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石川県ジュニアオーケストラ第30回記念定期演奏会(2024年3月24日)

2023年3月24日 (日) 14:00~石川県立音楽堂コンサートホール
芥川也寸志/Do Re Mi Fa Sol La Si Do!
池辺晋一郎/星をかぞえる
ハチャトゥリアン/「スパルタクス」第2組曲~スパルタクスとフリーギアのアダージョ
ケテルビー/ペルシャの市場にて
ベートーヴェン/交響曲第5番ハ短調op.67「運命」
(アンコール)芥川也寸志/Do Re Mi Fa Sol La Si Do!
●演奏
松井慶太指揮石川県ジュニアオーケストラ

3月末恒例の石川県ジュニアオーケストラの定期演奏会を聞いてきました。今年は30回記念演奏会ということで,ベートーヴェンの交響曲第5番を中心とした堂々プログラム。松井慶太さんの指揮の下,一年間の成果がしっかりと発揮された充実した演奏を聴かせてくれました。

前半のプログラムは芥川也寸志,池辺晋一郎,ハチャトゥリアンの作品など,楽しく,美しく,新鮮な響きのする曲が選ばれていました。

2階席までしか使っていませんでしたが,
大勢のお客さん(家族連れが多かったですね)が入っていました。

最初に演奏されたのは芥川也寸志作曲の「Do Re Mi Fa Sol La Si Do!」。その名のとおり音階をベースにした曲で,とても爽やかで分かりやすい作品でした。音階(スケール)を色々なパターンで繰り返すうちにスケールアップしていくといった感じの曲で,オーケストラ音楽の世界に入っていくための絶好の導入になっていました。

池辺晋一郎作曲の「星を数える」という曲は,オーケストラの各楽器を星に見立てた曲で,各パートのソロが次々と出てくる「オーケストラのための小協奏曲」といった曲でした。曲の雰囲気としては,武満徹の曲に通じるようなちょっと変わっているけれども,ミステリアスな雰囲気を持った多彩な音が出てきました。オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)が演奏しても面白そうなぐらいの,ちょっと大人っぽい雰囲気を持った曲をとても魅力的に聴かせてくれました。

続いて演奏されたハチャトゥリアン「スパルタクス」組曲中のスパルタクスとフリーギアのアダージョは,ハチャトゥリアンらしく大変分かりやすい音楽でした。途中に出てくる甘くロマンティクな雰囲気の部分では,オーボエがしっかりとしたソロを聴かせてくれました。清らかさのある弦楽器の響きも美しいと思いました。後半では,金管楽器のファンファーレの後,打楽器が活躍し,コンサートマスターのソロも登場。それほど長くは無いけれども,色々な要素の詰まった充実感のある演奏でした。

前半最後は,昔懐かしのケテルビー作曲「ペルシャの市場にて」。私の世代では,小学校の音楽の時間に聴く定番曲でしたが,今でも同様でしょうか。曲の最初の部分から出てくる,エキゾティックな鳴り物(中型の太鼓?)の音も楽しかったし,王女のテーマのチェロのゆったりした歌わせ方もよかったと思いました。このチェロの演奏するメロディを聞きながら,「スパルタクス」に出てきたロマンティックなメロディと「結構似ているかも」と思いました(指揮の松井さんが曲間のトークで「全然違う曲だけれども,似た部分もある」と語っていましたが,確かにそのとおりだと思いました。)。

後半に演奏された,ベートーヴェンの交響曲第5番は,全曲演奏というだけでも素晴らしかったのですが,第1楽章に加え第4楽章の繰り返しも行っており,大編成を生かした大交響曲になっていました。ちなみにこの日の編成ですが,ホルン,フルート,トランペットなどは「4管編成以上」,クラリネットは2人だけという感じでつきバラツキがありました。が全体のバランスは悪くなく,勢いのある音楽を安心して楽しむことができました。

第1楽章冒頭の「運命」のモチーフはビシッと揃い,スムーズに音楽が進んで行きました。第2主題の導入部はホルンで演奏されますが,上記のとおり大編成が生きており,スケール感たっぷりの豊かな音楽になっていました。終盤に出てくるオーボエのカデンツァの部分もとてもきれいでした。

第2楽章はヴィオラ以下の低弦で開始。この部分も美しかったですね。トランペットのファンファーレの部分も大人数を生かし余裕たっぷりの音楽。木管楽器各パートの音もくっきりと聞こえ,ゆったりと楽しむことができました。

第3楽章はコントラバスで始まった後,ホルンのくっきりとした音が続きました。コントラバスの速い動きが出てくる見せ場も見事に決まっていました。やはり「1年をかけた練習」は素晴らしいな,と思いました。楽章の最後の方の弱音のピチカートも美しかったですね。

そこから明転する第4楽章の導入部も大編成を生かした余裕の開始。弦楽器ものびのびと歌っていました。上述のとおり呈示部の繰り返しも起こっており,大編成による巨大な交響曲といった趣きがありました。トロンボーンやトランペットによる輝きのある音も音楽を大きく盛り上げていました。コントラ・ファゴットはいつもどおり,元OEKの柳浦さんが担当されていましたが,この楽器を始め,色々な音がフッと聞こえて来たりして,思わぬ発見がありました。コーダの部分では,トランペットによる勝利を確信したような音が良いなと思いました。

というわけで全曲を通じて,弛緩することのない正統的な曲作りで,立派な「運命」を聴いた,という実感が残りました。

アンコールでは,プログラム最初に演奏された芥川さんの「Do Re Mi...」がお客さんの参加版で演奏されました(1曲目が伏線になっていたのですね)。松井さんから,まずこの曲の構造について,「最初はドーレーミー...と4拍子と歌い,次に3拍子で歌い...」といった説明がありました。ちょっと難しそうかなと思いましたが,実際に歌ってみるとそんなに難しくなく,音階の動きが最後倍速になっていく感じなど結構楽しかったですね(欲を言えば,1回発声練習をさせえもらえたら,もっと大きい声が出たのではと思いました)。というわけで,「ただ聞いているよりも,演奏した方が楽しい」ということが分かる「巧いアンコール」でした。

30回目の定期演奏会に相応しく,「オーケストラに興味を持っ子どもたちもきっと増えたのでは」と思わせる充実感のある演奏会でした。

PS. 芥川さん作曲の音階をモチーフにした作品は,かつてのNHK音楽番組「音楽の広場」で初演されたと解説に書かれていました。この番組の中で「美しいメロディの基礎は音階である」と芥川さんが語っていたのも私も何となく覚えています(1980年代だったと思いますが)。その時,ほとんど音階だけでできている曲の例として挙げていたのが,チャイコフスキーのバレエ音楽「くるみ割り人形」の中のアダージョ(バレエ全曲だと「金平糖の精の踊り」も含まれるパ・ド・ドゥの音楽)でした。「ドーシラソファミレド」と演奏しているだけなのに感動的という曲の良い例ですね。

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