[対談企画]開院3年目を迎えるにあたって ー大塚貴博院長に伺いましたー
2023年10月1日に、埼玉県熊谷市大麻生にて開院2周年を迎える大塚医院ファミリークリニックの大塚貴博院長に、この2年間の歩みと開院3年目を迎えるにあたっての今だからこそ語れる想いを伺ってみました。
インタビュアは、株式会社みやび&カンパニーの藤井雅巳が務めさせていただきます。
-この2年間を振り返っていかがでしたか?
大塚貴博先生(以下「大塚」):2021年10月に開院して以降、クリニックの運営は、新型コロナウィルスがその中心にあったと言っても過言ではないと言えます。第6波から第9波の計4回の波を経験していますが、波を経験するごとにクリニックとしては、一つ一つ階段を昇っているような印象がありますね。
-その中でも特に印象に残っていることと言えば?
大塚:とくに印象に残っている場面は、一番最初の第7波です。開院して間もなく2022年の年明けにやってきたコロナの波では、スタッフ内でコロナに感染者や体調不良者が出て、まだオペレーションが十分確立していない時期に、人数が少ない中でもなんとか綱渡りでも診療には穴を空けずに続けてきたという自負があります。
「地域に暮らす総ての人々の、安心と生活を支える」を理念として掲げていますが、安心と生活を支えるということは、自分の中では大切にしてきています。
-まさしく、理念を体現されていると感じますよね。
大塚:だから、発熱外来は開院当初から力を入れてきました。特にコロナの波がピークのとき、どこにも診てもらえないという問い合わせがとても多かったことを覚えています。遠くは、所沢や川口のようなところから受診しに来ている人もいたことから、地域の医療提供が極限の状態であるときに、自分たちがどこまでできるかにこそ、クリニックの本当の価値があると信じてとりくんできました。
大塚医院ファミリークリニックの仲間たち
-理念をチームとして体現していくために、大塚医院ファミリークリニックでは、先生がとてもチームづくりを大切にされていると感じています。
大塚:当院では、クリニックの理念を体現し、診療コンセプトをみなで実現するために、チーム全体でのオフサイトミーティングを定期的に行っています。
オフサイトミーティングでは、それぞれのメンバーが互いのことを知り、互いの得意なことや苦手なことなどを共有したうえで、どうやってサポートし合えるかを確認をしたりしました。
-オフサイトミーティングなども通じたチーム作りは、どのような場面で生かされているのでしょうか?
大塚:何度か経験してきたコロナの波の中で、極限の中でも多くの患者さんを診てきた共通体験は、このクリニックの強みとして、スタッフ一人ひとりにも浸透してきていると感じています。どんなに大変な状況であっても、いやな顔をせずに対応してくれていることは本当に素晴らしいこと。
ありがたいことに、患者さんからも褒めていただくことも多くあり、私たちのエネルギーになっています。
-先生から見て、クリニックのチームの雰囲気などはいかがでしょうか?
大塚:クリニックの中の雰囲気は、とても意見を交わしやすいものだと自負しています。例えば、発熱外来の対応は、はじめは、院外でガウンをきて対応していましたが、現在は、感染対策などをした上で診察室に入って対応できるように工夫をしてきています。
このように、これらはスタッフの声を聴きながらオペレーションを作ってきており、スタッフのみんなもこのようにアイデアを出してくれる方が本当に多いと感じています。
-大塚医院ファミリークリニックの特長は何と言っても診療棟とコミュニティ棟の存在だと思います。どんな願いからこのような施設になったのでしょうか?
大塚:施設をデザインするうえで特にこだわったものの一つが、コミュニティスペースの存在です。出来るだけ、地域の皆さんに病気の有無に関わらず使っていただき、診療所を身近な場所にしてほしいという願いから生まれてきました。
現在の用途としては、診療時間帯の発熱患者さんの待機場所として活用しています。これもスタッフの発案ではじまったものの一つで、現在も9波の真っただ中ですが、暑い中での車内待機なども厳しい時期でもあり、患者さんの負担を軽減しようとはじまりました。
コロナ禍ではないときは、ふらっと立ち寄れるスペースとして、診察時の問診だけでは聞くことができない外来患者さんの話を聞くなどの利用の仕方で活用して来ました。そのときどきの状況によって利用の用途を変えたりしています。
-コミュニティスペースでは具体的にその他どのような利用を予定されていますか?
大塚:現在、相談を受けているのは、ベビーマッサージのサークル活動でコミュニティスペースの場所を使うことが出来ないかというものです。
また、自主的に地域の多職種を集めた勉強会を2カ月に1回継続的に行っています。毎回10~20名くらいの方が参加してくださっています。これまでは、薬剤師さんにポリファーマシーについて話していただいたり、歯科の先生に訪問歯科の話などをしていただいたり。困難事例のケーススタディなども行いました。和気あいあいと楽しくやっています。
ますます診療を拡充するためにもスタッフは継続募集中
-これからの大塚医院ファミリークリニックのチームはどうなっていくのでしょうか?
大塚:約2年間やってきてあらためて実感するのは、プライマリ・ケアの分野で本当に様々なニーズがあるということです。患者層は年齢性別ごとに制限していないので、本当にバライエティに富んでいますね。
足りないことはたくさんあると実感していますが、ただ診療をこなすのではなく、患者さんを継続的に診ていくことを強みにして、患者さんのことをより深く理解し、必要な支援を行って患者さんの心と体両面のケアができればと思います。
ただ、どうしても、医師の診療だけでは患者さん一人あたりに割ける時間が限られてしまうので、多職種とともに進めていきたいです。
-具体的にはどのような多職種が活躍しているのでしょうか?
大塚:例えば、当院では、看護師に診察前の予診をとってもらっています。バイタルをとって、簡単な問診を行ってもらっています。単なる診療の助手のような業務ではなく、患者さんの様々なニーズに耳を傾ける。それが私の診察にも大いに役立ちます。
だから、そのようなことにも積極的に対応していきたい看護師さんには、ぜひ当院で一緒に関わってほしいと考えています。
-今後の診療体制はどのような構想がありますか?
大塚:また、医師の体制も拡充し、診療体制もさらに拡充していきたいと将来的には考えています。あらゆるプライマリ・ケアニーズに対応するためには、私以外にもドクターがいればより質の高い診療ができるようになるはずです。
私自身も、この地に長く住み続けることで、地域医療をやっていく意味が本当のところ少しずつ解ってきたような気がしています。同じ場所で、生活もしながら長くずっとやっていくことで、学べることや気が付くことが沢山あるのではないかと考えています。その意味では、熊谷は、よいフィールドです。熊谷という場所で、プライマリ・ケアをやりたい人と一緒にやっていきたいと願っています。
熊谷に戻る前、大学にいた頃は教員として教育にも関わっていました。一緒に学んでいけるような方であれば、年齢や経験などは特に問いません。ぜひ、ドアをノックしてみてほしいと思います。
最後に、これだけは伝えたい
-お話を伺って、本当にコロナ禍という地域医療の試練の時期に開業され、とても強くしなやかなチーム作りに取り組まれ、これからの地域を支えて行ってほしいなと感じました。何か他に伝えたいことなどありますか?
大塚:3年目を迎えるにあたり、これまでのことや、これからのことなどもお話しさせていただきましたが、あらためてこれは伝えておきたいということがあります。
それは、この地域で「総合診療」を提供するということです。私は、総合診療の専門医としてトレーニングを受けて来ましたので、診療のクオリティを担保するということにおいて、とても拘りを持っています。経験則だけでなくエビデンスで課題解決していくことだったり、丁寧に多職種と共に追及していくようなスタイルこそが、当院の強みになっていくと確信しています。
おかげさまで、コロナを経験することに、患者さんもたくさん来てくれるようになっているため、患者さんが増えれば増えるほど、様々な健康問題などにも出会い、総合診療を提供するクリニックとしての「やりがい」は高まっています。
-ますます、総合診療の専門医が地域で求められているということですよね。
大塚:そうですね。そして、もう一つ大事にしていることは、「地域活動」です。
地域全体でみると、熊谷は医療体制が充実しているとは言いがたい地域です。医療資源の不足はずっと前から指摘されていますが、これから10年、20年、30年先を考えた時に、地域の医療提供体制がどうなるのか、どうあるべきなのか、当事者として考えていかなくてはいけないと思っています。
-大塚医院ファミリークリニックとして、役割を果たすためには、地域全体を見ていく必要があるということですね。
大塚:そのような観点で、医師会の役割があらためて重要になってくるのではないかと考えています。医師会は、行政から医療から保健福祉に関わるあらゆる事業を委託され、地域の公衆衛生向上に寄与してきました。医師会が、地域の生活インフラとも密接に結びついていて、医師会の活動は地域の医療にとって、もっと言うと街にとっても、必要不可欠な存在であることを実感しています。
-医師会とは、本当に地域のインフラを支える役割を担っているのですね。
大塚:そうなんです。でも、医師会も新規会員の不足や会員の高齢化などで今までできていたことが十分できなくなってきています。医療提供体制が不安定になれば、地域力の低下にも繋がりかねません。
私たち地域の医療者が切磋琢磨しながら地域の医療を担保していくということで、地域の活性化が実現されていく。医療者が切磋琢磨を続けていかなければ、地域医療の質を維持するだけでも簡単なことではないので、ましてや、高めて行くことなどはできないと考えています。
-最後に3年目に向けた抱負をお聞かせいただけますか?
大塚:開業し2年間が経ち、だいぶ診療にも慣れてきた時期でもあります。だからこそ、丁寧に、慢心せずにやっていきたいと思っています。今までやってきたことの繰り返しですが、それを一層丁寧に続けていくことを何よりも大切にしていきたいです。
私は、開業医として5代目に当たります。はじめはその重みに押しつぶされそうでしたが、最近はその重みを感じつつも「大塚貴博だからできること」を意識するようになりました。
-その小さな変化の兆しは、何がそうさせたのでしょうか?
大塚:開業医として、そこに収まるような方向ではなく、その中でもいろいろ視点を持ちながら模索しはじめることができはじめたからかもしれません。
世の中の流れや地域の流れなどを見ると、「安泰」とは実は「安泰ではない」ことに気が付かされます。今までずっと大麻生の地でやり続けられることは、もしかしたら「奇跡」なのかもしれない。先代の人たちは想像もできないような苦労を経験しながら、守ってきたのかもしれません。
だから、その伝統を守りつつ、新しいことにも興味関心をもって向き合って行くことに、これまで一緒に切磋琢磨してきた人たちから教わり鍛えられてきました。
-これまで大塚先生が身を置いてきた環境がそうさせたのですね。
大塚:もともとは、どちらかというとのんびりでアクティブに動くタイプではなかったかもしれません。それでも、これから開業3年目を迎えるにあたり、自分自身のアンテナを高く持ち続けるように心がけていきたいと思います。
-これまでの想い、伺うことが出来て心が温かくなりました。今日は本当にありがとうございました。これからの益々の大塚医院ファミリークリニックのご活躍を楽しみにしています。
2023年9月
話し手:大塚医院ファミリークリニック 院長 大塚貴博 先生
聞き手:株式会社みやび&カンパニー 代表取締役 藤井 雅巳
数々の医療機関の再生や承継支援を手掛け、地域包括ケアのアドバイザーなどを全国の地域で担っている。米国公認会計士。
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