見出し画像

2つもBCPを作らなければならないのか

介護事業と障害福祉事業のBCP(業務継続計画)について、厚生労働省から2つのガイドラインが公表されています
BCPの策定と運用のバイブル的なものです

2つガイドラインは、想定される事態と被害の様相や程度が異なるので、なかなか策定や運用が難しいと感じることでしょう
また、一つのBCPを策定するだけでも大変なのに、2つもBCPを策定することは無理だと思われることでしょう

そこで今回は、この2つのBCPの策定・運用の考え方についてお話します


2つもBCPを策定しなければならないのか

各ガイドラインでは、想定される事態を特定した上で、方針や体制、手順等の整理などについて解説されています
したがって、想定される被害に対する方針や手順等を具体的に明示するような内容が示されています

新型コロナウィルス感染症と自然災害の発生時のBCP、2つもBCPを策定して運用させなければならないのか?
結論から述べると・・・

「必ずしも細かな事態ごとにBCPを策定する必要はない」・・・です

その理由は、BCPを策定して運用させる目的が一つだからです

不測の事態が発生しても、重要な業務を中断させない又は中断しても可能な限り短い期間で復旧させる

ここで、上記の目的を分解してみます

  • 不測の事態
    何の予測も対策も講じていなかった事態

  • 重要な業務の中断
    中断することで、事業が破たん・存在意義を失うような業務

  • 中断
    続けていた業務が何らかの理由で停止・機能しなくなる状態

不測の事態と呼ばれる個別具体的な事態は、思い付く以上に世の中に存在し、想像できかねると思います
ですが、事業が破たんするほどのインパクトのある被害や中断してはならない業務は特定できるはずです

例えば・・・

  • サービス利用者に応対する職員の人数がたりないため、サービスが提供できない

  • 停電のため、医療機器や介護用機材や動かず、要介護者の介護ができない

  • 施設の損傷が甚大で、サービスを提供する場所がなくなる

  • サービスを提供できないため、利用者がいなくなる

物売り・物作り事業ではない介護事業・障害福祉事業は、対人サービスの提供が可能かどうかがカギとなります
そこで、BCPの策定や運用にあっては、次の順番で考えると整理しやすくなります

  • 対人サービスの提供ができなくなる要素や資源(人・物・金・情報)は何か

  • それらの要素や資源を失うような被害とは

  • その被害を引き起こす事態の種別、規模や度合いは

”あってはならない・起こっては困る” ようなことから考え始めれば、いくつもの事態を思い浮かべることができます
事態の種類が異なっていても、引き起こされる被害などが共通であれば、方針や体制や手順等も共通した考え方ができます

必ずしも細かな事態ごとにBCPを策定・運用させる必要がない理由は、ここにあります

電源喪失という被害は、地震災害でも洪水災害でも起こり、電源という必要資源を失うことには違いはありません
そうなれば、事態の種類にかかわらず、電源喪失時の対策を考えれば良いということになります

職員の必要人員数が欠けるという被害は、自然災害でも新型コロナウィルス感染でも起こり得ます
ということは、事態に関わらず、提供可能なサービスを限定し、最低人員の確保という対策を考えることになります

”2つもBCPを策定しなければならない” という考えではなく
”どのような被害を被っても、事業を破たんさせずに継続できるような共通戦略を策定する”

これが、BCPの本質であり、業務・事業の継続という事業自体の体質・体力なのです

よって、〇〇用BCP、□□用BCPというように事態別に策定しても良いのですが
一つのBCPの中に共通部分と事態別部分に区分して示すといった考えのほうが理にかなっています
なお、書面として示す内容が多いのであれば、あらためて事態別に独立したファイルに綴っておくと良いでしょう


■ 考えるときは、定量的に

さて、色々なことを整理し、考える上で大切なことがあります
”定量的” という言葉と、”定性的” という言葉があります

  • 定量的とは、物事を数字や数量で表し・取扱う考え方です
    例えば、震度6強の地震、8名の負傷者、残りの飲料水が200リッター

  • 定性的とは、物事を数字や数量で表せない・取り扱えない考え方です
    例えば、怖いくらいの大きな揺れ、けが人がいっぱい、飲料水が足りなさそう

どのような事業でも、運営・経営は、常に定量的な思考が必要となります
一方、介護事業や障害福祉事業は、人の感情などの定性的な部分も重視・注視しなければならない事業です
しかし、事業そのものを感情などで定性的に運営・経営していると大変なことになります

BCPも同様に定量的なデータに基づいて整理し、対策なども定量的に考えなければ、使いものになりません
・熱っぽいなどの自覚症状があれば、出勤することなく・・・
・事業主が不在の場合は、所在する職員で・・・
・可能な範囲で速やかに職場に出勤して・・・

人によって捉え方や程度が異なるような示し方は、混乱と錯誤を引き起こします
全てにおいて定量的な示し方とし、どうしてもダメな場合は範囲で示すなど、その判断基準も定量的に示します
・体温が通常よりも2度以上あり、倦怠感やのどの痛みなどの自覚症状がある場合・・・
・事業主が不在の場合の代理権を、第1に〇〇さん、第2に□□さんとする
・自宅や家族に被害がある場合は、出勤せずに自宅待機とし、職場と連絡が取れた際に別途指示する
 被害がない職員は、発災から24時間後の日没前又は日の出後に自動的に出勤する

このように文字や図表で表すBCPにあっては、誰がみても同じ意味が伝わるようにすることが重要です
どうしても人の感情が入りやすい場合は、複数名で定量性を確かめるようにします


■ まとめ

  • 新型コロナウィルス感染症と自然災害の発生に備えたBCPを2つも作らなければならないのか
    必ずしも細かな事態ごと、個別具体的なBCPを策定する必要はない
    引き起こされる被害などが共通であれば、方針や体制や手順等も共通した考え方で策定する

  • 考えるときは、定量的に考えて示すようにする
    事業の運営・経営もBCPも、常に定量的な思考が必要
    感情移入がありそうなら、複数名で定量性を確かめるようにする


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?