■ BCPの策定と地道な運用が事業を支える

社会福祉事業の社会ニーズ、災害等非常時の立場を考えると、平常時から次のようなことを事業に持たせておかなければなりません

  • 人命保護と事業継続に必要な数日~数週間分の資器材

  • 非常事態発生時における対象要領や手順などの整備

  • 事業資産(人・物・金・情報)の戦略的な使用と補充

  • 従業員への教育・訓練による対処要領等の定着と知識・技術の維持向上

  • 行政機関や他事業者との連携

自分らの事業形態や特性に応じて備えておくもの、構えておく姿勢の細部は異なりますが、戦略的に事に当たることが重要であることは共通しています

これらの戦略や備え、構えのあり方を平常である今のうちから整えることは、事業主や経営陣が行うべきものであり、そのことこそが冒頭に問題提起しました ”何が事業を支えてくれる” の答えとなります

自分らの事業特性や事業を取り巻く状況・環境に応じて ”誰が、何を、何をもって、どうする” を戦略性をもって活動できるように取りまとめて、BCPとして策定し、BCPに基づく教育や訓練を通じて定着させ、状況や環境の変化に応じてBCPを見直しして、さらに体制を整備して定着させるルーチンを地道に繰り返し、平常時の業務に組み込んで行うことが、いざという時の事業の支えとなるわけです


■ 事業継続力強化計画の策定業者としての認定制度(補足)

余談ですが、BCPの策定とともに、中小企業庁が推進する ”事業継続力強化計画” の認定制度というものがあります

災害等の非常事態発生に備え、事業を継続させるための事前対策を ”事業継続力強化計画” というBCPとほぼ同様の計画を策定し、これを中小企業庁に対して申請すると、”事業継続力強化計画認定事業者” として公的な認定を受けることができるという制度です

参考サイト:中小企業庁:事業継続力強化計画

この制度の利点は、認定を受けた中小企業は国の支援(優遇措置)を受けられるとともに、しっかりとした事業戦略・事業計画を持った企業として事業価値のアップにもつながります

  • 金融支援
    日本政策金融公庫から低い貸付利率で設備資金を借りられる
    信用保険の補償枠に別枠を追加できる
    ※ただし、事業継続力強化計画に基づく防災・減災施設や設備の整備に限定されます

  • 優遇税制
    計画に基づいた防災・減災設備の導入に対し、特別償却が可能になります
    償却率は20%で、対象となる設備は以下のとおりです
    ・出典:事業継続力強化計画の策定の手引き(中小企業庁)

  • 補助金等の優遇
    補助金の申請時の加点処置となる(ものづくり補助金など)
    自家用発電設備などの導入事業の補助金の経費の一部補助が得られる制度で、各地方自治体が提供しています
    詳しくは、事業所等が所在する自治体に確認することになります

  • 対外的な信用・信頼の向上
    認定を受けた企業は中小企業庁のHPで企業名・事業者名が公開されます
    また、認定マークのWebサイトや名刺などへの使用が認められます
    これにより、災害等の事態においても信頼性のある企業・事業所として認められることになります

加えて、他企業・他事業所などとの連携関係があり、相手方もBCPと事業継続力強化計画を策定しているのであれば、相手方と連携して ”連携事業継続力強化計画” を策定し、これを申請することで ”連携事業継続力強化計画認定事業者” として両者同時に認定を受けることができます

BCPや事業継続力強化計画を策定したが、事前対策のための設備等の整備に予算がない・補助が欲しいとお考えの場合は、この制度の有効活用をお勧めします


■ まとめ

  • 自分らの事業が被害を受けている場合、誰が自分らを助けてくれるのか
    自分らで行う ”自助” のほかに、同種・同業の他事業者との協力による ”共助” で事業を支える
    ”公助” を待つ間も事業が継続できるようにする

  • 自分らの事業に被害を受けている場合、何が事業を支えてくれるのか
    災害等非常時の事業継続について、戦略を持ち非常時の活動基準としてBCPを策定し、平常時の業務に取り込んで運用させることが事業の支えとなる

介護事業や障害福祉事業は、平常時も非常時も社会ニーズが高く、非常時にはより一層のニーズが高まることが考えられます
しかし、自分らだけで行えることには限りがあり、事業資産にも限りがありますので、非常時だからこそ協力し合える他の事業所等もいるはずですし、行政機関にも自分らの事業の存在と特性を知っていてもらうことも重要です
そういう意味でも、事業主・経営陣は日ごろからのあらゆる方向への関係作りを大切すべきでしょう

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