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何のために、誰のために


獲れたてのしらすは釜茹でにされおばちゃんたちの手で天日干しにされる

川内原発を見た後、久々に久見崎浜の茶屋へ。
川内の海で獲れた魚で海鮮丼を食べた。
食べたかったのはしらす丼だったンだけど、「やってないんですよ」と。
季節が違うのかとたずねたら、今時分普通なら出しているのだが、昨年の秋不漁だったそうだ。
すぐそばに川内川が東シナ海に注ぎ込む河口がある。河口のそばに立つとそれはもう入江か湾かと思うほどの広さだ。その日の河口は時化ていた。店の窓から河口に押し寄せる白波が見える。
「なんでも水温が高いンだって。ちょっとしか獲れなかった……」と女将。
「地球がおかしくなっちゃたのかなあ」とぼく。
「人間がこれだけおかしいンだから、地球だっておかしくなるよ」
そう言って女将は力なく笑った。
じゃあ、とぼくは海鮮丼を頼んだのだ。
しらす丼にありつけなかったのは残念だが、海鮮丼だってそこいらの海鮮丼とはわけが違う。ボリューム満点の海鮮丼にあら汁、アジフライまで付いている。
「せっかくこんなとこまで足を運んでもらうンだから、とにかく満足してもらいたい」
今度は明るく胸を張って笑う女将。

浜の茶屋を出て海岸に下りると原発建屋はすぐそこだ

1キロ先では2基の原発が水を沸騰させている。その水をこの海に放出している。水温が高いのはそのせいじゃないのか……。だがそんなこと女将を前に触れられるわけないじゃないかと思う。
その海で獲れた魚を、ぼくは頬張る。
原発の安全性を信頼しているわけではない。
ここで生きていこうとする女将のような人たちに、シンパシーを抱いているだけだ。大げさに言うと、そういう人たちと連帯したいと。原発が出来る前から、ここで生きてきた人たちに思いを寄せたいと。
だが今3基目を建てる準備が進んでいる。集落の様相も激変している。ひろがっていた休耕地は整地され原発の入り口に直結する道路が敷かれた。地元の人々の暮らしとはかけ離れた風景になった。
いったい何のために。誰のために。
ぼくには理解できない。

これがうまい!


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