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無頼派寿司職人の最後


大将に言わせると「ポンコツ」な店構え

この店は何年続いたのだろうか。「わからんばい」と大将は笑う。仕事をやめて悠々自適なんだろ?と言うと、「気力も体力もなかばってん。もうそろそろええかな。あとは飲んで死ぬだけやが」と笑いながら言った。僕はこの寿司屋、いや大将が大好きだった。ハードボイルド系、いや無頼派寿司職人なのだ。遊ぶために働く、飲むために握る。そんな感じなのだ。種子島に渡ると必ずこの店で大将を相手に、延々飲む。寿司屋なのに寿司をつまむことなく延々飲む。やがて店はまったくダメな人間の集まりになる。馴染みの客で自然発生的にできた「ダメンズ」の名誉会長に祭り上げられた。

酔いが浅い時は握る姿も凛々しい

折り紙つきの愛すべきダメなのだ。5時開店で7時にはもう自らカウンターに座りお湯割りを飲る。客が何か注文すると、いやはや面倒くさそうに寿司を握る。そのうち酔っ払ってカウンターに突っ伏して寝る。ダメな客はそんな大将の後ろ姿をつまみにさらに飲んだものだ。目が覚めると店を閉めてスナックを渡り歩く。「ちゃんと仕事しなさいよ」と笑いながら女将は言うが大将はまったく意に介さない。「寿司職人ちゃあそんなもんばい」と。

客には優しいが大将には厳しい女将

5月27日惜しまれながら暖簾を仕舞った。女将によると大将は25日から仕事にならなかったらしい。きっとさみしかったに違いない。最後にもう一度大将の寿司が食べたいという客は多かったそうだ。が、大将は取り合わなかった。「最後くらいゆっくりさせろ」と。さすが無頼派だ。でも、握らなかったのか握れなかったのか、ほんとうのところはわからない。無頼派らしい最後だ。

午後7時までにはカウンターに座る

好きな店がまたひとつ閉まった、さみしいと嘆く客は多い。だが本当にさみしがっているのは大将と、それがわかる女将なのだろう。無頼派と呼ばれる寿司職人は大将で最後だな。そう思った。
ありがとう、大将、女将! 元気で!

人生を感じさせる背中だ

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